攻城戦1
桃太郎は武蔵の切迫した雰囲気から、時間がないことを悟る
「伯智、残りの丸薬作りは全て任せる。武蔵、ねねはどこにいた?」
「山の中の煙突が特徴的な山城に囚われています。青雲が囮になってくれたおかげで、ここまで戻ってこれました」
そう話す武蔵の顔には若干の焦りが滲み出ている
桃太郎はその意思を汲む
簡捷に武蔵の背中に乗る
「わかった。急ごう。伯智、全部が終わったらまた会おう」
桃太郎の最後の言葉は、途中から風に飲まれて消えた
そこには伯智だけが取り残された…………
ここでまた少し、時間を巻き戻す
武蔵と青雲が山城で別れた時まで……
青雲は、山城へと駆けて行き目の前の石垣に向けて全力の一発を入れた
山城が、轟音を立てながら揺れている。
石垣の岩が砕け、いくつか崩れ落ち、けれど石垣全体は崩れなかった
せいぜい、人が一人入れるくらいの穴ができただけ
それでも十分にすごいのだが……
石垣を破壊するつもりだった青雲からしたら少し不満が残る
この時、青雲はその一撃でできるだけ目立つことを意識していた
敵の目を惹きつける必要がった
でなければ、囮としての意味がない
できるだけ、自分を脅威だと思ってもらう
そのためにも石垣の崩壊が最も衝撃的だったことだろう
やはり後悔が残る…………
加えて、その一撃を見て、人間が戦意消失することを期待した
青雲は十分に強い
しかし、それでも1匹ではできることには限界がある
流石に青雲一人で集落の人間全てと相手するのは無謀が過ぎるというものであった
結論としては、前者の目論見は成功する
この時点で、逃げた武蔵よりも反撃する青雲の方が十分に脅威であると判断された
もはや、武蔵に意識を割いている人は少ない
しかし、残念なことに後者の目論見は裏目に出る
先ほどの一撃を見て、全ての人間が全力で青雲を殺すために動き出した
まるで「鬼のために」と言わんばかりに
いや、実際にそう言っている奴もちらほらいる……
そんなことは、どうでもいい。
なぜなら、それは問題の本質ではないから
もっと差し迫った問題について考えよう…………
青雲は今、命をかけた狂戦士と化している集落の全人間を相手取ることになった
なってしまった
それは青雲からしたら、最悪の展開であった
石垣を殴った青雲に対して、上空から無数の矢が放たれる
山城の裏側から攻撃を加えたとはいえ、背面にもしっかりと弓兵が配置されていたらしい
青雲は、今しがた目の前にできた石垣の穴に身を潜め、その無数の矢を避ける
しかし、時間が経てば経つほど兵が集まってくるだろう
通常なら山城正面の方に多くの兵が配置されている
それが集まってくるのも時間の問題である
この横穴にずっと隠れていれば、いずれ囲まれて殺されてしまう
青雲は一刻も早くここから動かなければならない
無数の矢の雨を防げるのであればだが……
弓兵は馬鹿ではなかった
青雲を横穴に留め続けたら勝てることを理解しているのか、上から降ってくる矢は留まることを知らない
そのため青雲は、横穴から顔を出すことすらできなかった
…………
ふと、桃太郎の戦いが想起された
それは走馬灯に近い何か
死地に立たされて、わずかな望みを手繰り寄せるための一手
一か八か
生死をかけた大勝負
青雲は、横穴の入り口付近に移動する
矢が青雲を掠めそうなほどギリギリを降っている
青雲は上を見上げる
その目には空から降る無数の矢と、岩の天井が目に入る
少し気合を入れる
そこから、青雲は横穴の天井になっている石垣の大岩をぶん殴った
バゴン
石垣の破片が上にいる弓兵めがけて飛んでいく
もちろん距離があるのに加え、指向性も適当だ
そうそう簡単に弓兵に当たるような攻撃ではない
しかし顔を下げて避けなければ、致命傷になりうる危険性を孕んだ攻撃にはなった
弓兵の矢が数秒止まった
石垣は二回目の青雲の攻撃に耐えられなかったらしい
青雲が殴り飛ばした上部の石垣が音を立てながら、崩れ落ちる
山城に大きな砂煙が立ち上がる
偶然、一瞬の目眩しができた
青雲はもう石垣にできた横穴にはいない
既に崩落しているのだから、当たり前といえば当たり前だが…………
青雲は山城に存在する頂上へと登る道を全速力で走っていた
その顔はすっきりしていた
今回は壊せた
完全燃焼である
青雲目指して集まってきていた村人と比較的狭い通路で接敵する
その道の狭さゆえに、一対一の戦いができる
この状況は青雲に有利に働く
上からの矢は仲間に被弾する可能性があるから、容易には射ることができない
後方は、崩れた石垣で道が塞がり敵が来る憂いはない
前の敵にだけ集中できる状態
現状の最適解
すぐに青雲対兵士の戦いが始まった
先頭の人間が刀を振り下ろす
それを青雲は爪で弾く
そのまま、人間の手首を掴み腹に一撃を見舞う
あっという間に先頭の人間は気を失った
青雲は刀を奪い取り、次の敵に向かう
上からの矢を防ぐためには、常に人間とギリギリの接近戦を必要とする
できる限り、弓兵に味方への誤射を恐れてもらわないといけない
そのため短期決戦ならまだしも、長期戦では武器を持たないと厳しいと青雲は判断した
一人また一人と、青雲は敵を打ち倒していく
手に持った刀を防御のためだけに使用し、多くの人間が刀の間合いよりも内側に入り込まれ殴り飛ばされていく
もちろん青雲が本気で殴れば、人間の腹には拳大の穴が開くし、体は最低でも10メートルは吹き飛ぶことだろう
けれどそれはしない
近くに生きている味方がいるせいで、矢を射ることができない状況、が必要だった
結果生まれる、青雲が通った道には死屍累々の人間
しかし、その大半が気を失っているだけという異様な光景
青雲がその場でとった選択肢は間違いなく正しかった
事実として、上から降ってくる矢は止まっていたし、じわじわとだが青雲も山城を上へと登っていた
誤算があったとすれば、この山城を守っているのがただの人間ではなかったということ
鬼のために命をかけさせられる、そんないかれた洗脳をされた兵であったこと
全兵がその認識を共有し、必要に迫られれば味方さえも殺せたこと
そして何より、青雲は鬼の洗脳能力を知らなかったということ
青雲は上から矢が降ってこなくなり、近接線しかしていなかったので少しずつ視野が狭まり、上への警戒心が緩んでいた
……突如、矢を射られた時の音が聞こえ、自分の失策に気がついた
その時点でもう手遅れだった
上空より大量の矢が青雲を襲った
最初の数本が青雲を貫いた




