隠れ家
桃太郎にじわじわと6匹の鬼が迫る
桃太郎、武蔵、青雲の3人は背中合わせに息を潜める
もはや道は一つ
鬼に見つかる寸前でこちらから攻勢をかける
一点突破で、そのまま逃げ切って再度、隠れる
勝率は低いが、それ以外に道はない
草をかき分ける鬼の足音を頼りに、3人はその瞬間を待った
……その時だった
「こっちです。速く」
またその声は聞こえた
しかも今度ははっきりと
桃太郎の足元付近から
瞬時に下を見た桃太郎は、その人影を見つけた
川の中深くへと潜っていく人影を
ここまできて、躊躇うような桃太郎ではない
もはや脊髄反射と言っていいほどの速度で、入水していた
それに続いて、武蔵と青雲が川の中へと侵入する
2匹とも、そこまで水が得意ではないであろうに、音も立てずにとても静かに潜った
桃太郎は、人影を追って泳ぐ
その人影は、川の側面に空いている横穴へと消えていった
桃太郎もその後に続く
その横穴を少し進むと、その道は上へと向きを変えた
僅かに光が差している
出口である
桃太郎が水面から顔を出すと、目の前には暗闇の中で美しく輝きを放つ刀身が突きつけられていた
「…………何者ですか」
小さな声で質問される
その言葉に桃太郎が返答するよりも早く、一人の老婆が刀を跳ね除け桃太郎の顔を両の掌で挟んだ
「ゆき! よかった生きていたんだね!」
それは桃太郎が今まで一度も会ったことのない老婆であった
間違いなく初対面だ
しかし、どことなくそうは思えない人だった
「ちょっ、おばば、声が大きい。鬼に気づかれたらどうするんだい」
周囲にいる人々が慌てている
それに構わず、桃太郎は小声で切り出す
「すみません、仲間が窒息死してしまいます。上がってもいいですか」
事実、桃太郎が通った横穴はあまり広くはない
後ろで、武蔵と青雲がつっかえてしまっている
おばばと呼ばれた女性は桃太郎の声に少し驚いた顔をしている
けれど、静かに場所を開けた
そこにいる人々は、誰一人として声を上げない
けれどその視線は、桃太郎の要求を警戒すれど拒否はしていなかった
少なくとも桃太郎はそう判断した
桃太郎がそっと水から上がる
続けて、武蔵、青雲が上がってくる
2匹ともかなり息が上がっている
ただでさえ不慣れな水の中、さらに長く息を止めていたのだ
当たり前といえば当たり前の帰結だ
…………
全員の間で気まずい沈黙が流れる
先ほどの老婆だけが、じっと桃太郎を見つめている
誰も話そうとしない
見かねて桃太郎が何か話そうとした時、また刀を向けられた
「シッ、静かに」
武蔵がものすごく不満そうな顔をしている
けれど反発しない
女性の、その真剣な表情に珍しく気圧されていた
静かな時間が経過する
桃太郎は、その間に自分が今いる空間を見回す
そこは、洞窟の一室というよりも、通路の一部のような感じだ
そして、驚いたことにここにいる人間は桃太郎を除き全員が女性であった
小一時間ほどたっただろうか
誰一人身動きせず、何ひとつ言葉を発さず…………
けれど、ついにその沈黙が破られる時が来た
「もう一度聞きます。あなたは何者ですか」
同じ質問が投げかけられた
違いがあるとすれば、もうそこまで小声ではない
桃太郎も普通に返答する
「私の名前は桃太郎と言います。鬼をひいては鬼の王を打ち倒すために旅をしている者です」
…………
その言葉に、一瞬の沈黙
直後、皆が嘲笑した
しかし、それは桃太郎を馬鹿にしているからではなかった
誰一人、その言葉を信じられないと言った印象だ
小馬鹿にしているのではなく、絶望していた
「……あなたの真意はともかく、鬼の味方ではないことだけはわかっています。ずっと見ていましたから。
それでも本当であればあなたをここに呼ぶつもりもなかったのですけれど」
そう言いながら、刀を持った女性は先ほどの老婆を見る
その老婆は、ずっと桃太郎に釘付けである
「はぁ……おばば、聞きたいことがあるんでしょ。もう周りは気にしなくてもいいわよ」
その言葉を皮切りに、老婆の桃太郎への質問が始まった
いや、正確には一つ目で終わった
「あなたは…………どちら様?」
流石の桃太郎でも、その質問は予想外だった




