津神神社
エドワードの話は続く
「たった一回だけ、見たことがあるんだよ。黒鬼をね。そして確信した、あれがこの島の、いや世界中の全ての鬼たちのNo.1だ。
もう、オーラというか雰囲気というか風格というかが別物だったね。それはもうすごかった。俺様といい勝負しそうなほどオーラを放っていたよ」
オーラか……
桃太郎はその存在を信じてはいる
強者ほどそれを纏っていると思っている
しかし、作戦を考えるにあたってそれはあまりに不確定すぎた
「もう少し具体的に黒鬼が鬼の最上位であることの証拠はないですか?」
「……まったく我儘な子猫ちゃんだ。
そうだな、鉱山に時々くる四人の青鬼が傅いていたよ。
ついでに言うと俺はこの島で黒鬼は一人しか見たことがない。そして、あんな横暴が許されている鬼も一人しか見たことがない。
最後にあんな若い鬼も見たことがない」
「…………若い?」
「……なんだ? 知らないのか。鬼は基本的に偉い奴というか強いやつになるほど見た目が若くなるぞ。
もちろん実年齢とはかけ離れている様だが…………
基本的に赤鬼は40代くらいの見た目だが、青鬼は20歳くらいの見た目だ。
そしてその黒鬼は12歳くらいに見えた。正直あれはやばいと思う…………が、逆にあの鬼さえなんとかなれば他に黒はいない。
青だけなら条件次第で俺でも殺せる」
最後の一言
……俺でも殺せる……
その一言に込められた意思が桃太郎の背中に冷や汗を流させる
何より恐ろしいのが、そこに殺気がなかったことであった
この人は、間違いなく鬼を殺せる
そう思わせる言葉の力強さがあったのにも関わらず、だ。
「…………どう……やって?」
ただの人間が……
桃太郎よりも力の弱い人が……
その疑問が漏れ出る
「どうといわれてもなぁ、鬼も生物なんだから首を切れば死ぬだろ。心臓を突き刺すだけでは死なないかもしれないが、まるごと抜き取れば死ぬぞ。頭に剣を突き刺しても殺せる。あとは気取られない様に近づくだけでいい。
…………ああ、首を切っても死ぬまでにかなり時間がかかった奴もいたな。それでも能無しだったから簡単に殺せたぞ?」
「待ってください。もしかして、この島で鬼を殺しているのですか?それも何体も?」
つらつらと言葉が並べられるせいで緊張感を感じられないが、内容がおかしい
たとえ赤鬼だろうとそう簡単に殺せるものじゃないはずだ…………
それを青鬼も含めて何人も
信じられない気持ちが先行する
何より、この島で頻繁に鬼が死んでいると言う事実
それはかなりまずい
桃太郎たちの隠密性という優位性がなくなる
鬼ヶ島は鬼にとっての絶対安全地帯
鬼達にそう認識していてもらわないと困るのだが…………
鬼ヶ島に鬼の敵がいるのであれば、警戒は跳ね上がっていることになる
鬼達に警戒されている
どうか、ここ最近だけでもいい
鬼を殺す様なことをしないでいてくれ
桃太郎はそう願う
しかし、その願いは届かなかった
「そりゃ、進んで殺そうとは思っていないが、鉢合わせた時はやむなくな。
どうしても動物を追いかけていたりすると鉢合わせることがあってな。
直近だと3日前くらいか」
3日前……
それは十分に直近だった
作戦が瓦解していく音が聞こえるようだった
ただし、動物を狩る
それはエドワードにとっては生きる上で重要なことだ
それを桃太郎には文句を言う筋合いはない
その結果鉢合わせてしまうのだから、仕方がないと割り切るしかない
そう思った
そう思っていた
5秒前までは
「いやぁ、猫の尻を追いかけていると、いつの間にやら島の南側にいることがあってな……ははは」
桃太郎は、久しぶりにイラッとした。
人の行動をとやかく言う気はない
気はないのだが…………
……そんな理由で…………
「ところで、ゲイル……じゃなかった。すまんすまん、なんだかお前が昔の仲間に似ていてな
…………桃太郎はどう言う作戦で鬼を倒すつもりなんだ?流石に無策というわけではあるまい」
「……今から7日の後、他2匹の仲間と合流してまず鬼ヶ島に渡る用の船を全て破壊します。
その後の作戦はまだ未定ですが、鬼は全て合わせても20人前後と聞いています。いい作戦が思いつかなければ最悪ゴリ押しします」
「むふむふ。正確には30近くいるのだがまあいい。そんなの誤差だしな。
その作戦を立てるために今鬼ヶ島中を探索しているという感じかな。味方は全部で5人か。
…………犬・犬・犬・人間・人間でどうやるのがいいだろうか……」
「あぁ……犬・猿・雉・人間・人間です」
「なるほど、多様性って奴だな。
…………この方法なら15は固いかな。うん。迷える子羊よ。其方の仲間で機動力に長けているものはどいつだい?できれば二人借りられると嬉しいのだが」
「犬と雉ですね。ただ、その二人がいなくなると船を壊すのが少し大変になるのですが……」
「いや、問題ない。と言うかむしろ壊しやすくしてやる、という話だ。
俺とその2匹で鬼を誘き出してやろう。鬼の数が減れば船など容易に壊せよう。
どうせ、俺が鬼を最近殺していたせいで困っているのだろう?
そのくらいはやってやるさ。
1週間後どこに集合するつもりだ?俺もそこに行こう」
「鬼ヶ島の東端、津神神社の境内です」
「むふむふ。了解した。
じゃ、これで難しい話は終わりだな。飯を食っていけ。できるだけ俺に感謝しながら食っていけ。なんなら崇拝してもいいからな」
「…………お誘いはありがたいですが、今のうちに鬼ヶ島を見て回っておきたいので、失礼させていただきます」
「そうか?それは残念だ。
もし気が変わって飯を食いたくなったら、遠慮なくいつでもきてくれていいからな
もし崇め奉りたくなった時には、すぐにでも返ってこいよな」
そう言うエドワードはまた物凄くニヤニヤしている
またまた子供のように……
桃太郎はまだその真意に気づかない
気付かないまま立ち上がる
珍しく武蔵が伏せたまま動かない
桃太郎が不思議そうに武蔵の方を見ると困った様な仕草で、けれどゆっくりと立ち上がった
しかし、目を合わせてくれない
なんだかとても気まずそうである
その意味を桃太郎はすぐに理解することになった
桃太郎たちがこの島に渡るために使った道が消えている
完全に満潮になり、海の底に沈んでいた
おそらく武蔵は気づいていたが、言うタイミングを逃したのだろう
エドワードは分かっていたからあんな言い方をして、ニヤニヤしていたのだろう
いくつかこの島から出る方法が思いつきはするが、その価値はない
どう考えても、エドワードの元に戻るのがベストの選択だ
…………
…………
「仕方ない」
少しため息が出る
桃太郎は、先ほどまでいた洞窟に戻った
そこにはエドワードと二人分の食事、そして武蔵用の食事が用意されていた
「もう気が変わったのか? 早かったな」
その言葉を桃太郎は聞こえないふりをした




