集落決戦4
粉塵爆発
燃える微粒子が酸素存在下で引火すると大爆発を起こす現象
しかし、火薬に酸素は必要ない
それが火薬の恐ろしい処
今回の場合、青鬼の周囲を取り囲むように三箇所の民家が燃えていた
大抵の場合、火は酸素を必要とする
そしてそれは、周辺から均等に酸素を引き込む
つまり、三カ所の炎の中心である青鬼の立ち位置は酸素が薄くなっていた
常人であれば、酸欠で倒れていたであろう程には……
通常であれば、十分な威力の粉塵爆発など望めない
粉塵爆発には酸素が欠かせない
しかし、火薬であればその限りではない
火薬に、酸素は必要ない
そして、火薬は宙に舞っている分だけではない
直前に、青鬼は壺を叩き割っている
その中身である火薬は今、青鬼の足元に溜まっている
木片や、水瓶などと一緒に
燃えている民家から引火し、第一の爆発が三苗を襲う
しかし、屋外での粉塵爆発程度の威力では息苦しいだけだ
この程度、青鬼にとっては蚊に刺された程度のこと
この程度で終わるのならば……
だかこの攻撃は連鎖する
足元に溜まっている火薬に引火する
宙に待った火薬と異なり、その火薬は一点に集中している
青鬼の足元に
その炎は三苗を中心に燃え上がる
舞っている火薬とは比べ物にならない火力で
青鬼の肌が焼かれる
腰付近までの肌を黒く焦がし、上半身の肌を爛れさせた
それでも、肉は崩れない
再生する力が鬼の内部を守っている
無論、内部も少しずつ焼かれてはいる
……が致命的な火傷まではまだまだかかりそうだ
もし、急所をやられていたら別だっただろう
死んだ可能性すらある
鬼といえど脳や心臓の機能が失われている時は回復も遅くなる
その程度には危険な攻撃ではあったが、それでもまだ足りない
青鬼は、燃え盛る炎の中なら伯智を見る
ゆらめく炎の奥からでは、ぼやけた影のようにしか見えないが……
この状況では、あの雉は攻撃を仕掛けないだろう
炎が邪魔で仕掛けられないというべきか
青鬼の飛ぶ斬撃のルールはまだバレていない
バレたところで何か問題があるとも思えないが……
それでも、この状況ではカウンター狙いの遊びはできないだろう
一度仕切り直す必要がある
まずはこの炎の中から出なければ
さすがに長時間焼かれるのはあまり良くない
そう思い足を動かす
一歩、また一歩と
そして、躓いたかのように、倒れた
「……………………?」
攻撃を受けた認識はない
爆発の中で矢を喰らってもいないし、毒を受けたとも思えない
しかし、体が思うように動かない
鯀に魂ごと切られた時のような怠さがあった
ジリジリとしかし、着実に体が焼かれている
少しずつ、回復が弱まっているのを感じる
視界がぼやける
青鬼は初めて命の危機を感じた……
この攻撃は連鎖する
不可視の斬撃に対抗するなら、不可視の毒
青鬼は、ただでさえ空気の薄い燃える民家の中心にいた
さらには、そこへ降り注ぐ広範囲の火薬
酸素を必要としない火薬は、酸素を消費しないわけではない
あくまで、無くても燃えることができるだけ
酸素があるのなら、それも消費する
広範囲の酸素が火薬に奪われる
ほぼ無酸素に近くなる
そこで続け様に起こる第二の攻撃
青鬼を中心に燃える火薬
ほぼ消費し切った酸素を、一点集中で使い切る
つまり、青鬼が立っていた場所は無酸素状態であった
三苗が倒れた理由は単純明快
ただの酸欠だ
そして、火薬の炎が消えるまでその状態は持続する
火薬の炎が燃えている限り、青鬼は体を焼かれ続ける
ジリジリと命の灯火が消えていく
武蔵と鯀の戦いは膠着した
いや、完全に武蔵が劣勢なのだが……
幸いにも鯀に武蔵に追いつけるほどの速度がなかった
逃げに徹した武蔵を追い詰める術がないだけ
おかげで、なんとか武蔵は死なずに済んでいる
鯀の持つ妖刀『饕餮』
斬った敵の魂を喰らう
かすり傷の積み重ねが致命傷になりうる能力
だが、本当に恐ろしいのは妖刀ではない
それを持つ鯀の方にある
この青鬼は、たとえ妖刀を持たなくとも強い
それこそ、刀の技量だけで他3人の青鬼を圧倒する
圧倒的序列一位
技術だけなら、黒鬼にすら勝てる逸材
そんな相手に偶然でも一撃を加えた武蔵は十分誇っていい
それほどの技量差
それでも、奇跡は一度しか起こらない
それ以降、武蔵は2回攻撃を仕掛けた
が、その全てにおいてカウンターを食らった
その度に少しずつ、魂を削られた
及び腰だったから死にはしなかった
2回の攻撃はどちらもかすり傷
にも関わらず、強烈な疲労感が武蔵を襲う
幸いなこともある、時間を置けばそれは少しずつ回復している
魂の傷も、回復はするらしい
野生動物の回復力のおかげで、まだ戦えている
しかし、武蔵だけではこれ以上は苦しい
あと一撃で武蔵は負ける
たとえどんなに小さなかすり傷だったとしても
武蔵もそれを理解しているから、逃げに徹していた
その時、三連続で大爆発が起こった
空気が揺れる
伯智の戦場で何かが起きたようだ
その爆発に青鬼の意識が向いた
武蔵はその一瞬の隙を見逃さなかった
見逃さない程度には優秀だった
残念なことに……
鯀はそう思って、そう信頼して武蔵を誘った
意識が他に向いたフリをした
武蔵の移動線上に妖刀の不気味な鋒が待ち構える
完全に、体を真っ二つにできる位置に
かろうじて、本当にぎりぎり、速度を落とさず武蔵は向きを変えた
鯀の持つ刀が空を切った
初めて空振った
鯀|の人生でも数十年ぶりの空振り
そして、武蔵の適当に振った爪が青鬼の脚を抉った
一度しか起こらないはずの奇跡が二回起こる、という奇跡
初めて、鯀が少しバランスを崩した




