集落決戦8
完全に囲まれている
しかし、攻撃の要になっている鬼は実は1匹である
伯智がその結論に辿り着くのにコンマ1秒もかからなかった
3匹の緑鬼も背後に瞬間移動した青鬼も、ただ囲んでいるだけ
もちろんその場に止まれば伯智は斬られるが、亜音速の突進に対応し切れてはいない
ただし、飛ぶ斬撃だけは別だ
三苗だけが、武蔵と伯智の首に手をかけている
逆に言えば、対応すべき攻撃もそれだけだ
伯智はまるで戦闘機のカタパルト射出のように、武蔵の鞍を蹴る
亜音速にまで加速していた伯智がさらに少し加速する
武蔵よりも体一個分前に出る
武蔵よりほんのわずか先に、槍を持つ鬼に接敵した
もはや、滑稽だった
この槍を持つ緑鬼だけが、状況に飲み込まれ揉みくちゃにされていた
伯智は全ての威力を足に込め、槍を持つ緑鬼の胸を蹴り付けた
まるで獲物を狩る猛禽類のような格好で
猛禽類など比にならないほどの威力で
鬼より軽い伯智だが、その十分な速度のバフのおかげで容易に鬼を吹き飛ばした
流れ落ちる滝よりも早い速度で鬼が後方へ吹き飛ぶ
飛ぶ斬撃の準備をする青鬼に向けて
目の前まで飛んで来た緑鬼の体躯に三苗の視界が塞がれる
もとより、この鬼を切り殺してもいいと考えていた三苗は躊躇わず剣を斜めに薙いだ
緑鬼の躰は上と下の二つに分かれ、青鬼を避けるように別々の方向へと吹き飛んだ
さらには妖刀の力で、その斬撃が飛ぶ
三苗は緑鬼の接近で狭まりゆく視界の中、伯智の位置に凡その当たりをつけて斬撃を飛ばした
しかし、その斬撃を伯智は苦もなく躱す
伯智は、三苗の視界の死角から決して姿を見せないように調節しながら、他3匹の鬼の刀が届かない位置まで上昇した
三苗の飛ぶ斬撃だけではなく他3匹の鬼が持つ武器も最大限警戒していた
2匹の緑鬼の獲物の性能は不明
片方は刀、もう片方は透明な武器を持っている
未知の能力と、未知の間合いに警戒し、かなり慎重に飛翔した
そして何より、青鬼の持つ瞬間移動を最大限神経を尖らせていた
理由は簡単である
その力は容易に空中の伯智の背後をとりうるから
警戒していた
しかし、それを凌駕するほどの想定外が起こる
武蔵の方向から轟音がした
その轟音と一緒に空気が揺れた
それは、生物が出せるような音だとは思えない不気味さすらあった
伯智は警戒はしていた
それでも一瞬、緊張の糸が揺らいだ
仲間の安否に意識を引っ張られた
そして案の定、青鬼が視界から消えた
と同時に大きな影が伯智を覆う
伯智は咄嗟に羽をたたみ軸をブラさず半回転し、顔を天に向ける
そこには、先ほどまで地面にいた青鬼が落ちてきていた
それも、刀を振り下ろしながら
それを予想していた伯智は鋭利な羽の刃で刀を受け止める
しかし、悲しいかな
重量差の大きい鬼に上を取られた伯智はその場に留まれない
地面に向けて、青鬼と共に加速する
そこへ、2匹の緑鬼の追撃が襲う
左からは、刀が
右からは透明な何かが……
しかし、右の鬼の持つ透明な武器
伯智はその握り方、走り方、振り方、それらの些細な情報から推測した
槍ほどは長くなく、重量武器でもない
両手剣か刀
それも、突くことではなく斬ることに重点を置いた武器
つまり今、左右から迫ってきている武器はどちらも刀
伯智の頭脳が加速する
打開策の計算を始めた
最善手を辿るための道筋を探し始めた
三苗は飛んでくる緑鬼によって一瞬視界が塞がった時、伯智に意識が集中していた
それは先の戦いで苦渋を舐めさせられた認識があったから
本気で対応しなければ、命を落とすことを身をもって理解したから
ただの畜生に、本気を出さないといけないという屈辱が脳裏にこびりついていたから
そして、武蔵とは実際に剣を交えていなかったから
緑鬼を両断した時、その視線は無意識に伯智を追った
伯智を追って、上を見た
伯智の思惑通りに
両断された緑鬼の下半身の影に武蔵がいることに気づけなかった
伯智はあえて武蔵よりも体重が軽い自分の足で緑鬼を吹き飛ばした
そうしなければいけない理由があった
武蔵の速度を極力落とさないことが重要だった
伯智はかなり強い
それこそ普通の雉など比較にはならない
しかし、一撃必殺と言える強みがない
伯智の頭脳は裏方やサポートに回った時の方が力を発揮する
全体を俯瞰できる状況の方が強みを遺憾なく使える
一方、武蔵の速度は自分の強みを押し付けることができる
たとえ他が全て劣っていようとも、その圧倒的な速度だけで勝負ができるほどのポテンシャルを秘めている
まさしく一撃必殺になりうる才能である
伯智の少しの加速など、武蔵にとって大した減速ではなかった
それよりも武蔵が鬼を吹き飛ばした方が、大きな減速を強いられていただろう
だからこそ、その役目は伯智が担った
結果として、武蔵はほとんど減速せず三苗に接近した
それも、自らの存在を認識させることなく
武蔵が咥えた刀が三苗の右足を切り落とす
切り落とされた後、数秒間そのことに気づけないほど素早く
数秒後に三苗は驚きと苛立ちが入り混じったような顔をする
自分がバランスを崩し始めてようやく足を斬られていることを認識した
それは完全な想定外だったことは間違いない
しかし、想定外は武蔵にも起こった
目の前に一本の鋒が接近していた
絶対に切られてはいけない妖刀
その邪悪なオーラを放つ刀にはつい先刻、苦い思い出を刻まされた
武蔵の魂が逆立つのを感じる
武蔵の接近に気づいていた鯀の妖刀が武蔵に迫る
それを認識した武蔵の選択は驚くべきものだった
当事者たる武蔵すらも驚愕するような
本人も驚愕していたからには、もはや無意識に体が動いたのだろう
それを本能というのかもしれない
武蔵はさらに加速した
駆ける足に力を籠める
直後その込められた力が爆発する
触れてはいけない、斬られてはいけない刀に向けて加速する
ぱっと見ただの自殺行為
けれどそこで武蔵は一つの限界を超えた
ついに、武蔵は音の壁を突破した
今年3回目の風邪をひきました
色々流行っているようですし、皆様もお気をつけて




