集落決戦3
武蔵は周囲を走り回り、また青鬼の元に帰ってきた
ただ、その口元には刀が加えられている
鯀という名前の青鬼には、その刀に見覚えがあった
笑えるほど呆気なく死んだ、青鬼の腰に刺してあった妖刀だ
確か名は檮杌
犬が持っても能力を扱えるのだろうか……
微妙な所だ
まあ、警戒するに越したことはない……か
その能力は知っている
直線距離を長く移動するほど移動速度が上昇する
妖刀も霊刀もそうだが、大抵の能力が初見殺し要素が強い
逆に能力を知っていれば、大した脅威ですらない
まして、前の持ち主である共工が使っていた時でさえ、俺の方が強かった
ポッと出の犬になんて負ける道理はない
鯀は舐めることなく、気負うこともなく、刀を据えた
武蔵は、この刀の能力を知らない
そもそも妖刀であることすら分かっていない
もっといえば、武蔵にこの刀の力を引き出すことはできない
鯀の持つ妖刀とやり合うために適当に拾ってきたにすぎない
ただそれだけ……
運が悪かっただけなのだ
最悪の選択をしてしまった
周囲に落ちている刀は2本あったのだから……
武蔵が拾った妖刀の能力は武蔵の得意分野とドンピシャに被っていた
簡単にいえば足が速くなる妖刀
シンプルゆえに凶悪な刀
能力を知らなければ、目があった瞬間に首を切り落とせるような代物
ただ拾った刀が悪かっただけに、武蔵は鯀に自分の得意分野の対策をされてしまった
鯀は武蔵の急接近を警戒している
しかも、そのことに武蔵は気づいていない
武蔵はまだ青鬼に最高速を見せていない
その認識の差で戦う
戦えると信じていた
その心意気で、身を屈めた
数秒間、鯀と武蔵が見つめ合う
直後、武蔵が仕掛けた
もはや常人の目には、鈍色に引き伸ばされた残像にしか見えない
しかし、鬼の目はそれを捉える
武蔵の一閃に完璧なカウンターを合わせてみせた
今までであれば、これで終わっていただろう
……が、武蔵も成長している
最高速に乗った状態の不意打ち気味の一撃でも、鬼は対応する
防御程度ならできてしまう
それを前回の、山城での戦いで学んだ
だからこそ、最高速の一撃には必ずフェイントを入れるようにしていた
結果、互いの攻撃が両者の脇腹を傷つける
かすり傷よりは深く、けれど致命傷とは程遠い
強いて言えば、武蔵の方が深手を負った
鯀とは異なり、武蔵はカウンターまでは警戒できていなかった
青鬼は、その場から動かない
武蔵は、勢いのまま鬼の横を過ぎ去る
民家の角で振り返った時、違和感に気づいた
脇腹以外に何か大切なものが傷ついたような感覚
脇腹から流れる血の他に何か大切なものも流れ出ているような感覚
それと同時に襲いかかる、疲労感
気力の消失
若干歪む視界
きっとこれでも、切り傷が浅かったからこそ、この程度で済んでいる
その妖刀は肉体と同時に魂すら喰らいつく
鯀の持つ妖刀
名を饕餮
能力は、傷をつけた相手の魂を喰らい、饕餮の所持者に還元する
還元された魂で、体の傷を修復する
つまり、今しがた武蔵が与えたはずの鯀の傷は修復される
武蔵には肉体と魂に外傷を受けた
一方、鯀に傷はない
振り出し以前にの状態に戻った
押し戻された
伯智は民家の隙間を縫いながら、三苗の斬撃を避ける
その射程を測りたいと考えているのだが、どうにもそれが難しい
要因はいくつかあるが一番は、飛ぶ斬撃が見えないことだ
どうしても青鬼が壊した家と鬼の距離から判断しないといけない
加えて、明らかに短い時と長い時がある
おかげで、距離が全く掴めない
分かったことといえば、民家を容易に壊せる威力を持つこと
長い時は20メートルほど飛んでいること
斬撃は見えないが確実に空中を移動していること
やはり、振った時によって距離に違いが出る理由がわからないと攻略の糸口が見つからない
次の一手に苦慮していた時、一本の矢が飛来した
その矢は伯智しか気づかない
伯智だけは上空にいたからこそ、その矢が見えた
最初の矢とは異なり、速度はそんなにない
代わりに弧を描いている
矢が家の隙間を縫うように弧を描きながら飛んでいる
それはとても不思議な光景だった
きっと羽に特殊な加工がされているのだろう
自ら意志を持ち、民家の間をする抜けているかのようだった
そして、青鬼によって破壊された民家に刺さった
直後、再び上がる轟音
その民家にも大量の火薬が仕込まれていたらしい
どうやらエドワードは、この集落のいくつかの民家をこっそりと火薬庫に変えているらしい
住人に無断で
洗脳された人間たちではそのことに気づけなかったのだろう
何はともあれ、爆炎が上がった
皆がそれに気を取られた隙に、2本目の矢が別の民家に突き刺さる
三苗の背後の民家が二つ、新たな轟音を挙げた
それは、ちょうど青鬼を取り囲むように三箇所、炎と煙が立ち上った
伯智はすぐに理解する
エドワードから伯智への助力である
おかげで三苗の飛ぶ斬撃が可視化された
立ち上る煙が斬撃の形状を浮かび上がらせる
そのことに、伯智も三苗も気がついた
ただ、一瞬伯智のほうが早かった
青鬼がその場から動く前に攻撃を仕掛けた
立ち上る煙の影から伯智が急接近した
それに反射的に刀を振るう三苗
冷静にその斬撃を躱し、少し距離を取る
定期的に爆炎の影に身を隠しながら、余裕を与えるほどの時間を空けることなく
断続的に攻撃を仕掛ける
青鬼が逃げないように
できるだけ妖刀を使わせるように……
それに対し、最初の一回を除けば青鬼は冷静に対処した
煙が立ち上っている間は、もう飛ぶ斬撃を使わない
確かにそうすれば、飛ぶ斬撃の性能はわからない
が、それは自分の優位性を捨てたと言うことでもある
妖刀が、ただの刀に成り下がるということだ
伯智が距離を取った時に為す術がない
…………と、思わせるのが青鬼の作戦だった
そのことを伯智は知らない
見事に術中にハマる
自分の優位さを利用しないほど、伯智は愚かではない
爆炎の影から、木片や壺、水瓶などを投げつける
青鬼はその全てを軽々と叩き割った
伯智はさまざまなものを投げる中で、目的の品を見つけた
周囲の壊された民家の中に転がっていた壺だ
当たり前だが、ただの壺ではない
先ほどのエドワードの矢は火がついていた
それが外壁に刺さって爆発したように見えたが、実際には少し違う
その微妙な違和感に伯智は気がついた
外壁には油を塗り込み、導火線の役割をさせた
そして、爆発を引き起こしたのは家の中のさまざまな家具である
その一つが壺だ
中には大量の火薬が詰まっている
それを伯智は爆炎の影から投げつけた
投石とあまり変わらない
当たれば痛いが、だからどうというほどではない
特に青鬼にとって警戒すべきものでもなかった
三苗はそれを叩き割った
中から黒い粉が出てくる
火薬の知識を持たない三苗はそれをただの目眩しとしか認識できない
実際、それのせいで伯智を見失い警戒する
伯智は二つ目の壺を持ち持ち、空高く青鬼の真上で壺を割った
内部の火薬が、宙を舞い火山灰の如く青鬼に降りかかる
幸いにも風は穏やかだ
火薬は広がりながら、青鬼の頭上に降り注ぐ
火薬は、青鬼の周囲を覆い尽くす
青鬼を中心に、広く満遍なく
そして周囲で燃えている民家にまで届いた
空気中に舞った火薬へ引火する
可燃性の粉末が空気中で分散し、火がつくと粉塵爆発を起こす
ではもし、それを火薬で行ったら……
粉塵爆発と同様に
それ以上の威力で
青鬼の周囲をさらなる爆発が埋め尽くした




