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桃太郎-recast-  作者: 星乃光
龍淵に潜む
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集落決戦終着

 (こん)の背後で民家が火柱を建て、黒い煙を巻き上げながら燃えている

 その鬼の目の前には2匹の獣

 じっくりとこちらを見据え、虎視眈々と命を狙う獣


 20体に迫るほどの数がいた鬼達も、もう他に誰もいない

 残るは自分だけ


 たった1人の人間と、2匹の動物にここまでやられた

 しかも、人間に至っては今だに顔すらわからない


 鬼から見ても異常なほど不気味な人間だ


 その不気味な存在はずっと身を隠していた

 常に警戒し続けた状態で戦わねばならなかった


 全くもって、やり難くて敵わない

 いい加減、目の前の2匹の獣にだけ集中させてほしい




「やれやれだ……めんどくせぇったりゃありゃしねぇ」

 青鬼からしても、それは十分に愚痴りたくなる状況だ


 鬼に不気味と思われる人間などいてたまるか

 姿すら見せぬとは、もはや人間ではなく幽霊か何かだろ

 怪異の類と言われた方がしっくりくる


 それと、こんな犬や雉がこの世にいてたまるか

 そう言いたい

 声を大にして叫びたい



 人間を圧倒する鬼を……

 この世の悪の象徴たる我ら鬼を圧倒できる獣など


 もはや、その獣達が化け物ではないか

 鬼よりよっぽど化け物だ


「はぁ……めんどくせぇ」


 なんでそんな化け物どもが、わざわざ(化け物)の巣窟に攻め込んでくるのか

 他に行くべきだろ

 揃いも揃って暇なのか?



 こんだけ戦って

 数の有利も、地の利も、武器の有利も全て取った上で、ようやく雉1匹

 割に合わねぇ


 まだ、犬は元気だ

 雉も雉で離脱してくれる気はないらしい


 少なくとも雉の目はそう言っている


 黒鬼からの命令じゃなければ絶対こんなことしていない

 とっとと逃げている

 こんなにもめんどくさい奴ら、関わりたくもねぇ



 状況が状況だ

 俺以外の四天王が残ってくれていれば押し付けたのに


 これでは逃げることも言い逃れもできない


 何よりも、全力を出さなければいけないことが心底…………

「めんどくせぇ」



 黒菊が海上で上がっていた

 あれは、我らの持ち物だ


 誰が盗んだのか

 それくらいのこと簡単にわかる

 名前も顔も知らぬ弓使いの人間だ


 あの不気味な人間だ

 最もめんどくさい人間だ



 つまり、奴は海上にいる

 もう全方位から狙撃を警戒する必要はない


 (こん)の頬がわずかに上がる

「これだけはめんどくさくねぇ」



 その青鬼は、刀を鞘にしまい腰を低く落とす

 それは居合の構え

 それこそが、(こん)が最強であると言われる所以


 黒鬼にすら届き得る剣技


 全ての攻撃に対応し、完璧にカウンターを決める抜刀術

 世界最速の居合

 世界最強のタイマン技










 伯智は理解していた

 自分の傷が深いことに

 休憩を挟まなければ、戦いに復帰できない程度には深いことを


 おそらく思うように飛ぶことすらできない

 虚勢を張ってはいるがそれも鬼に対してどこまで有用かわからない



 実際、羽の付け根にある羽ばたくために必要な腱がやられていた

 伯智の回復力を持ってしてもすぐに翔けるほどのものではなかった


 そして何よりも致命的なこと


 伯智の技量では(こん)には勝てないということ

 たとえ万全な状態だったとしても


 そして、(こん)の妖刀に切られれば伯智は消耗し、(こん)は回復する

 つまり、現状伯智はただの足手まといだった


 そのことを誰よりも伯智が一番理解していた





 武蔵は(こん)を警戒し、じっと見据えている

 伯智はゆっくりと武蔵に近寄る


 怪我のせいで飛行ができないのが不便でままならない

 少し不恰好にトコトコと歩く


 近寄り、隣に立ち、そのまま武蔵の背中に乗る

 身を屈め、羽を畳みできるだけ抵抗のかからない体勢になった



 武蔵は何も言わず、じっと終わるのを待っていた


 伯智の準備ができた時、少しだけ小声で会話した

 (こん)には2匹が話し合っているのはわかったが、内容までは聞き取れない


 その会話は、本当に僅かなキャッチボールで終わった


 直後、武蔵が駆け出した

 その足は、伯智に気を遣っているせいで音速には届いていなかった







 青鬼は武蔵が向かってくるのを待った

 次で確実に決める自信があった


 しかし、背中に伯智を乗せた武蔵は青鬼にとって予想外の行動をした

 突如として(こん)に背を向け駆け出した


 2匹の背後には湖しかない

 その湖に向かって武蔵は走った

 無様に逃げる敗残兵のように


 2匹は少しずつ着実に加速していく


 もうすぐ、湖に着くという時に伯智が羽を広げた

 遠目に見れば、とても歪なペガサスのようにも見えたことだろう



 そしてそのまま、武蔵と伯智は湖の上を駆け抜けていった


 武蔵一人では水上を走れても方向転換がままならない

 一方、伯智は現状飛行ができない

 けれど、羽を広げ方向転換の補助をするくらいはなんとかなる


 2匹が力を合わせ、水上をかける

 左右に大きく水飛沫を跳ね上げながら


 気づけばどんどんと青鬼から離れていった

 2匹が対岸にたどり着くのに大した時間はかからなかった


 青鬼からしたら、ただの小さな黒い点だ


 その小さな点が飛んだ

 飛び上がり、左に旋回して少しずつ高度を落としながら、青鬼の視界から消えた




 (こん)は現状を飲み込むことができずに、呆然とする

 ようやく本気で相手をする覚悟を決めた瞬間に、逃げられた


 いや、誘われているのだろうか?

 だが乗ってあげる義理も理由もない


 かと言って、そう簡単に油断できる敵でもない

 武蔵の速度を考えれば、気を抜けない


 5分ほど知覚に集中し敵襲に備える


 しかし、何も起こらない

 ただ波と風の音が流れている


 2匹の獣の姿も見えない

 青鬼はゆっくりと刀を鞘から抜く


 居合の型を解く


 その銀に煌めく刀身を持ち替え、自らの首に押し当てる

 研ぎ澄まされた刀の切れ味が、首に触れただけで血を滲ませる


 一滴の鬼の血液が刃を伝い、地面へと滴った

 青鬼は何の躊躇いも、感情も見せずに刀が引き抜いた



 …………後には、銀色に染まった地面だけが残っていた









 湖の上をかける武蔵の背中で羽を広げながら伯智は思慮を巡らせる

 次に起こりうる最悪の展開について


 一番困るのは、青鬼が伯智を追いかけてくる展開だ


 伯智はどう足掻いても(こん)に勝つ術がない

 できることといえば、飛び回って逃げ続けることだが、今はそれすらできない


 つまり、戦いになれば必ず伯智が負ける

 武蔵の援護があったとしても負ける

 間違いなく殺される


 逃げるにしても一度あの青鬼を巻く必要がある

 そうすれば、治療ができる


 桃太郎一行が初めて鬼ヶ島に降り立った神社

 あの津神神社に最低限の治療道具が隠してある


 本当に最低限だが、無いよりずっといい



 逆に一番嬉しい展開は逃げ回っている武蔵と伯智をあの青鬼が探し回ってくれことだ

 探し回ってできることなら、丸一日くらい無駄にしてほしい


 忘れがちだが、あくまで2匹の仕事は陽動だ


 (こん)程の強敵に無駄足を踏ませることができれば大金星と言える


 倒しきれなかったことには悔いが残るが、三苗(さんびょう)を倒せたので手打ちとしよう

 だが、そのためには囮がいる

 あの青鬼を釣れるほどの餌が


 今一番いい餌は、間違いなく伯智だろう



 武蔵は湖上を走り、あっという間に対岸へと渡り切る

 その速度は十分に早い

 風が読める者からしたら十分飛翔できるほどに


 おかげで伯智は少しだけ飛ぶことができた


 正確には、武蔵の加速を使ってまだ動かせる方の羽だけで滑空ができた

 まるで紙飛行機のように

 羽ばたくことなく伯智は舞い上がった


 さらにそのまま、左へと旋回する

 津神神社とは逆方向へと


 地面では、武蔵が伯智の下を走っている

 定期的に伯智の位置を確認するために上をちらちら見ながら



 羽ばたくことのできない伯智の高度がだんだんと低下する

 やがて、伯智は武蔵の背中に着地した




 背中に伯智が着地したことを確認した武蔵は踵を返す

 あえて鬼に見えるように陽動をした

 あとは祈るだけ


 伯智を治療するために、神社に向けて武蔵は駆け出した

 そして2匹して願った


 どうか、あの青鬼が釣られてくれますようにと



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