攻城戦6
鬼の大太刀は桃太郎めがけて振り下ろされ
その刃は、桃太郎に当たらなかった
桃太郎の背後から血が噴き上がる
鬼の太刀は桃太郎の背後、忍び寄ってきていた人間を切り殺した
緑の鬼の顔に不機嫌さが滲み出ている
誰が見てもわかるほどにご立腹だ
「おい、クソ宗教野郎ども……まだ一騎討ちは終わってねぇんだよ。なに邪魔してくれてんだ」
桃太郎が振り返ると、小刀を持ち桃太郎を突き刺そうとしている首のない人間がいた
どうやら、鬼に命を救われてしまったらしい
桃太郎はその服装を見たことがある
日鬼真宗の信者だ
さらに鬼の背後にも一人、信者がいた
鬼の背中を刺そうと忍び寄っている
それは無意識だった
一方的に借りを作られるのが嫌だったのかもしれない
もしくは…………
何はともあれ、桃太郎の口をついてその言葉が出ていた
「後ろだ!」
緑鬼は瞬時にその言葉に反応した
鬼はまるで背後にも目があるように、大太刀を振り回した
あっという間の出来事だった
信者は絶命した
自分が死んだことに気づくこともなく
鬼は驚いたような顔で、桃太郎を凝視していた
少しして、笑みを浮かべながら桃太郎と距離を取った
桃太郎は、その僅かな時間のおかげで少し痛みに慣れてきた
相変わらず、開いた傷口から血は流れ続けているが、あまり気にならない
霊刀『鬼喰兼親』を石垣の隙間に深々と突き刺し、それを支えに立ち上がる
鬼はわざわざ距離をとった
仕切り直しだと言わんばかりに
貸し借りは無しだと言わんばかりに
「いいぞ。よく立った。もっとやろうぜ」
そう言って、鬼が切り掛かってくる
単純に、単調に
開戦の一撃ともまた違う
ほんの僅かに手心を加えられた一撃
きっと無意識なんだろう
できるだけ長く遊ぶために、あえて避けやすく
あえて、分かりやすく
しかし、今の桃太郎はかろうじて立ち上がっただけ
避けることなどできない
その斬撃を受けるしか選択肢がなかっただろう
もし手に持つ刀が霊刀ではなかったならば
避けられないが、幸いにもその必要もない
鬼の側面、石垣の間から一本の刃が飛び出した
その刃が、鬼の左腕を切り落とした
ほんの一瞬、まるで時間が止まったかのような衝撃だった
鬼は痛みと驚きで、攻撃を中断し石垣から距離を取る
石垣から次の刃が出てきたら、首が落ちかねない
その姿を見て桃太郎は霊刀『鬼喰兼親』を石垣から抜いた
それと同時に、鬼の腕を落とした刃も石垣の中へと消えていった
まるでその二つの刃がつながっているかのように
鬼と同じように桃太郎の持つ霊刀にも二つ能力がある
柄から繋がっている刀身の形状を自由に変化させることができる能力
ただし刀身が折れた場合、柄と繋がっていない刀身は再度接続しなければ形状変化ができない
そしてもう一つの力
『鬼喰』の名前の由来になった力
捕食者たる鬼すら喰らう力
周囲の金属を自らの刀身へと吸収することができる
ただし、上限があり通常の刀身よりも大きくなった場合、数秒で過剰分は崩壊し元の金属に戻る
そしてこの金属には血液中の鉄分も含まれる
そう、刃こぼれしようと刀身が折れようと、敵を切ることで、敵の血を喰らうことで、鬼喰兼親は復活する
不壊にして不滅の刀
桃太郎は霊刀『鬼喰兼親』を石垣の内部で変形し鬼の腕を切り落としたのである
つまり石垣から生まれた刀は正真正銘、桃太郎の霊刀である
この一撃よって、桃太郎と鬼の戦いはまた五分に戻った
桃太郎は、古傷が。
鬼は片腕を無くした。
それでも鬼はブレることなく桃太郎に声をかける
鬼は満面の笑みで笑っている
「お前、最高すぎんだろ!!」
その言葉を聞きながらも桃太郎は決して警戒をとかない
同じ轍は二度踏まない
もう桃太郎に不意打ちは決まらない
両者距離をとり、互いに牽制し合う
時々鋒が触れ合うものの、お互い決め手に欠けていた
左腕を失った鬼は、いつもとバランスが違う
大太刀の重量加算は怪我した体への負荷が大きい
そう何度も連発できないし、失敗すればバランスを崩しこの遊びが終わってしまう
かと言って、重量の相手への負荷は妖刀『狛犬』の軌跡には効果がなかった
分身は本体ではないと言う判定だった
つまり、簡単に桃太郎を崩すことはできない
対する桃太郎はと言えば、戦うこと自体は可能である
いくつか決め手がないわけではなかったのだが、先ほど開いた傷が動きを鈍らせているせいで、その決め手を使って最後まで決め切れる自信がなかった
結果、膠着状態が生まれた。
そしてこの膠着状態に、天は鬼の味方をした
鬼の背後から声がした…………
「兄上、何を遊んでいらっしゃるのですか」
冷たい声が聞こえる
それと同時にどこからともなく、一本の矢が飛んでくる
桃太郎はその矢を妖刀『狛犬』で防ぐ……しかし気を抜かない
破られる可能性があることを知ったから
実際、通常であればその矢の威力では狛犬を抜くことはできなかったはずだった
けれどその矢は、普通の矢ではなかった
『狛犬』の防御を避けるように飛んできた
それは空中で軌道を変えた
桃太郎は咄嗟にその矢を払い落とす
反射的に動いたせいで、狛犬を使って矢を弾いてしまった
その一瞬を緑鬼は見逃さない
鬼の大太刀が左下から迫ってくる
桃太郎は『鬼喰兼親』を逆手に持ち替え、その刀身をできる限り短く分厚く変化させた
普段使う必要のない『鬼喰兼親』の防御手段
しかし、霊刀『大蛇』の攻撃は防御できない
1秒、桃太郎の体重が軽くなる
桃太郎は大きく吹き飛ばされた
さらに、吹き飛んだ桃太郎を追って三本の矢が追尾してきているのが見える
普通の矢では取り得ない軌道を描きながら




