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桃太郎-recast-  作者: 星乃光
振舞水
42/73

夜風

 桃太郎が目を覚ますと記憶にない景色が目に入る


 また気を失ってしまったらしい

 周りを見渡すとまだ他にも複数人眠っている人が目に入る

 ここは病室か何かのようだ


 その中には、重症だったはずの青雲やねねもいた


 桃太郎は静かに体を起こす


 外がやけに静かだ

 真夜中に目を覚ましたらしい


 本当であれば、ねねに抱きつきたいところだが寝顔を見るだけで我慢する

 そんな理性的な言い訳を考えているが、本当は怖かっただけだ

 また、ねねが私のことが分からなかったと考えたら恐ろしかった






 桃太郎は、誰も起こさないように配慮して静かに部屋を出た

 そこは、あの巨大な煙突のがある建物の隣だった

 夜でもその煙突には風格を感じる


 戦っている時は気づかなかったが、山城の麓にはいくつかの民家や作業場があった

 桃太郎が眠っていたのはその一角であった



 桃太郎は静かに村の中を歩き始める



 月明かりに照らされた自分の体を見ると、治療を受けた痕がある

 それもかなり丁寧に


 ここまで綺麗に治療できるのは、青雲か村の人間だけだろう

 けれど、青雲は重傷だった…………


 どうやらここの集落の人々は鬼の洗脳から解放されたようだ




 静かに歩き続け、大きな煙突にたどり着く

 月明かりに照らされてわかりにくいが、煉瓦造りで赤茶色の煙突だ



 近くまできてようやく理解したが、これはおそらく金属を溶かすための溶鉱炉か何かだろう


 上を見上げた影響で、傷口が少し痛む

 と同時に少し不恰好な動きをしてしまった


 …………


 さらに少し歩こうとした時、声が聞こえた


「主人様、お目覚めになったのですね。良かったです」

 間違いない、武蔵の声だった

 暗がりでもよくわかる


「また心配をかけてしまったね」


「大丈夫です。信じてましたから。……もし、夜風にあたりたいなら乗りますか?」

 武蔵がとても魅力的な提案をしてくれた



 武蔵の背に乗って、桃太郎は夜を駆け抜ける

 数日前とは打って変わって、今日はかなり涼しく感じる


 武蔵は、桃太郎の怪我に配慮して極力揺れないように走ってくれた

 風がとても気持ちいい



 あっという間に山城の麓に辿り着き、そのまま頂上まで走り抜けた



 …………



 そこには、一羽の雉が佇んでいた



「桃太郎殿。もう起きても大丈夫なのですか」


「ああ、大丈夫だ。それよりあの時援軍に来てくれてありがとう

伯智が来なければ勝敗はわからなかった」


「いえ、某の方こそ少しは恩をお返しできたようで良かったです」



 伯智は隣に腰を下ろした桃太郎と言葉を交わす

 武蔵はさらにその隣で体を丸めた


「ところで、私は何日くらい眠っていたのかな」


「だいたい4日です」


「そうか…………では、あの約束は失敗してしまったな」


 伯智の集落でした約束

 病を解く薬を作るか、その元凶を見つける

 そのどちらかができなかった時には、きび団子を差し出す



「それが、実はそうでもありません」


「……?」


「殿が作ったあの丸薬。私ではあまり効果が実感できませんでしたが、某以外の雉達はあれでかなり回復いたしました。それこそ元々元気だった雉は飛んでここまで助けにこれるほどに」


 確かにあの時、伯智以外に数匹雉が援軍にきてくれていた

 つまり、桃太郎は病に対抗する薬を作れていたということだ


「そうか……そうだったのか…………それは本当によかった」

 桃太郎の口から安堵の言葉が漏れ出る



「ただ、殿が作った丸薬と私が作った丸薬では効き目が違うのか、それとも最初の1回限定なのか、2回目服用時の回復の仕方が微妙で完治させるまではかなり時間がかかりそうです」


「……それでも、完治はできそうなんだね」


「はい。おかげさまで。

ただ…………この山城を制圧した後、神社に帰るとあの3羽の雉達は忽然と消えていまして…………どうやら逃げられてしまいました」





 桃太郎がずっと疑っていたこと

 あの3話の雉こそが、病の元凶であるということ


 確証を得るために探っていたことがある

 あの3羽はどうやって皆に毒を飲ませたのか




 その結論は、山城に辿り着いた時になんとなく理解した

 川に毒を撒いたのだ


 伯智達が最初の被害者になったのは単純に毒が流されている川沿いで暮らしていたから



 ではどうやってバレずにやったのか


 その答えは単純明快だった

 そもそも、3羽の雉は実行犯ではなかったのだ


 桃太郎は初め、実行犯は鬼ではないかと疑っていた

 けれどそれも違った


 実行犯は、ここで銀を採掘し加工していた人間達だ


 銀を加工する際に出る有毒物質を全て川に流していた

 もちろん本人達にそのつもりはない

 鬼に命令されるがまま動いていた


 そしてそれは鬼にもメリットがあった




 そもそも、あの3羽はおそらく鬼に洗脳された雉だったのだろう

 ではなぜ、雉を洗脳する必要があったのか


 それは他の鬼が来た時にいち早く気づけるようにするためだ



 位置関係から、他の鬼が山城まで来る時には、雉が住む神社をほぼ必ず通過する

 だからこそ、そこを押さえて監視することは合理的だった

 他の鬼の接近にいち早く気づけるのだから


 ではなぜ早く気づく必要があるのか


 それは、緑の鬼が最後に教えてくれた

 貢物が気に入れば、代わりに褒美をもらえる

 神の美酒が何かはわからないが、鬼達が躍起になって欲しがる代物なのだろう


 だからこそ、きっと鬼達は皆が貢物の取り合いをしている

 そして、ここはあまりに立地が良過ぎたのだ




 ずっと気になっていたことがある

 なぜわざわざ、こんなに立派な山城を作ったのか

 鬼からしたら人間如き気にする価値もないほど矮小な存在なはずなのに


 理由は一つ

 他の鬼も敵だったのだ



 もう一つ気になっていたこと

 日鬼真宗の名前

 日鬼宗ではなく日鬼『真』宗

 なぜ真がついているのか



 ……これはただの妄想だが、あの緑鬼と青鬼は他の鬼からこの地は奪い取ったのではないだろうか

 自分よりも力が弱い他の鬼から

 過去に日鬼宗の神として奉られていた存在から


 鬼の王への貢物は金銀財宝に女が一般的なのだろう


 ここにいれば、そのどちらも手に入る


 鉱石は洗脳した人間に掘らせればいい

 女は日鬼真宗が勝手に届けてくれる


 労せず全てが手に入る神立地だったのだ


 それこそ、他の鬼が羨むほどに

 侵略する価値があるほどに



 桃太郎は伯智と話ながら、そんな思考をめぐらせていた



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