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桃太郎-recast-  作者: 星乃光
振舞水
24/73

 桃太郎の背後から現れたのは一羽の雉だった。


 突然背後に現れたその雉に、桃太郎は一瞬、最大限の警戒を向ける


 容易に背後を取られてしまった…………

 いや、背後を取られているのにも関わらず、直前までそのことに気づけなかったのだ


 その警戒は、ある意味最大の敬意ともいえる


 しかし、直ぐにその必要がないことを知る




 その雉は少しふらついていた

 まるで熱に侵されているかのように


 さらに羽は所々抜け、元気を感じられない

 生気を感じられない



 桃太郎は躊躇うことなく、きび団子を食べさせた

 きび団子の残りは少ない

 それでも雉に一つ差し出す


 きび団子はいつの間にやら、残り一粒だけになっていた


 しかし、そんなことよりも今目の前の命の方が大切だった

 なくなったら、その時別の方法を考えればいいのだから。



 雉はあっという間に美しい羽を取り戻し、先ほどよりも力強く踏ん張っている

 しかし、武蔵や青雲の時と比較して何かがおかしい。


 明確な違和感があった



 ぱっと見、その雉は完全に元気になったように見える

 表面上は…………


 しかし、体内の調子が治らなかったのだ

 元気が十分に取り戻せていない



 そんな中、その雉が少しよろめきつつも話しかけてくる

 切羽詰まった表情で……


「助けてくださりありがとうございます。その上で烏滸がましいことは重々承知しております。

けれどどうか、私たちの一族を助けていただけないでしょうか。このままでは皆が死んでしまうのです」


 一羽の雉が、まさしく命をかけた懇願をしていた。

 その光景を目の前にして、桃太郎はいつものように迅速に……動けなかった


 その理由はひとえに、ねねと目の前の雉、この二つを天秤にかけなければいけなくなってしまったからだった。


 桃太郎は必死に、ねね(許嫁)を追いかけてきた。

 それこそ、自分が死ぬことなど厭わないと言わんばかりの勢いである。


 そして、彼女はもう目と鼻の先にいる。

 今がようやく手にした、最大の好機なのは間違いなかった


 しかし、たとえそのような状況でも、桃太郎には苦しんでいる雉達を見殺しにはできなかった。


 今桃太郎が手を差し伸べれば助けられるかもしれない、多数の命を見殺しにはできないかった。




 桃太郎が、完全に固まる

 硬直した

 途方に暮れてしまった




 その姿を見て、桃太郎に声を掛ける者がいた

 しかも同時に二匹も……


「主人様」

「兄貴」


 武蔵と青雲が同時に話しかける


「…………どうした?」

 固まった状態で口だけ動かす

 それでも頭の半分は思考の海に落ちている


 武蔵と青雲がお互いにどちらが話すかを譲り合う

 結果、最初に武蔵が話すことにしたらしい


「主人様、拙がねね様を連れ去った奴らのアジトを探してきます」

「兄貴、俺も一緒に探してくるっす。だからこっちは任せて、その鳥の力になってやってくだせぇ」


 武蔵の尻尾がぶんぶんと振られている

 青雲はニコニコだ

 2匹とも桃太郎の役に立てるのが嬉しくてたまらないらしい


 そして武蔵と青雲が話したい内容は、奇しくも同じだったようだ。


 桃太郎は、少し悩んでから言葉を発する

「……任せてもいいか?」


「お任せを!必ずやねね様を見つけ出し、一刻も早く連れて帰ってきて見せます」


「ウィッス!森は俺のテリトリーっすよ。どんな断崖絶壁だろうと姫君を見つけ出して見せますとも!」


 2匹は、気合も実力も、何より桃太郎からの信頼が十分である。


 桃太郎は二匹を信じ、二手に別れる決断をした。

 初めての別行動であった








 桃太郎は、雉の後を追い森の中を少し歩く


 少しすると、少し開けた小さな土地が現れた。

 手前に一本小さな川がある


 川の手前側にも数羽の雉がいるが、奥の方がこの雉の群れの住処のようである

 奥の方にかなりの数の雉がいる

 正確には大半がぐったり横たわっていた



 川を飛び越え少し進むと、一本の杉の巨木を中心とした、小さな神社が現れた

 閑静な森にひっそりとたたずむ、質素だがなんとも神々しい神社だった。


 きっとこの雉の一族が大切に守ってきた神社なのだろう。


 とても古く威厳を感じるが、手入れが行き届いて小綺麗に整えられている


 ただし、神社の周囲にいる雉は一匹残らず、力無くうな垂れている。

 数羽、力無く倒れ込んでいるものもいる




 ここまで案内してくれた雉、名前を伯智(はくち)と言うらしいが、彼はこの光景が当たり前だというかのように、境内の中を突き進んだ。


 神社の賽銭箱、その上に一羽の尾羽が長い雉が堂々とした立ち姿で待っていた。



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