桃の香り
倒れている少女は3人いた
全員が半開きで虚な目をしている。
…………
この少女達はきっと鉄格子に捉えられ、こんな土まみれの空間で、男どもに好き放題遊ばれたのだろう。
近くには、鞭、ナイフ、縄などが転がっている。
心底胸糞悪くなる光景である
桃太郎は、服を着ている一部の男から、それらを3人分剥ぎ取る。
桃太郎は優しく、3人に服を被せた
「こんな奴らの服しかなくて、本当に申し訳ない」
その言葉を少女達は理解できない
…………
3人の少女の顔をよく見る
期待を込めて
ねねがいて欲しいと
すでになんとなく答えはわかっていたが……
それでも淡い期待を込めて
残念ながら、その中にねねはいなかった。
何度確認してもその事実は変わらない
そこら中に転がっている、死体を適当に入り口とは反対側の壁際に寄せる
少女たちも死体の中心で倒れていたくはないだろう。
残ったのは3人の少女と血に染まった土の床だけ
それを何度確認しようとも、ねねが見つかることはない
切り替えなければ…………
桃太郎、武蔵、青雲は周囲を散策する。とはいえ牢屋しかない空間だ。何かを見つけられる可能性は低いだろうと思っていた。
実際、桃太郎は何も見つけられなかった
しかし、武蔵の探索能力は、桃太郎の想像を超えていた。
武蔵が桃太郎の元へとやってくる。
「主人様、ずっと気になっていたのですが、懐に桃の花を収めてはいませんか?」
突拍子もない話の内容である
が、桃太郎の知っている武蔵は理由なく変なことは言わない
桃太郎は優しく答える
「持っているよ。さすがは武蔵の嗅覚だな」
桃太郎は懐にしまった箱を取り出した
その箱を開けると中から微かに、桃の香りがする。
その匂いを嗅いで明確に興奮し出した
「やっぱり!! この匂いで間違い無いです。主人様。全ての牢屋で、それぞれ別の人間の女性の匂いがしたのですが、その中に一つだけ、僅かに桃の香りがする牢屋がありました。
そして今確信しました。主人様が持つその桃の枝と、同一の桃の匂いです。
ようやく、ねね様の匂いがわかりました。これでもうどこへ行こうとも絶対に逃しません。必ず見つけ出せます」
その言葉は桃太郎を興奮させるには十分だった
「……!? 本当か! 武蔵がいてくれて本当によかった。ありがとう」
ついに、桃太郎はねねの尻尾を掴んだ。
もう後一歩で、手が届く。
あとはねねの精神が壊れていないことを願うばかりだ。
「…………ん……ううん」
背後で、うめき声がする
少女の中の一人が正気を取り戻した。
「ヒッ!」
青雲を見て小さな悲鳴をあげる。
確かに青雲は怖い
根はとても優しいのだが…………
それこそ、なんなことがあった後、目が覚めたら目の前にこんな大きな猿がいたら恐怖でしかないだろう
その少女の反応はむしろ自然だといえる
ただ少しだけ青雲がかわいそうなだけで
悲鳴をあげられた青雲はすごく悲しそうに下を向きながら少女と距離を取った
そこですぐさま距離を取れるあたり、やはり青雲は優しい
すぐさま桃太郎が、優しく声をかける
「大丈夫ですか?」
一瞬その少女が、男である桃太郎を警戒する
その目には恐怖が写っている
しかし、隣で尻尾をブンブン振っている武蔵を見て目を輝かせた
武蔵が少し不満そうな顔で少女に撫でられている。
おかげで少女の心は持ち直した。
どうやら犬が好きだったらしい
武蔵には悪いが、このまま話を進めることにする
「早速で悪いんだけど、ここの牢屋に入っていた女の子を知らないですか?」
桃太郎が話しかける
「……ごめんなさい。今どこで何をしているかはわからないです。」
少女が小さな声で返答する
少し間を置いて、少女がゆっくりと話を始めた
「ここに捕まっていた人は全部で6人いたんですが、そこの牢屋の少女は一番最後、多分3日か4日前に……いやもう少し前かな……でもそのくらいにここにやってきました。
それからしばらくして、急に看守の男達が慌ただしくし始めました。
たしか、3人までしか船に乗せられないって口論になって、美しい3人を選んで連れて行きました。あと、なんか船が襲われたとか、追手がここまでくるかも、とか言いてた気がします。」
「それはいつのことだったか覚えていますか?」
桃太郎はできる限り優しい声色で話しかける
「時間感覚が分かんないの、辺な薬を飲まさせられたから。なんとなく昨日だったような気もするし、今日だったような気もします。でも3日以上前ということはないと思います。
…………それから貢物じゃない女は、好きに壊していいぞって誰かが言って、そこから、余った私たち3人が…………」
少女の言葉がだんだんと小さく消えていった。
ここから先は思い出したくない記憶なのだろう
桃太郎としてもその部分を無理に聞き出す必要はない
むしろ、思い出して辛い思いをさせたくはない
桃太郎は、話を整理する
少女はこう言っているが、おそらく、ねねがここから連れ去られたのは、今日だ。
そう考えられる大きな理由がある
話を聞く限り、ここにいた男どもはエスケープゴートだ。
本命は、すでに船で旅立っている。
つまり、ねねが船に乗せられた後に、誰もあの桃太郎達が壊した祭壇を使っていない。
そして祭壇に残っていた蝋燭の火はまだ消えていなかった。
不気味にゆらめいていた
ついにねねに手が届く位置まできた
もう一つ収穫があった。
ねねは船に乗っている。
この湿原から繋がっている川は一本。
銀山湖へとつながる川
それは麓の村の村長が教えてくれた、鬼ヶ島へと抜ける川下りルートだ。
半日以内の距離にねねはいる。
この鬼ごっこは、もう大詰めだ。




