十六
桃太郎の口から言葉がこぼれる
「…………なぜ……鬼にではなく雉に向かって…………」
「祖父はそれからすぐに乱戦に巻き込まれて、意識を失ってしまいます。
けれどその直前、人間の男達に混ざる一匹の女の青鬼を見たそうです。
ここからは予想になりますが、もしかしたら鬼には他の生物を洗脳する力があるのではないかと言っていました。集落の男ども然り、離反していった雉然り、明らかに行動がおかしかったそうなので。」
これで、伯智の話はほとんど終わった
そこから先は、生き残った過激派は村の外に追いやられ、川を越えることを禁じられたことや、今の族長は、どこからともなくやってきて群れをまとめ上げ、混乱に乗じて今の座についたとなどが軽く触れられた。
二人は治療薬の材料の採取をし終えて、それらを持って船に戻った
調合用の道具は船にしかなかったからだ
伯智の話には桃太郎の知らない鬼についての話があった。
それも超有力情報
奴らには洗脳能力か、それに近しい力がある。
発動条件は不明
予想としては、接触時間か距離が有力
全鬼にその力があるかも不明
ただし警戒するに越したことはない
できることならば、短期決戦が望ましい
そしてもう一つの話
頬に傷がある男は、鬼から逃げていた
逃げた方向は、私たちの旅路とは反対方向
つまり、鬼ヶ島から遠ざかるように……
わざわざ森を進んでいるのは、隠れやすいからか…………
そして、一番大切なこと
彼は大きな桃を持っていた
伯智曰く、信憑性はいまいちだというが……
まあ、大きな桃というのを容易に信じられない気持ちはわかる
ただし、桃太郎はその存在を知っている。
信じる以外の選択肢を持っていない
頬に傷のある男が死んでいた場所は武蔵達の一族の墓
忘れもしない、あのとても幻想的なあの土地には、川が流れていた
坂東の大川の源流が
それは、桃太郎が旅の道標として使った川
そして、お婆さんが普段、洗濯物をする川
武蔵の話では、男の墓を作ったのが10年以上前
伯智の話は、おおよそ15年くらい前の話
桃太郎は、今年16歳である…………
偶然というにはあまりにできすぎた話であった
二人は、また静かになる
ゴリゴリと採取したものを砕く音だけが響く
残暑のせいか、採取作業で汗ばんだ服が乾くことを忘れているようだ
夕暮れ時になっても、まだ暑い日が続いている。
そんなこんなで、丸薬が完成した。
きび団子よりも一回り小さく、その見た目はまさしく薬だった。
その一粒を、伯智に渡す。
いまだに完全回復をしていない、その上、会話ができる彼が治験者になってくれるのが最も合理的だった。
「少し痛みが緩和された気がします。即効性はきび団子と比較すればかなり薄いですが、若干の効果はあると思います。ただそれ以上に必要な栄養素が満たされたような感覚がありますね。継続的な接種で大きな効果を発揮できるかもしれないです。」
それは、最悪ではないが想定通りの悪い結果だった。
これでは、明日の日没までに治療法を見つけることは失敗である。
その効果を実証できないのだから
つまり、雉達と桃太郎の賭けは負けたことになる
村に入れなくなることも、きび団子を奪われてしまうことも、できれば避けたい
故にもう一つの方、根本的な原因の調査に期待するしかない
桃太郎はほぼこの病の原因に目星がついている
尾羽が長い雉が飛んでいった方角と、武蔵と青雲が向かった方角は一致していた。
伯智の話は仮説を裏付けるのに十分な内容だった
あとは物的証拠さえ出れば、全てが解決する
そこへ風を切る音が聞こえる
軽快な足音が聞こえる
たった数時間しか経っていないのに、とても懐かしく感じる
武蔵が船に跳び乗った
「主人様、ねね様を見つけました!背中に乗ってください!」




