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桃太郎-recast-  作者: 星乃光
振舞水
33/73

攻城戦2

 上空から飛来した数本の矢が青雲に突き刺さった


 青雲は咄嗟に左手で急所を守ったために致命傷は避けられた

 けれど左手を矢が貫通した


 左手に尋常ならざる熱を感じた

 痛みを通り越した熱が…………


 筋繊維が千切れ、骨すら貫通している

 直感でわかる

 これで、左手はまともに使えないことだろう


 しかし、まだ終わりではない

 終わる気配はない

 矢は、まだ止め処なく放たれている






 青雲は元々、体格に恵まれていた

 猿王の血は凄まじかった


 それに加え、きび団子を食べた武蔵や青雲の体毛は防御性能が高く、特に刀などの薙ぎ払いに対しては人間の力で傷をつけるのはかなり難しいだろう


 しかし、それは万能ではない

 全ての攻撃を弾けるわけでもないし、防御性能を上回る攻撃には耐えられない


 なにより槍や矢などの刺突系の攻撃はすり抜けて被弾しやすかった







 青雲は、自分の後方に倒れている気絶させた人間を頭上に持ち上げる

 いや、もはや気絶していた人である


 武蔵の手心が無に帰した

 だからといって悔やんでいる暇はない


 持ち上げた死体は最低限の防御力があった

 これで一旦、矢からは身を守れる


 持ち上げた、人間から矢が突き刺さる不快な振動が伝わる

 じわじわと血液が滴り落ちる


 だが、まだ窮地は終わらない

 頭上から降る矢だけが脅威ではない


 目の前にも脅威はいた


 驚いたことにと言うか、イカれたことに、先ほどまで鍔迫り合いをしていた人間がその続きを始めた


 それも笑顔で…………

 この矢の豪雨が降る中……


 目の前の人間が青雲めがけて刀を薙ぎ払う

 自分に大量の矢が刺さり続けながら、そのことを意に介さず攻撃が仕掛けられる


 青雲は左手に怪我を負っていたため、刀を持つ右手で頭上の人を支えていた

 支えてしまっていた

 そう、今、右手も使えないのだ


 つまり、二者択一である

 刀を防いで矢を喰らうか、矢を防いで刀を喰らうか



 一瞬の刹那、しかしその時間は青雲が今まで体験したどの瞬間よりも長い刹那



 かすかに存在する第3の選択肢

 それはとてもか細く淡い光明

 青雲はそれを理解するよりも早く無意識に動いた



 青雲は右手に持つ刀から手を離した

 戦闘中に刀が不自然な動きをする


 相対する人間は、目の前で突如として刀身が下を向いた事に気を取られた


 落下する刀に視線が釣られる

 釣られてしまった


 青雲は、武器を刀から頭上に持つ人間に変えた


 その大量に矢が刺さった死体の足を持ち、振り回す

 怪力の青雲だからこそ、右手一本で人間を自由に振り回せる


 落下する刀に意識を奪われていた人間にはもう回避できない。

 彼にはその事実を理解する暇すらなかった



 ゴッ



 人間同士がぶつかるとても鈍い音がして人が吹き飛ぶ

 2メートルほど、人間が宙を待った


 青雲の動きはまだ止まらない

 さらに青雲は、人間を振り回す勢いを落とすことなく、一回転し上へと死体をぶん投げた


 70キロはあろうかと言う巨体が弓兵めがけて飛んでくる

 彼らは、その奇怪な攻撃に飛び避ける


 弓兵の頭の上で死体が回転していた


 周囲の地面に死体から飛び散る真っ赤な血が、斑点模様を生み出す


 しかし、たかが一体の死体で止まるような洗脳部隊ではない

 すぐさま、次の矢を射るために顔を出す


 誤算だったのは連続して新たな死体が飛んできていたことだった




 青雲は、最初の死体を上に飛ばす時、また数本の矢が被弾してしまった


 しかし、左手を貫いた数本とは異なり貫通はしない

 不意打ちでなければ深傷を負うこともない

 小さな傷がいくつか増えた


 その程度であれば、現状大した問題ではなかった


 周囲を見回すと、先ほどまで気絶していた人間が死体に変わっている

 前方で青雲を待ち受けていた、兵士も半数が死んでいる


 殺す気のなかった者達が死んでしまった


 別に桃太郎以外の人間が好きなわけではない

 敵であれば全力を持って相手をする

 それでも、味方の命を道具のように扱うその現状に憤懣を感じた


 青雲は、周囲に倒れている人の足を掴んで次々と弓兵向かって投げつけた

 憤りをぶつけるように投げつけた







 矢が刺さった死体から花火のように真っ赤な血が空を舞っている

 その血は、やがて雨になり、青雲の体を赤く染め上げた


 その姿を間近で見ていた兵たちは恐怖に駆られた

 刀を持つその手は震え、足は言うことを聞いていない

 逃げたくても、後ろには人間が詰まっていて逃げられない


 それはまさしく地獄のような光景であった




 青雲が死体を上空に投げながら近づいてくる


 ついに、血に染まった大猿が目と鼻の先にまで近づく

 彼らには死を覚悟する猶予すらない



 目の前にいる生き物がいつの間にか大猿から弓兵に変わった

 まるで瞬間移動したかのように…………


 ……あれ……左手よりも左に右手が見える

 いや、落ちている


「うああぁぁぁぁぁあああ!!」


 誰かが、悲鳴をあげているのが聞こえる

 なんだか喉が焼けるように熱い

 ……この叫び声は俺の声ではないか?


 だめだ意識が飛ぶ…………

 悲鳴は聞こえなくなった




 弓兵は、死体が飛び散る姿を見てもぎりぎり戦意を喪失しなかった

 それほどまでに、洗脳は強かった


 しかし、生者がブーメランのように飛んできて、目の前ではらわたが飛び散る光景をみて遂に弓を握れなくなった。


 共に飯を食った仲間が、親友が、兄弟が、目の前で悲鳴をあげている

 手足をなくし、その痛みから殺してくれと懇願してくる

 目が潰れ、不安そうに名前を呼んでいる

 誰かの内蔵が、頭の上に降ってくる


 その光景は、あの大猿に、真っ赤に染まった地獄の使者に、矢を射なければ知らなくていい光景であった。

 まさしく阿鼻叫喚


 弓兵が皆、攻撃しなければこれ以上被害を出さないで済む()()()()()()狂気の世界だった。


 だからこそ、示し合わせたわけでもなく、全員が弓を石垣の下へ投げ捨てた

 あの大猿への全面降伏を示すために


 まるで神にお賽銭を投げるように






 その時、弓兵の背後から声がした


 「おいおいおい……何諦めてくれちゃってんだい?」

 瞬間、声を聞いた弓兵は頭を潰され死亡した


「ハイアーク様、いえ……これは…………」

「言い訳を聞きにきたわけじゃないぞ」

 二人目の弓兵も腹に足形の穴が開き、死亡した



 そこで弓兵は思い出した。こちらにも緑に染まった地獄の死者がいることを

 自分達は、もう詰んでいたことを




「はあ、ったく。我が妹がいない時に限ってこんなこと起こしやがって……。でもあいついいなぁ。俺の奴隷にならねぇかな……ああ、あの猿が終わったら、次はお前らの反省会(拷問)な」


 そう言って鬼は石垣を飛び降りた










 青雲は、上から弓が落ちてきた音を聞いて手を止める


 上の兵たちは、やる気をなくしてくれたらしい

 目の前にいたはずの兵も、全力で山城を駆け登り、一刻も早く青雲との距離を取ろうとする姿が目に入る


 どうやら、ここから先は比較的簡単にその山城を登れそうである

 立っているのもやっとだ

 その状況はとてもありがたい




 ……と思ったのも束の間だった


 目の前に緑の巨体が降ってきた



 その鬼と青雲の目が合う


 額には鋭い2本のツノ

 背中には人間には扱えないであろうほど大きな太刀

 体は緑に染まり、明らかに人間の色ではない

 けれどその仕草は、言葉遣いは、まるで人間であった


「お前、たった一人でここまでやっちゃうとか、すげぇじゃん。俺らの奴隷になれよ。自由にやりたい放題殺させてやるぜ。

…………じゃなきゃできるだけ嬲って殺さなきゃなんねぇ。……どっちがいい?」




 青雲は、もう戦える状態ではなかった


 左手が使えないだけじゃない

 身体中至る所に、矢が刺さっている

 疲労も限界に迫ってきている

 鬼の言葉も、ノイズがかかったかのように聞き取りにくい


 人間一人二人ならいざ知らず、万全な状態の鬼など手も足も出ないだろう。




 ここで、青雲が助かる道はただ一つ

 この鬼の奴隷になって、桃太郎が来るまでの時間を作ること


 嘘で一時的に凌ぐことだけだった




 青雲は呼吸を整えるために、深呼吸をした。


 じっと、緑の鬼の目を見る

 嘲笑うかのような眼差しで


「俺の主人(あるじ)はお前じゃねぇ」

「そうか」


 緑の鬼の拳が青雲の腹を潰す


 その動きを青雲はもう目で追う力すら残っていない

 自分が殴られた事にすら、気づくのに数秒の時間を要する


 青雲が数メートル後方へと吹き飛ぶ

 胃の中のものが全て口から出てくる


 青雲が顔を上げるとそこには、鬼の足があった


 頬に衝撃が走る

 直後、顔の反対にも衝撃が加わる

 どうやら、頭が石垣にもぶつかったらしい


「なんだお前、意外と丈夫じゃないか」

 青雲の後ろ髪を引っ張り、無理やり顔を上げさせながら鬼が声をかけてくる


「なぁ、やっぱ俺らの奴隷になれよ。他の奴らと違って飯も食っていいからさ。特別に休憩することも許す。猿だから女産めとも言わないからさ。……な、いいだろ?」


 青雲には声を出せるほどの余力はない

 無いはずだった


「…………糞食らえ」



 青雲は顎に衝撃を感じる

 蹴り飛ばされて体が宙を舞い、仰向けに倒れていた


 こんな夜でも月が綺麗に輝いている

 青雲の腹を緑の鬼が踏みつける

 気を抜いたら、それだけで潰されてしまいそうな重さがのしかかる


「残念だ。本当に…………」

 最後に鬼が一言漏らして背に背負った大太刀を青雲めがけて振り下ろした



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