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桃太郎-recast-  作者: 星乃光
龍淵に潜む
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気まずい顔

 鬼ヶ島にある集落がエドワードのせいで大火に見舞われている頃


 桃太郎と青雲はそれぞれが別々の場所で着実に準備をしていた

 桃太郎は鬼が頻繁に利用している大きな港に

 青雲は鬼ヶ島の裏口的な入江にいた


 そして、そこで大きな事件が起きていた

 正確には、桃太郎が大きな事件を起こした


 一言で言うなら、二つの爆発が起きたのだ


 民家が燃え盛る音にかき消され、集落で戦っていた武蔵の耳をもってしても聞こえはしなかったそれは、けれど間違いなく起こっていたのだ





 最初の爆発は青雲が隠れていた虫谷の入江で起きた

 もちろん、引き金は青雲である


 虫谷の入江は鬼たちの裏口的な港


 多くの鬼にすら秘匿されており、左右が岩壁に挟まれ狭窄した構造をしている

 実際、青雲と伯智もここを見つけるのに手こずっていた


 だが、それが逆に仇となる


 桃太郎と青雲はエドワードから1発ずつ爆弾を譲り受けていた

 港を破壊するための爆弾


 数の都合上、互いに1発しかもらうことはできなかったが、1発でも十分な威力のある爆弾

 大きな港を壊せる代物ではないが、崖を崩落させるくらいは簡単にできる



 虫谷の入江は鬼たちの裏口となる秘匿された港である

 規模もさほど大きくはない

 だからこそ、青雲はエドワードに渡された1発の爆弾で容易に破壊する


 1発の爆発は、周囲の崖を崩落させる


 ボンッと1発音がした

 直後ガラガラと大きな音を立てながら崖が崩れていく


 入江は忽ち大きな岩で埋め尽くされる

 たったそれだけで、その小さな入江は使用不能になった





 崖が崩落している最中(さなか)、爆発を引き起こした張本人である青雲は全力で船を漕いでいた


 ギャグかと思うほどドタバトと

 にも関わらず、その怪力のせいでおかしな速度で


 崩落する岩に巻き込まれないために

 崩落により発生した津波から逃げるように


 青雲は虫谷の入江に置かれていた船を盗みその場を離脱した


 崩壊する入江を尻目に海岸を経由し、桃太郎の待つ大きな港『小木港』へと移動した

 桃太郎と合流する頃には、青雲は肩で息をしていた








 青雲が海に出て少しした頃

 1匹の鬼が虫谷の入江に足を運んだ


 その者は黒い体表を持つ鬼だった

 それがわざわざ自らここに来たのはただの気まぐれである


 崩壊した岩山、岩壁、土埃舞う空


 いつもとは全く異なる景色の中で、その黒鬼は笑っていた


 土臭い匂いの奥に微かではあるが火薬の匂いがした

 それが意味することは、何十年ぶりかの客人がきたということである


 前回はいつだったか

 奴は頬に特徴的な傷跡を持つ男だった


 あの時は、幾つもの想定外が重なった

 思えば、あの時が、あの瞬間が最も悔しく、屈辱的で、けれど暇ではなかった様に感じる


 その黒鬼はゆっくりと振り返り、来た道を帰っていった

 暇潰し相手に微かな期待をして








 それから少しして、青雲は桃太郎と合流した


「兄貴!俺やってやりましたよ

 向こうの入江はもう使えないっす


 次はこの桟橋でいいっすか?」



 久々の大仕事に少し浮かれ気味の青雲が、ちょうど今降り立った木製の桟橋を指差す

 木製とはいえ、ある程度の大きさと耐久性がありそうに見える


 綺麗に壊す必要はないが、桟橋の端から順に人が降りられない程度に壊す

 日の本から新手の鬼が上陸しにくくするために

 それには、青雲の驚異の馬鹿力が最適である


「頼む。ここは任せてもいいか?」

 桃太郎の顔は次の仕事を見据えている


「もちろんっす」

 青雲が快諾する


 桃太郎は、青雲に拳を突き出し、親指を突き立てた

 俗にいうサムズアップ

 青雲にここは任せたと言う意思を伝えるために


 対する青雲は桃太郎のの拳に自分の拳を合わせた

 そう、グータッチをした


 してしまった

 した直後、親指が立っていることに気がついた



 …………



 微妙に気まずい空気が流れる

 お互い少し驚いた顔になり、時間が止まった


 5秒くらい繋がっている拳を見ていた

 けれど気まずさを残したまま、時間は動き出す


 それを誤魔化すかの様に、桃太郎は走った

 かなり早く走った


 青雲の方を振り返ることはない

 気まずくてそんなこと出来そうにない


 桃太郎は走りながら小さく吹き出した

 同じ頃、青雲も同様に笑っていた


 決戦直前にも関わらず、その微妙な空気が……お互いの気まずそうな顔が面白かった

 まさに豆鉄砲を喰らった顔だった


 幸いにも決戦前に二人の肩の力がうまく抜けた








 桃太郎は、海から離れ山の方向へと向かう


 エドワードからもらった爆弾はたった1発

 威力はあれど、それだけではこの広い港を壊すことはできない



 そこで港を爆弾で破壊することを諦めた


 代わりに別の場所を破壊する

 その場所へと桃太郎は走った



 桃太郎は海とは逆方向の山へ向けて走る

 小さな川を横目に……


 目的地は港につながる小さな川の上流にある

 たどり着いたのは、そんなに大きくもない池


 池自体は大きくはなくとも、貯蔵されている水量は十分


 桃太郎はその池と小川が繋がるダムの様になっている箇所を爆破した


 爆弾で港を破壊するのでは不十分でも、この池の水が全て一度に押し寄せれば、港の南側には十分な被害を与えられる


 港を完全に機能不全に陥れることはできなくとも、『港』と『鬼の根城』を分断することができる

 大回りすれば援軍はたどり着くが、それ相応の時間稼ぎはできることだろう


 あとは、鬼ヶ島の外から鬼の援軍が届く前に桃太郎が黒鬼を討伐すればいい




 ここからは時間との勝負である


 桃太郎は性善房に向けて駆け出す

 途中、桟橋を破壊し終えた青雲が合流する


 背後では鉄砲水の如く流れ出した川が港を食い喰い尽くす音が聞こえる

 しかし、桃太郎は振り返ることなく走った


 桃太郎と青雲はもう決意を決めた顔をしている


 そして桃太郎達はついに辿り着いた


 鬼の本拠地

 その入り口である性善房に



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