集落決戦1
爆発跡を武蔵と伯智が注視する
人間を殺すには十分、むしろやりすぎと言えるほどの爆発だった
しかし、相手は鬼である
それも、今まで対峙してきた鬼の中でも最も強い鬼である
攻撃力も、防御力も未知数
事実、悪い方の予想が当たることになる
爆煙が晴れてきた頃、そこには無傷の鬼が一人立っていた
二人いたうちの一人
やはり倒せなかった
しかも無傷である
そして、もう一人は…………
初めは見えなかったが、完全に煙が腫れた頃、もう一人の鬼の顛末が見えた
無傷の鬼の足元で、燻っていた
銀の液体になっていないということは、死んではいないのであろう
しかし、四肢が吹き飛んでいる
もはや生きているとは言えない姿だ
爆発が起こった時に無傷の青鬼がしたことは単純である
無傷の青鬼が、もう一人を盾にしたのだ
自分の身を守るために……
攻撃を仕掛けたのは、武蔵と伯智だ
このような結末になることは知らなかったわけだが
それでも、殺しにきていることは間違いない
仲良くして欲しいわけでもない……
その上で、その光景は不快感を覚えるものがあった
この青鬼4匹には、仲間という感情がないのだ
本来の鬼とはどういう生物なのか、理解させられた
爆煙の中から出てきた青鬼は不快感に満ちていた
ブチ切れていた
コケにされたことが相当に気に食わない
まさしく切歯扼腕である
避けられたことも、況してカウンターを食らったことも許せない
俺が死ねと言ったら死ね
俺が生きろと言ったら生きろ
勝手に喋るな
勝手に思考するな
まして、勝手に動くなど言語道断
万死に値する
青鬼は空を飛ぶ雉と、離れた位置からこちらを観察する犬を見る
空は後だ
めんどくさい
先に簡単に殺せる地上からだ
…………
甚だ遺憾だが、速度勝負では殺せないことはわかった
だから、犬に向かってゆっくりと歩く
機会を探って
あわよくば、一撃で殺せる距離にまで近づくまで
この怒りを鎮めるには、あの犬は徹底的に痛めつける
いや、それだけでは足りない
その後は雉だ
犬を捕まえ、それを餌に雉も捕まえよう
どうせ仲間を見捨てられないとかほざくのだろう
そのまま調教して、あの2匹に殺し合いをさせよう
前回の奴らは、舌を噛んで自殺しやがったからな
それはクソ萎える展開だった
……ああ、そうか
次は互いが誰かわからないようにしよう
ああ、少し楽しみになってきた
怒りが待ち遠しさに変わる
おかげで怒りが少しおさまった
若干の冷静さを取り戻して気づいた
残り二人の青鬼が動いていないことに
別に仲間じゃない
出し抜き合う仲だが、鬼という種の窮地に傍観するようなことはしない
自分達の地位を守るためにも、異分子は排除する
そんな奴らが、微動だにしていない
そこで漸く気づいた
犬と雉に爆弾を作れるわけがないことに
仲間が少なくとも後一人いることに
そして、他の鬼はそれを警戒していたということに
そこまで考えが働いたところで、脳天に矢が突き刺さった
脳の機能の一部が停止する
思考が崩壊する
直後、心臓にも矢が突き刺さった
死んではいない
少しすれば、体が回復する
回復すれば脳も心臓も、活動を再開する
そこに矢が刺さっていようがいまいが、青鬼にとっては些細なことだ
だが、一瞬の機能停止を敵は待ってくれない
瞬時に武蔵は動いた
鬼は脳が動いていないからそのことに気づくこともなく……
青鬼の首に武蔵が牙を突き立てた
青鬼の首は、大量の血を噴き出しながら食いちぎられた
武蔵は口に入った肉をプッと吐き出す
一撃で殺せれば、洗脳も意味をなさない
そしてすぐに、家の隙間を縫うように姿を消した
武蔵が青鬼の喉に噛み付いたのとほぼ同時に、伯智は燻り焦げついている青鬼に急降下した
桃太郎のお供には、新たな武器が備わっている
伯智は羽の前側、初列雨覆から初列風切にかけて金属の刃が装備されている
啄む、引っ掻く以外の選択肢
飛びながら、ものを切り裂くことができるようになった
そして、その一撃が倒れている青鬼の胴と首を切り分けた
その直後、青鬼が1匹銀の液体に変わった
開始1分もせずに、1匹処理が終わった
作戦は伯智とエドワードで立てた
しかし、伯智の作戦にエドワードほどの卑劣さはない
仲間を危険に晒すようなこともしない
だからこそ思うこともある
一時的にリスクを上げることで、殺しを効率化した
それが正しいかどうかは別として、処理速度が卓抜としている
結果として、戦闘が減りリスクが減っている
事実、もう鬼を一体殺した
おかげで状況は、3対3だ
きっと伯智の作戦だけではこうはいかなかった
しかも一体は死にかけである
そんな作戦を躊躇せず行える点は感嘆に値する、と
伯智は既に上空で、次の隙を狙っていた
2匹の鬼は隠れている敵が動くのを待っていた
だから矢が飛んできた時、すぐさまその方向へ駆け出した
すぐに気づいたのだ
その矢の恐ろしさに
この作戦の要はこの矢を放つ存在だと
確かに、あの犬と雉はとても危険ではある
しかし、真正面から戦えれば応戦はできるはずだ
一対一で遅れを取ることはないだろう
ただ、この矢だけは別だ
一瞬の隙を作るために放たれていた
的確に、確実に、隙を作り出す力を秘めている
しかもそれが、家の隙間を縫って飛んできた
こちらから目視できないような位置から
それだけでも、この射手の技量をうかがえる
そして、もう一つ恐ろしいのが矢の速度だ
刺さったのを確認するまで、刺さったことに気づけないほどの速さ
弓の有効射程は100メートルあるか無いか
ボウガンなら50メートルも無い
その常識が通じない威力
倍の飛距離があってもおかしくない
この矢が、全ての攻撃の起点になっている
そして今、矢が飛んできた方向がわかるのだ
数少ない、射手の位置を特定できる瞬間
ここで叩かない選択肢はなかった
実際、その判断は間違っていなかった
見誤ったのはエドワードの技術力と、人の心を読む能力である
2匹の青鬼は射手がいそうな場所に辿り着いた
……が、そこには誰もいなかった
その周囲に人影もない
気配もしない
事実、そこにエドワードはいない
そもそも、最初に鬼の脳天に突き刺さった矢も、その場所から放ったものではない
エドワードは、とある船で船長兼砲撃手をしていた
故に、爆弾の作り方を知っていたし、目もよく狙撃も得意だった
何より、エドワードはボウガンを自作していた
最大射程600メートルのボウガンを
通常よりも銃身が長く、通常よりも弦が硬い
名付けるなら、スナイパーボウガン
そう、青鬼が想定していた射撃場所の約3倍離れた距離からエドワードは狙撃していたのである
それも、家の隙間を縫うように
そして、今2匹の青鬼がいる場所の地面は砂ではない
砂に擬態した火薬
そこは鬼を誘い込むために作った空間である
そこに、エドワードの放つ矢が飛んでくる
今回は、ただの矢ではない
先端に火がついた矢である
矢が飛ぶ音が聞こえた
火が揺れる音が聞こえた
地面に矢が刺さる音が聞こえた
瞬間、轟音と共に音が吹き飛んだ
2匹の青鬼を巻き込みながら本日何度目かの大爆発が起こった




