攻城戦5
再度、桃太郎が接近し攻撃を仕掛ける
妖刀『狛犬』と霊刀『鬼喰兼親』を腕をクロスさせ左右に持っている
桃太郎は鬼の首を狙うため跳躍した
桃太郎が弾丸の如く宙を舞う
あと少しで、霊刀の鋒が届く距離に近づいた時だった
今度は、鬼が桃太郎の攻撃に対しカウンターを繰り出した
鬼の大太刀が、桃太郎めがけて右から水平に薙ぐ
鬼は、自分の太刀の優位性を理解していた
桃太郎の持つ打刀とは大きく異なる点がある
お互いの刀が触れ合えば、大太刀の方が桃太郎の刀を2本とも折ることができる
それでも、黒い刀は修復可能なのであろうが、大前提として長さが違うのだ
桃太郎の持つ霊刀『鬼喰兼親』は一般的な長さの刀だが、鬼の持つ大太刀はその倍はあろうかという異常な大きさである
普通の人間には扱えないであろう代物だ
と言うか、扱おうとも思わないだろう
そう思えるほどに、長く重い
当然、その攻撃範囲もかなり広い
距離さえ見間違えなければ、鬼は一方的に桃太郎を攻撃できた
加えて、桃太郎は鬼の首を狙うために跳んだ
周囲に足場はない
方向転換するための足場が
もはや宙に浮いたただの的だった
これでは鬼の大太刀を真正面から受ける他に選択肢はない
桃太郎は右から迫り来る大太刀を冷静に見ていた
妖刀『狛犬』は防御に、特に広範囲での防御に特化した刀だが、今回に関しては相性が最悪
鬼の大太刀は、その防御を紙屑のように切り裂く
…………にも関わらず、納刀しなかったのには理由がある
それは、刀をどのように振ったとしても、その場に軌跡が残る能力を持っていたからである
実態を持った何かをそこに生み出せる点にあった
それには、防御以外の使い道もあるのだ
桃太郎は鬼の大太刀が自分に届くよりも早く妖刀を動かした
左から右に、妖刀『狛犬』の鋒が空を断つ
目の前に、白銀の帯が生まれる
宙を舞う桃太郎は止まれない
その白銀の帯に向かって突き進む
そこで桃太郎は白銀の帯を、右手に持った霊刀『鬼喰兼親』で受けた
自ら作り出した妖刀の軌跡と霊刀の刃先が触れ合う
先ほどまで何もなかった空中に足場ができた
白銀の帯が
その白い帯の上方向へと力と体を、受け流すように、体を小さく丸めた
タイミングを見極め、白い帯を下に押し込むように右手に力を込めた
桃太郎が大太刀の軌道のさらにその上へと跳ねた
鬼の大太刀は桃太郎がいたはずの空を切った
桃太郎は、カウンターを避けただけでなくその勢いのまま鬼の頭の上、約1メートルほどに接近する
鬼は目だけでその姿を追っていた
しかし、大太刀を全力で振ってしまったため、反撃はできない
桃太郎は回転するその勢いのまま、鬼の頭を縦に切り裂くように霊刀を振るった
鬼は咄嗟に頭を避ける
その結果、鬼の左の肩を桃太郎の霊刀が切り裂いた
鬼の肩から血が噴き出した
これが人間相手であれば、勝負を大きく動かせるくらいには深傷であった
しかし相手は鬼である
この程度の傷では、戦局を大きく動かせるほどではない
そう思えるほどに、鬼の身体能力は並はずれている
それでも、肩の腱を切れたのは大きかった
これで、鬼は左腕を自由に動かし難くはなった
鬼は自分の肩の傷を見る
抑えるでも、止血するでもなくただ見た
そしてその表情は、命の掛け合いに飢えているものの表情になる
自分の命に鋒が触れる感覚を楽しんでいる
「いいぞ、いいぞ。やっぱお前も最高だよ。楽しくなってきたぁ。……あっ……楽しんじゃった。
…………
…………仕方ない、質問のヒントを出してやるぜ。俺らが人を、物を、盗むのは我らが王への貢物のためだよぉ!!」
鬼の頭上を飛び越えた桃太郎めがけて、言葉に合わせて鬼の横薙ぎが飛んでくる
桃太郎は一瞬油断してしまった
理由は二つある
一つ目は純粋に、鬼の言葉に耳を傾けてしまったから
まさか、鬼が他者のためにこんなことをしているのだと思わなかった
そしてもう一つ、肩の腱を切られたはずの鬼が振る大太刀の速度が、異常に速かったから
それは軽い枯れ木の枝を振ったかのような速度で接近した
……避けられない
そこで桃太郎がとった手段は、物量による防御
妖刀『狛犬』を自分と大太刀の間で無意味に可能な限り早く動かす
その際、桃太郎はほんのわずかでも太刀から遠ざかる
純白の薔薇のような妖刀の軌跡が生まれ、それが無惨にも鬼の大太刀によって割られていく
純白の薔薇がガラス細工のように粉々になる
けれど少しずつ、大太刀の速度も落ちる
妖刀の防御を突破した時、その大太刀は桃太郎の2本の刀で防げる威力まで落ちていた
…………はずだった
いや、実際そのくらいには速度も威力も落ちていた
おかしくなったのは、桃太郎の方だ
鬼の太刀を桃太郎は2本の刀で防御した
しかし鍔迫り合いは起こらなかった
驚くことに全くと言っていいほどに、踏ん張りが効かなかったのだ
桃太郎の刀と鬼の大太刀が触れ合い、桃太郎が吹き飛んだ
体諸共吹き飛んだ
その勢いのまま、桃太郎は石垣に衝突する
さらに鬼が追撃する
桃太郎の落下地点には既に鬼がいた
強烈な回し蹴りが桃太郎を襲う
桃太郎が船の上で受けた深傷はまだ完治していない
激しい運動をすれば、その傷は開く
まして、そこに鬼の蹴りなど入れば言うまでもない
桃太郎の脇から、激痛と共にドクドクと血が滲み出した
蹴りが加わったことで呼吸もうまくできない
目の前が歪んでいる
桃太郎は、早くも膝をついた
妖刀には妖術が込められていると言う
霊刀には霊魂が封じられていると言う
その二つにどのような違いがあるのか、そもそもそれが事実なのかはわらない
もしかしたら、どちらも偽りかもしれない
けれど、名前が区別される明確な理由はある
妖刀は、能力を一つ持つ
霊刀は、能力が二つ宿る
緑鬼が持つ大太刀
真の名を霊刀『大蛇』
その力は、最大で使用者自身と霊刀『大蛇』の重さの合計分を、霊刀に加算または減算できると言うもの
その重さの範囲は使用者が任意に決められる
そしてもう一つ
直接、または刀で触れた相手にも同様の能力を一秒間強制的に付与できる
ただしこちらから攻撃を加えた場合に限られるが
凶悪なのは、刀と刀で触れた場合も能力が適用されること
重さの指定は、相手の体重分を全て加算するか減算するかの二択
自分の場合とは異なり、他者に能力を行使する時は中途半端な重さにはできない
大太刀の重さをゼロにすれば敵の想像以上の速度で攻撃ができ、逆に重くすれば防御を全て打ち砕く必殺の攻撃ができる
妖刀『狛犬』の防御を容易く突破するほどの攻撃ができる
逆に極限まで軽くすれば、風に吹かれるシャボン玉のように少しの力で大量に移動できる
実質体重がゼロになる
攻撃に合わせて触れ合えば、緊急回避にも使える
けれどここまでは、多くの人が予想する
桃太郎もそれは予想できていた……が…………
問題は後者の方
二つ目の力
完全なる初見殺し
刀が触れ合った瞬間、相手の体重をゼロにすることで防御の意味なく吹き飛ばす
防御崩しの一撃
桃太郎はその一撃の餌食になったのだった
緑鬼が、少し悲しそうに、そしてとても詰まらなそうに、桃太郎を見ていた
「おい……もう終わりかよ」
鬼は刀を振り下ろした




