攻城戦3
青雲の目の前に鬼の大太刀が振り下ろされる
月光に輝くその太刀は、死ぬ直前に見る光景としてはあまりに美しいと思った
けれどその光景は、長く続いてはくれない
青雲は刀と刀がぶつかる音で我に帰った
その太刀は、突然現れた真っ白な刃によって防がれた
それを、その白銀の刀を加えている生物がいる
その刀を青雲は知っている
その速度を青雲は知っている
そいつを青雲は知っている
その頭が硬い犬の速度は、鬼の太刀を受け止める程度では終わらなかった
そのまま、鬼をかなり後方まで弾き飛ばした
遠くに、体勢を崩された鬼が目に入る
それとほぼ同時に、武蔵が倒れている青雲の隣に着地する
「大丈夫ですか。まだ死なないでくださいよ」
「へっ、この程度かすり傷だわ。……ところで兄貴は?」
「すぐ追いつきますよ。拙単体の方が速いので先に助けに来ただけです」
「……なんだ、俺のこと大好きかよ」
「…………そんだけ軽口が叩ければ問題ないですね。まだ拙たちの役目は終わっていません。手伝ってもらいますよ」
「……全く、猿使いの荒い……で、何すればいいんだい?」
「まず、拙が咥えている妖刀『狛犬』を地面に突き立ててください。もう必要ないので」
「ほいよ。次は?」
「拙に乗って待機です。タイミングを見て駆け上がるので、振り落とされないでくださいね」
その時、体制を立て直した鬼が話しかけてくる
「おいおいおい。なんだよその犬は! いい速さしてんじゃないかよ。猿、お前の奴隷仲間か?」
「ちげぇよ。…………ただのダチだよ」
最後の一言を言った直後、武蔵は鬼めがけて駆け出した
何者かが地面に突き刺した妖刀を手に取ったのが目に入る
武蔵の足の速さに匹敵する何者かが…………
普通なら、武蔵の疾走は緑の鬼に一刀両断されていただろう
しかし、鬼にそんな余裕はない
武蔵と近しい速度で、青雲に近しい膂力の人間が繰り出す、回転斬りを大太刀で防ぐので手一杯だった
そこには、鬼と鍔迫り合いをする桃太郎がいた。
「武蔵、青雲。ねねを任せた!」
その声に、二匹の背中は優しく押された気がした
武蔵は、山城の上へと続く道を駆け上がっている
所々人間の兵士が見えるが、青雲の姿を見て一瞬攻撃の手が止まっている
先ほどの恐怖が、兵士の体を硬直させた
その一瞬があれば、武蔵はその場を振り切れた
結局、大した戦闘をすることもなく目的地に到着した
山城の頂上近くにある鉱山用の横穴
この先のどこかにねね様がいる
通常であれば、無数に分かれる坑道の中、迷子になるのだろうが武蔵には問題ない
一才の迷いなく、坑道の中を進んでいく
ねね様の匂いは、まだ追えている
坑道の中にも多くの人間がいた
けれどここにいる人間は、外の兵士と様子が違っている
老若男女とはず、さまざまな人が働いているが、全員生気を感じない
人間というよりも、初めて会った赤鬼の方が近い顔をしている
目は虚で、口からは涎が垂れている
服はまともなものを着ておらず、麻でできた腰布などを巻いて、鶴嘴を振り翳している
そして、誰一人として、武蔵や青雲を見て反応を示さない
ただ延々と鉱石を掘っている
まるで感情が壊れているかのように
武蔵は、鉱夫達を全て無視して走った
だんだんと匂いが強くなる
とある一本の坑道の最奥。そこに3人の女性がいた
その中の一人から、桃太郎が持つ桃の花と同じ匂いがする
ついに武蔵と青雲は見つけた
ねねである
武蔵は3人の女性のもとに駆け寄る
しかし近寄った2匹と3人は目は合いそうで合わない
ピントが合っていないような
女性達が全員、虚な目をしていた
「うぁ……あぅあ…………」
彼女らの口から出た言葉は、言葉ではなかった。
それはまるで赤子が発する音のような……
彼女達の腕には、注射痕が残っていた
青雲は武蔵の背中から降りる
この3人を外に出すためには、二人が協力しなければ一度に運ぶことはできない
青雲は、ズタボロの体を酷使する
それでも辛さは無い
桃太郎のためにできることがまだある事実に、気分がよかった
幸い、鉱夫は邪魔をしてこない
というよりも、この2匹の邪魔にならないように採掘場所を移動しているようにすら見える
行きも帰りも坑道は、不気味なほどに何もない
2匹はなんとか、坑道の入り口に戻ってくる
先ほど、この坑道に入った時と比べて、剣戟の音がかなり近づいている
どうやら、桃太郎と鬼の戦いが上へ上へと移動しているみたいだ
このままでは、人質をつれたまま戦いに巻き込まれることになる
桃太郎は強い
ねね様は桃太郎の強さの秘訣であり、それと同時に最も弱い部分でもある
なにより、今のねね様は良く無い
出会ってしまうと桃太郎は強く在れない可能性がある
可能な限り離れる必要がある
武蔵と青雲は已む無く、さらに山城を上へと向かう
すぐに城の頂上へと辿り着いた
広々とした比較的平坦な土地が頂上にはあった
だんだんと、刀が触れ合う音が大きく聞こえてくる
そしてついに、その二人が山城の頂上に現れた
桃太郎は左手に白く輝く妖刀を、右手に黒く渦巻く霊刀を構えていた




