病
武蔵:犬
青雲:猿
紫炎:青雲の兄
桃太郎は最初の患者の隣に膝をつく
泊地の従兄弟である
一番最初の患者ということもあり、病の進行がかなり進んでしまっている
立ち上がることもできず苦しそうに倒れている
目はもう開いていない
きっと開けることすら辛いのだろう
診察する限り、音も聞こえていないだろう
いや、音に反応することすら煩わしいのだろうか……
呼吸もかなり浅く、今にも死んでしまいそうに見える
桃太郎は優しく雉に手を当てる
ピクッ
その瞬間わずかに雉が体を震わせる
呼吸が少し早くなる
心拍数が上がったのを感じる
触覚は機能している
むしろ、触覚だけが無駄に鋭敏にすら感じる…………
この村についてから、いくつか違和感があった
第一の違和感
「伯智さん。あなたはこの辺りに住んでいるのですか?」
「『さん』はいらないですよ。桃太郎殿。私も基本的にはこの近くの木々を中心に暮らしています。私たちの一族は、基本的にその川を越えることは許されていませんから。」
「……そうですか。では、こちらの御方と伯智が病を発症したのはどのくらい差があったのですか?」
「?……そこまで大きな差があったわけではなかったと思います。この付近に住む雉が集落で一番最初に病に罹ったので」
桃太郎は、辺りを見回す
確かに、この周辺には横たわっている雉の数は、神社周辺やさらにその奥の方よりも多い
しかし、ふらつきながらもある程度しっかり動いている雉も何羽かいる
伯智もそのうちの1羽だったのだろう
病の進行度合いの差があまりに大きい
初め、桃太郎も1羽ごとの体質だと思っていたが、どうもそうではない
倒れて動けないほどになっている雉と、動き回っている雉のどちらかしかいないのだ
まるで二極化しているかのように
中間がほとんど存在していない
第二の違和感
きび団子を食べた伯智が、一時的に元気になってはいたものの、時間経過でまた少し体調が悪くなっている。
いままで、武蔵と青雲、そして紫炎の三匹を見ていて、そのようなことはなかった
そもそも、完全回復しなかったことがなかった
きっと『雉』だからではないのだろう
種族の差だとするなら犬と猿に一切の違いが見られない点が不自然だ
桃太郎は、静かに、そして確信を持って話しかける
「…………伯智、きっとあなたも薄々感じていたのでしょう。……この病は仕組まれていると」
「……………………。」
伯智からの返答はない
しかし、その顔が雄弁に語っている
悔しさが滲んでいる
「だから、一度この病の原因について調査をさせてほしいと、自分達の一族の立場がより悪くなってしまう可能性があるにもかかわらず、そんな無茶をした。」
「……はい。無駄足でしたが…………」
伯智からしたらそうなのであろう
しかし、桃太郎からすればそうでもない
村の人間である、伯智がその原因を見つけられない
呪いと評されているものが病であると言う証拠すら出てこない
この事実は、大きな意味を持っていた
第三の違和感
今この雉の群れの中で伯智の他に、元気な雉が3羽いた
……あの神社に
伯智を除けば、今まともに空を飛べる雉はあの3羽だけだろう
この病の原因が作為的であるとするのならば、犯人はほぼ決まっている
しかし、その動機はまだわからない
それがわからなければ、動きを読むのは難しいだろう
強引に動かすことならできるが…………
それは今そこまで重要ではない
と、ここまで推測ができれば、原因はほぼ一つに絞れるだろう
毒だ。
問題は、どこでどのようにして、あの3羽の雉が村中に毒をばら撒いたのかということ
そのヒントは、第一の違和感に隠されている気がする
「一度、この病を調査したときに、あの3羽を疑ったんだろ?」
「……はい。数週間監視も付け、結局怪しいところは見つけられず…………その間、病の調査も行ったけれど手がかりもありませんでした。」
そう。これが1番の問題。
あの3羽は、この村の中で調査をしても証拠が出ない自信がある。
実際そうだった
きっと何年監視しても尻尾を出さない
いや……出さなかっただろう
少なくとも『伯智』が探っている限りは…………。
内部の雉ではダメなのだ
村の雉はあの3羽の掌の上から抜け出せない
だからこそ、桃太郎はあんな損しかない賭けに出た
最後の大切なきび団子をベットした
無理やり人間というイレギュラーを持ち込むために
そのおかげで、あの3羽は尻尾を出してくれた。
患者という表現に違和感がすごい




