表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桃太郎-recast-  作者: 星乃光
天地始めて粛す
48/73

 ゆきが洞窟からいなくなったことに真っ先に気付いたのは(はやて)だった


 そこからすぐに、外に出たことを察した

 だからこそ気づかないふりをした


 颯にも秘密の出入り口は悪いことなのだとわかっていたから

 颯はゆきに首ったけだった






 着々と結婚式の準備は進んでいく


 颯も準備をする


 ……四半刻が経過した


 ……半刻が経過した

 ゆきはまだ帰ってこない


 ……一刻が経過した

 洞窟内が騒がしくなった


 ゆきが居なくなったことが知れ渡った

 颯の顔は、絶望に満ちていた

 颯だけが、何が起きたかを完璧に理解した




 颯には、もう隠し立てすることなどできなかった

 そのような状況でなくなったことが明白だった


「皆さんに話さないといけないことがあります」


 颯は切り出した

 皆で一緒に、ゆきと颯の部屋へと向かう


 全ての部屋がほぼ同じだが、この部屋だけ二人で過ごせるように拡張工事が行われていた


 家具を含めその大半が土でできていたが、地面だけには麻布が敷かれていた

 颯はそこをめくった

 そこには、木や石、草で塞がれていたのであろう穴があった


「ゆきはおそらくここを通って外に出ました。この穴は外の世界に繋がっています


…………黙ってこのようなものを作り、外出までしていたことお詫びのしようもありません

……本当に申し訳ありません


おそらく、ゆきが帰ってこないのは鬼に捕まってしまったせいだと思います」



 …………


 沈黙が訪れた

 誰も話さない

 颯にはもう話すことはない

 他の皆は理解が追いつかず、言葉が出てこない



 それでも、時間が経てば理解は進む

 理解できれば、次に怒りが生まれる

 そしてその怒りの矛先は、一人の男に向けられた



「お前、何てことをしてくれたんだ」


 さくらが静かに、けれど確かに怒っていた

 普段怒らない人の怒りが周囲の緊張を一段階引き上げる


「ゆきは…………私の娘は命懸けでお前を助けたんだぞ。

この洞窟は男子禁制だ。たとえ病人であろうとも普通は立ち入ることすら許されない。

だがあの子はそれでも助けてくれと懇願して回った。


13歳の少女が大人を説得するために駆け回った


それでも大半の人は納得していなかった。規則を捻じ曲げることの恐ろしさをよく知っているからな。


何度眠っていたお前を殺してしまおうとする奴がいたことか。

そして、それを防ぐために……お前がここにきてから目を覚ますまでの一ヶ月、ゆきはひと時も離れずほとんど寝ることもできず、けれどちゃんと守り続けたんだぞ。


その姿を見て最初は気に食わないと虐められた。お前への鬱憤をゆきに当たり出すやつがで始めた。


何度も私が見ていない間に暴行を受けていた。毎日青あざが増えていった。


それでも、ずっと、ずーっと守り続けた。訴え続けた。その結果段々と皆がお前を例外として認めてもいいと、皆が意見を変えていった。


だから、お前は今生きているんだ。

生きていられるんだ


だからこそ、目が覚めてから皆がお前の存在を拒絶しなかったんだぞ

少しもおかしいとは思わなかったのか。この男子禁制の地ですんなりと自分が受け入れられていることに


いや、一度は思ったはずだ。

その考えに行き着いて結局ゆきの優しさに甘えたのだろう。気づいた上で気づかなかったふりをした

それに気づくということは、自分が歓迎されていないことを認める行為だからな


お前は、卑怯で、臆病な、愚か者だ」




 …………


 それは颯が知らない話だった

 ゆきが口止めしていた話だった


 そして一度も考えたことがない話……ではなかった



 自分がいかに愚かだったのかを理解した


 ……俺は、ゆきが鬼に捕まることを援助してしまった

 その責任は取らないといけない




「ゆきは私が連れ返します」


「誰がお前みたいな奴を信じるか。そもそもお前が鬼に捕まったらここの存在が暴かれかねない。外に出ることは許さない。外に出るくらいなら今ここで死ね」


「私は、この洞窟の出入り口をここしか知りません。正規の三つがどこにあるのか知りません。私がここを抜けた後に、ここの出入り口を潰してもらえればその心配はありません」


「だから、そもそもお前のことなど誰も信用してねぇつってんだよ」


「…………」

 もはや颯には取り付く島もなかった



 少しの間沈黙があった


 その静寂を切り開いたのは、この洞窟の中で最も年配の女性だった

「さくらさん、颯さんを行かせてやりなさい」


「おばば、何を言っているのですか。なぜこいつの肩を持つんですか」


「肩を持つ気はありませんよ。それにさくらさんの怒りはちゃんとわかっていますとも。颯さんが作った出入口は許されることではない。


……でも、それを作ったのはゆきさんの指示でしょう。それに今ゆきさんが外に出ているのもゆきさんの意思なはずです。

私にはその責任まで彼に背負わせるのは間違っていように思えます。


 それに、ゆきさんの夫である彼にはゆきさんを追いかける資格があるはずですよ。そして私たちにはそれを妨げる権利はないはずです」


「…………わかりました。不本意ですが、おばばの言う通りにします」

 さくらはものすごく不満そうに、颯のために道を開けた

 小さく、まだ夫じゃないと呟きながら


「颯さん、これはせめてもの手向けです」

 そう言うおばばの手には、短刀があった


「こんな私に、宜しいのですか?」


「もちろんですとも。颯さんがゆきさんを無事に連れて戻ってきてくれることが、最も魅力的な未来の結末ですもの」




 颯はその短刀を口に咥え、海へと泳ぎ出した

 目に溜まった涙は、海と混ざり合い誰にも気づかれることはなかった



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ