攻城戦4
桃太郎は緑鬼と一定の距離で牽制し合う
武蔵は青雲を連れて、あっという間に山城を駆け上がっていった
ここからは、二人の一騎打ちである
「なんだなんだ、ここに来てご主人様のご登場ってか。しけた真似しやがって、代わりに俺のことを楽しませてくれんだろうなぁ」
その声は、内容とは裏腹に愉楽を隠しきれていない
しかし、桃太郎にはそんなことは関係ない
この鬼はねねを攫った鬼なのだから
「……次に鬼にあった時には聞いておきたいことが一つありました。
あなた達はなぜ、人を攫うのですか……他人の幸せを……尊厳を踏みにじるようなことをすのですか」
その発言を聞き、鬼の声から軽快さが消え失せた
「おいおいおい。これから殺り合おうって時に、萎えること言ってくれるなよ。……そうだな、俺を楽しませてくれたら教えてやってもいいぜ。……なぁ!」
その言葉と共に鬼が仕掛けてきた
奇襲と言えば奇襲なのだろう
しかし、どちらかと言えば真っ向勝負に近い
その攻撃はなんの小細工もない、ただ大太刀を振り下ろすだけの一閃
それを、桃太郎は妖刀『狛犬』使って防ぐ
…………そのつもりだった
桃太郎が妖刀『狛犬』を振るとその軌跡に白銀の帯状の靄が現れる
実態を持つその靄と大太刀がぶつかった
若干、大太刀の速度が遅くなる
しかし、止まらない
止まる気配すらない
その振り下ろされた太刀は妖刀が作り出した白銀の靄を切り裂いた
靄にヒビが入りガラスのように割れる
桃太郎は咄嗟にもう一本の刀、霊刀『鬼喰兼親』で大太刀を受ける
しかし、その太刀のあまりの重さに、体が反らされるのを感じる
桃太郎の力でもってしても、押し潰されそうなほどの重さが乗っていた
パキッ
小さな音と共に、桃太郎の持つ霊刀にもヒビが入る
その刀が折れるよりも前に、桃太郎が後ろに飛び退き力を逃す
霊刀が折れる前にぎりぎり去なすことができた
しかし、これは流石に想定外である
桃太郎は初めて、妖刀『狛犬』の守りが破られたのを見た
それも、なんの苦労もなく易々と
少しプライドが傷つけられたような気分である
妖刀『狛犬』の力は一秒間、軌跡に実態を残すというもの
いわばその軌跡は、妖刀の分身である
それが割られた
つまり、もし妖刀本体であの大太刀を受ければ、同じように易々と刀が折れることになるということ
妖刀『狛犬』とあの大太刀の相性は最悪である
鬼の本気の一撃は是が非でも避ける必要がある
「おいおいおい。あの猿も最高だったが、お前も最高かよ。俺の一撃を受けてかすり傷ひとつ負わなかったのはお前で二人目だぜ」
鬼は少しハイになっている
その声には先ほどよりも強く愉悦が滲み出ている
しかし、桃太郎はその言葉に耳を傾ける余裕はない
頭をフル回転させて作戦を考える
そして辿り着いた解決策
攻撃は最大の防御という言葉がある
桃太郎は、あの大太刀に全力の一撃を出させないため、攻め続ける必要があると判断した
霊刀『鬼喰兼親』が黒く渦巻く
先ほど入ったはずの霊刀のヒビは消えていた
桃太郎が、鬼に向かって駆け出した
勢いをつけ、横向きに一回転しながら2本の刀で水平に切りつける
その攻撃を鬼は大太刀一本で受ける…………ことができなかった
白く輝く短い刀は受け止められた
しかし、黒い方の刀が大太刀をすり抜けた
そのまま、刀が鬼の目を狙って迫ってくる
次は鬼が仰反る番だった
そのままバク転をして距離を取る……ことを桃太郎は許さない
顔を上げると既に次の攻撃体制に入った桃太郎がいた
黒い刀が上から、白い刀が左から迫ってきている
鬼は瞬時に判断する
左からの攻撃が先に来る
その瞬間、鬼は白い刀の攻撃のみに集中し大太刀を合わせ防御した
2本の刀が触れ合い、鬼をかなり後方まで吹き飛ばした
そのせいで、黒い刀の攻撃は不発に終わる
それほど威力がある攻撃はしていない
にも関わらず、吹き飛んだ
何より手応えがまるでない
桃太郎はその不思議な感覚に気持ち悪さを感じた
妖刀『狛犬』の力は一見すれば、簡単に予想ができる
けれどこの鬼は、今のわずかな攻防で霊刀『鬼喰兼親』の方の能力も理解しつつあった
大太刀で黒い刀を受けようとした時、黒い刀が一度折れたのが見えたのだ
しかし直後、大太刀を通り過ぎてからまた折れたはずの刀が繋がった
それ以前に、鬼の最初の攻撃でできたはずのヒビも消えている
つまり、あの刀はたとえ折れようともまた復元する力があるのだろう。と考えていた
実際、この考察は当たらずとも遠からずくらいには的を射ていた
対する桃太郎も、鬼の持つ大太刀に何かしらの力が秘められていることに気がついた
最初の攻撃、振り下ろされたあの大太刀は信じられない重さがあった
それこそ、桃太郎二人分はあるのではないかと思ったほどだ
その原因を桃太郎は、あの鬼の膂力のせいだと思た
しかし次の妖刀『狛犬』であの大太刀に触れた時、逆に驚くほどに重さを感じなかった
まるで舞い落ちる木の葉を切ったかのような、不思議な感覚だった
実際、鬼が後方へとほとんど力を加えることなく飛んだことからも、重さが減っている可能性が伺えた
お互いの手の内が少しずつ暴かれている
そしてお互い、攻撃を受けることは許されない特殊な状況
防御不可な一撃と防御をすり抜ける一撃
能力は違えど結果は同じ
受けたら負けである
まだ、一騎討ちは始まったばかり
桃太郎は、鬼めがけて駆け出した




