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シン・桃太郎  作者: 星乃光
龍天に登る
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旅立ち

「さて、これから秘伝の『きびだんご』を作りましょう

桃太郎も手伝ってくれるかね。」

「もちろんです」


 お婆さんが「ふふふ」と笑っている

「このきび団子は、一つ食べれば三日三晩動き続けることができる力を与える、特別な団子なの。でも量を作れないから大事に食べるのよ。」

「はい。わかりました。」


 桃太郎も頑張って、涙を拭い、笑顔を取り繕って答える。

 それでも、おばあさんと一緒に作ったきび団子は少し、しょっぱい味がした




 少しするとおじいさんが蔵から戻ってきた。

 おじいさんの手には二振りの刀がある。

 一本は脇差(わきざし)、もう一本は打刀(うちがたな)


「桃太郎よ。この刀は我が家に代々伝わる優秀な刀じゃ。きっとお主を助けてくれよう」

 そういって、渡された2本の刀は桃太郎が想像するよりずっと重く、この家の歴史を物語っていた


「そのような家宝を持っていってしまって良いのですか!?」

「無論じゃ!この刀は2本とも不思議な力を持つ、とても強力な刀と言い伝えられている。むしろ蔵に眠らせておく方がかわいそうじゃ」


「わかりました。大切に使わせていただきます」

「うむ。この脇差の名は『狛犬(こまいぬ)』、持ち主を守る力があるとされる妖刀。

そして、この打刀、名を『鬼喰兼親(おにばみかねちか)』という。鬼を払うほど強力な霊刀と言われている。きっとお主の助けになってくれるだろう。しっかりと役立てなさい」



 それからと言うもの、時間は飛ぶように過ぎ去った

 旅の準備はあっという間に終わった


 桃太郎は最後に、村人に挨拶に行く

 桶屋、畳屋、火消しに、呉服屋

 皆、様々な反応を見せた

 寂しがる者。心配がる者。羨ましがる者。


 それでも最後には皆が皆、桃太郎の門出を笑顔で送り出してくれた

 夕暮れ時になり、最後に我が家へと帰ると、お爺さんとお婆さんが庭に生えた、一本の美しく花咲く桃の木に手を合わせている。



「おじいさん、おばあさんどうしたのですか?」

 桃太郎の問いかけに、お婆さんが手を合わせたまま答える

「お桃様(ももさま)に、桃太郎が鬼退治に行くことをお伝えしているのですよ」


 お爺さんも目を瞑りながら言葉を添える

「そして旅の間も、どうか見守ってもらえるようにとお願いしているのだよ」



 桃太郎が生まれたあの夜、お爺さんとお婆さんは大きな桃を食べなかった

 小さな命を運んでくれた桃に感謝を込め、いつまでも見守ってもらえるようにと庭に埋めた

 月日が経ち、庭の一番いいところに埋めた桃は芽を出し、葉を広げ、きれいな花を咲かせた



 桃太郎もお爺さんとお婆さんの隣で同じように『お桃様』に手を合わせる

 いや、桃太郎の場合は『お桃様』ではなく『お母様(かあさま)』と呼ぶべきでしょう

 そこへ、仕事を終えたねね(許嫁)もやってきて手を合わせた


 すると、桃の木がまるでこれを持って行きなさいと言っているかのように、花がついた一本の小枝を落とした

 4人は目を丸くし、一瞬見つめ合ったのち、その小さな枝を大切に拾い上げた。




「それではおじいさん、おばあさん、行って参ります。どうかお元気で」

 桃太郎のお見送りにはお爺さん、お婆さんだけではなく村中の人が集まった

 大きく手を振っている者。涙を流す者。笑顔で送り出してくれる者



 隣には、鬼について教えてくれた旅人のお兄さんがいる。

 彼は序盤の道案内を、買って出てくれた。



 最後に桃太郎はねね(許嫁)の手を握る

 桃太郎が何か言うよりも先に、彼女が口を開いた

「桃様……どうか、お身体には気をつけて。大きな怪我はなさらぬように。そして何より、必ず帰ってきてくださいね」

「わかった。約束しよう。……そして帰ってきたら、ーーーーー」



 普段、どんなわがままも許してくれる『ねね』(大切な人)が鬼退治だけは大反対した

 それでも、最後にはしぶしぶ折れてくれた


 たった一つ、絶対に生きて帰ってくることを条件に。

 だからこそ、悲しませる結果にだけはしない。そう桃太郎は心に誓う




 そうして、桃太郎は旅立った

 桃太郎の右の腰にはお婆さんと作った吉備団子が、左の腰にはお爺さんから賜った二振りの刀が差してあった



 桃太郎は旅人のお兄さんについて歩く

 旅人のお兄さんに案内をされながら、村の近くの砂利道や畦道(あぜみち)を歩いていくと、大きな川へ到着した。


 その川は『坂東の大川』という名前の、お婆さんが洗濯に来ている川だ

 桃太郎はこれから、この川を道標にしながら、鬼ヶ島を目指す




 桃太郎は旅人のお兄さんに案内されるまま、対岸へと渡れる箇所へ着いた

「桃太郎少年、一度ここで対岸へ渡るよ」

 桃太郎は言われた通りに旅人のお兄さんについて行く


 対岸に着いた時、ようやく桃太郎が口を開いた。

「なぜ対岸へと渡ったのですか?」

 待ってましたと言わんばかりに、旅人が少し自慢げに答える


「こっち側の岸の方が村が多くあるんだよ。鬼ヶ島までの道のりを考えると、こっち岸の方が断然楽だからね」

 さすがは旅人を名乗るだけのことはある、と桃太郎は尊敬の眼差しを向ける



「さて、桃太郎少年。僕はここでお別れだ。この川沿いをずっと歩けば、今日中には次の村まで辿り着けるだろう。

その後も山の麓まで歩き続ければ、少し遠回りにはなるけれど鬼ヶ島まで辿り着く道が繋がっているよ」

 桃太郎の視線に少し戸惑いつつも、旅人のお兄さんの口からお別れの言葉が紡がれていく

 

「山の麓に着いたらどうすれば良いのでしょうか」

 聞くつもりのなかった言葉が口をついて出てくる


「三ッ峰山と赤城山という二つの山が門番のように立ちはだかるところがある。

そこの間を縫ってさらに進むと、山の麓の最後の村がある。

そこで話を聞くといい。きっと色々なことを教えてくれると思う。」


「……わかりました。……本当にここまで案内してくださり、ありがとうございました」

 桃太郎の言葉を聞き、お兄さんは少し寂しそうに、桃太郎の頭をわしゃわしゃしてから、また川の対岸へと戻っていきました。



 一人になった桃太郎は、まず懐から小さな箱を取り出す。

 その中には一本の花がついた桃の小枝が入っていた。


「お母様、どうか私を見守っていてください」

 ぽつりと一言呟き、桃太郎は顔を上げ歩き始めた。




 桃太郎は道すがら出会う人々の願い事を聞き、その一つ一つに丁寧に答えながら旅を進めた。

 

 ある時はおばあさんの荷物持ちをし、またある時には大規模な治水工事の一部も手伝った

 そのお礼として、宿や食事を提供してもらった

 力持ちの桃太郎には、さして大変な仕事ではなかった

 されど桃太郎が持つ魅力は、そこに小さな優しさの花を咲かせていた


 時々、桃太郎は鬼の話を聞いてみたりもしたものの、残念ながら旅人のお兄さんが教えてくれた以上の情報を得ることはできなかった。



 決してのんびりしてはいなかったものの、山の麓にたどり着く頃には春は過ぎ去り、初夏に差し掛かっていた。

 初め、かなり平坦だった川沿いの道が、だんだんと急になっていくのを感じる

 それにつれて動物の声が近くなる

 気づけば森の木々が青々と茂っていた



 旅人のお兄さんが話していた三ッ峰山と赤城山が門番のように立ちはだかって見える地点に到着した

 確かに門番のように見えないこともない。


 もうここまで来ると『坂東の大川』も、ただの普通の川程度の川幅くらいしか無くなってしまった

 さらに川上へ、山の中を桃太郎は登っていく


 鬱蒼とした木々の間を、川のせせらぎを聴きながら突き進むと、突如目の前がひらけた

 桃太郎は、第一の目的地である山の麓の最後の村に辿り着いのだ





 …………嫌な空気が漂っている


 その村は明らかにピリついている気配に包まれていた

 戦いは目前に迫っている



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