集落決戦11
突如として伯智の眼前に首を切られた青鬼が瞬間移動した
それはただの脊髄反射
頭がついていない青鬼に、思考能力などない
直に死にゆく驩兜の最後の悪あがき
鶏が首を跳ね飛ばされても数歩歩くように、その青鬼は脳が発した雉と戦うと言う命令を脊髄が反射的に履行した
ただそれだけ
それでも、伯智の虚をついた
驩兜にはもう、瞬間移動はできないと思っていた
伯智にとって、空は安全地帯のはずだった
三苗が放つ飛ぶ斬撃以外、自分に届く攻撃はない
その飛ぶ斬撃さえも、今までの経験上ここは射程外だ
仮に届いたとしても、あの攻撃にはラグがある
刀を振ったのを見てから避けられる
だからこそ、動揺した
一瞬、三苗に対する警戒が弱まった
代わりに、目の前の驩兜に対する警戒が跳ね上がる
反射的に青鬼の刀の間合いから出るように動く
羽を前方に羽ばたき、クラゲのように空中を移動する
少し体制を崩しつつも、伯智は瞬時に距離をとった
対する青鬼は刀は横薙ぎに振るわれた
とてもゆっくりと
それも動けば動くほど、さらに遅くなる
まるで青鬼の心臓の鼓動に連動するかのように
結局、伯智が避けようが避けまいがその攻撃は届かなかった
死を待つばかりの青鬼の脊髄反射など結局その程度であった
パシャッと音を立てながら、青鬼は空中で銀の液体に変化した
青鬼の形がかたどられた銀色の液体に
伯智は安堵した
背後から大きな声で脅かされた人間のように
だから、一瞬反応が遅れた
青鬼の体が液体に変化した瞬間、その液体の中心が揺らいだ
何かが、細く鋭い何かが、その銀の液体を押し退け、その先にある伯智の左の羽の付け根を貫いた
鋭い痛みが走る
伯智の左の羽が赤く染まる
驚きと共に左の羽が動かなくなる
片翼を失い伯智が地面めがけて加速する
その時、しっかりと見た
銀の液体の中心にできた円形の穴から
片足でバランスを保ちつつ、それでもこちらを見据え、手に持つ妖刀で虚空を突いた三苗の姿が
墜ちる伯智はようやく気づいた
三苗の持つ妖刀の能力
その条件に
飛ぶ斬撃の距離が変わる条件
それは、飛ばした斬撃の広さに反比例している
広い範囲に斬撃を飛ばすと、その分距離は短くなる
刀を大きく振り、周囲の民家を破壊した時がこれに当たる
逆に幅を狭めれば、距離は伸びる
時々、小さく振り伯智に冷や汗を欠かせた攻撃がこれだろう
今考えれば、ギリギリでも避けられていたのは斬撃の範囲が狭かったからなのだろう
では、突きのように幅をかなり狭められる攻撃だったら…………
それが、今伯智が地面に向かって落ちている理由
三苗が時々使う奥の手
三苗が放つ飛ぶ突きは想像の数倍の距離を突き抜ける斬撃を生み出す
もはや弾丸である
速度は遅くとも不可視の弾丸
伯智は痛みに顔を顰め、頭を下に地面に向かって落ちながら、それでも周囲を、現状を正確に把握するために努める
伯智の落下地点には2匹の緑鬼が寄ってきている
間違いなく、墜落した伯智を仕留めるためだ
三苗が次の構えに入っているのが見える
おそらく、下の鬼2匹よりも三苗の斬撃の方が早く届くだろう
完全に勝ち誇った顔をしている
意趣返しできたことがよっぽど嬉しいらしい
武蔵と鯀は睨み合っている
が、先刻と大きく違うのは実力が拮抗していそうなことだろうか
もう、武蔵が逃げ回るだけの戦いではない
そして、この場にいる全員にとって想定外な事象
鬼ヶ島近海の海上で1発の黒い花火が上がった
特急指令召集弾
簡略名『黒菊』
その召集命令に逆らうということは黒鬼に対する叛逆を意味する
武蔵と鯀の実力は拮抗した
音速の壁を纏える武蔵に対し、鯀はまだそれを崩せはしなかった
対する武蔵も最初の1発だけは攻撃を与えられたものの、それ以降鯀にかすり傷の一つも負わせることができなかった
結局、鯀には初見殺しの1発しか攻撃が決まらない
その結果、何度も刃を交えているものの、両者共に無傷
ずっと同じ展開の繰り返し
武蔵が離れた位置から急接近し、そのまま駆け抜ける
接近した瞬間、攻撃を加えるが当たらない
鯀は衝撃波に耐えられるようになっているし、武蔵の速度に衰える気配はない
先ほどまでの武蔵が逃げ回った結果の膠着状態とは異なる、完全な膠着状態
お互い決め手が欠けていた
ただし、それはあくまで命の奪い合いの場合
大前提が変われば勝敗がつく
互いに得意分野に実力が偏っている
殺し合いだからこそ、力が拮抗しているのだが
もしこれが鬼ごっこだったら……
その結果は間違いなく武蔵が勝つ
天地がひっくり返ろうともそれは変わらない
武蔵は三苗が飛ぶ斬撃を放ったのを見逃さない
勝ちを確信した瞬間を見逃さない
海上で打ち上がった1発の花火を見逃さない
鯀を除く全ての鬼の意識が花火に向いた
それを無視することは黒鬼に逆らうことを意味する
鯀だけが、目の前の敵から意識を逸らさなかった
それでも、武蔵の速度に追いつける足を持ってはいない
鯀が何が起きたのか理解したその瞬間にはもう手遅れだった
武蔵の牙は三苗の首を噛みちぎった
そのまま、衝撃波が青鬼の体を枯れ木のように吹き飛ばす
その体は、宙を舞い地を転がり、途中で液体に変わる
伯智は武蔵が三苗の首を噛みちぎった直後、怪我をした羽根を横薙ぎに回転させた
花火が上がったせいで、こっそり溜めていた某の血が無駄になった
その血は、伯智の落下地点にいた2匹の鬼の顔にかかる
視界を塞ぐことを目的にしていたその血は、花火に夢中の2匹にとって大した戦略的意味をなさなかった
まあ、結果は変わらない
その2匹はどっちみち伯智を見ていないのだから
どうせ攻撃は防げない
伯智は右の羽を広げ横向きに一回転する
羽根に取り付けられた刃が2匹の鬼の首を跳ねる
その2匹の首が落ちると同時に、体が溶けてなくなった
メリークリスマス!




