犬猿の
武蔵:犬
青雲:猿
時は少し遡る
武蔵と青雲がねねを追って、桃太郎と別れた時まで
武蔵が鼻を使い、匂いを追う
地面スレスレを武蔵の鼻が動く
一方、青雲が木に登り周囲の警戒をしていた。
細かく木々を移動しながら近くから遠くまで見える範囲全てを警戒していた
2匹は川沿いを進んでいく
一言も喋らずに…………
実はこの二匹、今まで互いにほとんど会話をしていない
基本的には桃太郎とどちらかが離す構図だった
口を聞かない理由など、そこまで多くはない
この2匹も例に漏れず…………
しかし、ここで武蔵が口を開いた。
それは会話というより、一方的な拒絶のようにさえ見える光景であった
「初めに言っておきます。拙は、あなたのことがあまり好きではありません。いえ、はっきり言いましょう。申し訳ないですが嫌いです。」
唐突な武蔵の宣言に青雲が口を開いたり閉じたりしている。
そんなこと意に介さず武蔵は話を続ける
「特に、その敬意を感じられないふざけた喋り方が癇に障ります。にも関わらず、気弱で泣き虫なところを見るとイライラします。」
その後に小さく「何より猿ですし」と付け加えられたが青雲には聞こえなかった
「お、俺だってお前みてぇな堅苦しいやつは好きじゃねぇよ。しかも初めて会った時、俺の兄貴に負けたくせして、桃太郎の兄貴が来た瞬間調子に乗りやがって。まじダセェ」
…………
お互いに気まずい沈黙が流れる
川の流れだけが聞こえる
「拙は、あなたのような猿が嫌いです、が……主人様がその力を欲しています。……その優しさを欲しています。
だから拙は最低限、仲良くなるための努力はしようと思います。
あなたが主人様の仲間である限りは…………拙はあなたのことを信用し信頼すると約束します。」
武蔵が青雲の方へと顔を向ける
その眼差しはお前はどうなんだと訴えかけていた
「……俺もお前のことは大嫌いだが、俺の大切な兄貴はお前の力を認めていた。
……単純にその速度はすげぇと思う。
それに……俺にはその忠誠心は真似できない。猿語を理解できるのもびっくりした
…………だから俺も桃太郎の兄貴のために仲良くなる努力をするよ。できるだけ協力もする。会話もする。」
「……そうですか。そう言ってもらえてよかったです。
それでは初めて任された最重要任務です。すぐには無理でしょうが、仲良くしていきましょう。
……ねね様の匂いを見つけましたよ」
武蔵が前を向いた。
一方青雲は上から見て気づいた
「ああ、そういうことか。船が見つからなかった理由がわかった。この辺の河原に落ちている木の破片がもともと船だった物だ。」
「つまり、奴らはこれより先、船を使うつもりがないということですね。別の移動手段があるのか。それとも貢物を献上する相手がここにいるのか」
「はたまた、何者かによって壊されたか。その全てかも」
青雲が木から降り武蔵の隣に立つ
二匹の視線の先には明らかに大人数で木々をかき分けた後がある
そしてその道に、べっとりとこびり付く赤い道標
「時間がありません。拙に乗ってください」
「いい……のか?」
「はぁ……嫌に決まっているでしょ。できることなら主人様以外を何人たりとも乗せたくなんてありませんよ。
でも時間がありません。これほどしっかり踏み固められた道があるなら、森の中でも拙に乗って移動した方が断然早いはずです」
青雲はちょっと不満そうに武蔵に跨った。
二匹は風を切り裂いた。その速さは音を置き去りにしたと錯覚するほどであった。
はじめ見えていた木の幹や葉は、いつの間にやら緑と茶色の残像に飲まれていた
そして、突然それは現れた。
血の道標が向かう先
悉く木々を伐採した空間
一つの山を全て占領するほどの大きな人間の集落の成れの果て
それは、侵入者を決して寄せ付けない山城
しかしそれ以上に目を引く、一本凛と聳え立つバカみたいな大きさの煙突
「目的地ですね。ねね様の匂いはこの奥からです」




