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シン桃太郎  作者: 星乃光
五月雨
18/53

 第二ラウンドが始まった。


 まず動いたのは、教祖だった。

 素早く弓を構え、矢を(つが)える。

 しかし先ほどまでとは異なり、同時に3本矢を番えている


 放たれた矢は、中心の矢が紫炎の体めがけて、残り2本が左右への退路を塞ぐように放たれた。

 それは人間に対しては、必中とも思える矢の配置である。


 しかし、紫炎は天井へと避けられる。



 紫炎が背後の壁を蹴り、天井へ飛びついた瞬間、誘導されたことに気がついた。

 先ほどの三本の矢、紫炎は天井に逃げ道があったわけではなかった。

 天井以外に逃げ場がなかったのだ。



 罠だ



 紫炎が避けるであろう先に、もう矢が放たれていた。

 それも、また3本同時である。


 幸いなことに、教祖は腹部の傷のせいで十分な威力、速度の矢を射れてはいなかった


 紫炎は急接近する中央の矢の(やじり)を左手で掴む。



 …………!



 その瞬間不思議なことが起こった。

 左右を飛んでいた2本の矢が、紫炎目掛けて軌道を変えたのだ。


 紫炎は瞬時に右の矢を右手で止めた。

 しかし、左の矢は防げない。

 その矢は、左腕に突き刺さった


 よく見ると、この三本の矢の(やじり)も、細い鉄線で繋がっていた。

 紫炎が中央の矢を止めたことで、左右の矢はそこを起点に、動きが円軌道に変わったのだ


 避けることも受け止めることも許さない、まさしく最恐の矢だった。



 不運なことにも、先ほどできた紫炎の左腕の傷と、同じ位置に矢が突き刺さる

 突如、左腕に激痛が走る。


「キィィイイイ」


 痛みで、口から鳴き声が漏れ出す

 その隙を教祖は逃さない。


 ここで教祖は、中・長距離戦ではなく、近距離戦を選んだ

 左手を完全に潰した時点で、力押しをしたほうが有効だと考えたのだ。



 今度は、教祖が急接近する

 教祖が横薙ぎの一閃を放つ

 紫炎は瞬時に両手に持つ矢を上下に広げ、鉄線をピンと張った


 教祖の一撃は、自らが放った矢の鉄線に防がれた。



 しかし、追撃は止まらない

 続いて、教祖の左手の短刀からコンパクトな突きが放たれる

 しかしそれを予想していた紫炎は左に大きく飛び跳ね避けた。




 紫炎が避けた先には、先ほど投げられた椅子が転がっていた

 この瞬間だけ、紫炎は遠距離攻撃(投擲)ができる


 教祖の追撃が一瞬止まる


 その隙に紫炎は左腕に刺さった矢を抜いた。

 さらに紫炎は抜いた矢を口に咥えた



 両者息が上がっている。



 紫炎の逆襲が始まる






 教祖が矢を放つが、紫炎は椅子をうまく使い全て防ぐ

 紫炎は、椅子を盾に使い、矢も短刀もどちらも防げる形で、教祖めがけて突撃する


 たった一つの椅子で、遠距離、中距離どちらも防げる体勢

 勝負は近距離戦に委ねられた

 教祖は短刀を構える



 その瞬間、紫炎はまたも椅子を投げた。

 ここに来て、紫炎が中距離を選択する


 教祖はその椅子を、短刀で叩き割る

 しかし今度は、紫炎を見失わない


 キィーン


 飛びかかってきた、紫炎の爪を短刀で防ぐ

 口に咥えた矢への警戒も怠らない。


 死角はない…………はずだった

 けれど



 サクッ



 静かに何かが教祖の脇腹を刺した。


 今度は教祖に激痛が走る


 それは、戦いの初めに紫炎が教祖めがけて投げたペンナイフだった。


 実は、そのペンナイフ、先ほどの椅子の近くに落ちていた。

 それを紫炎は気づかれないように足で掴み、教祖の意識が『手の爪』と『口の矢』に向かったその時、教祖の脇腹に刺したのだった。



 紫炎が追撃をする


 天井に手をつき体制を固定して、紫炎の右足の回し蹴りが炸裂した。

 頭めがけたその蹴りを、教祖はギリギリのところでガードする


 しかし、その威力に短刀は弾き飛ばされ、教祖は威力を抑えきれず、机に激突する。


 紫炎は口に咥えた矢を手に持ち、教祖を追いかける

 教祖も脇腹の痛みを振り払いながら、机に手をついた。


 ある程度、紫炎が接近したその瞬間、教祖が机の上の地図を、紫炎目掛けて投げた

 その地図は、紫炎と教祖の間に大きく広がる


 両者共に、お互いの攻撃が見えなくなった



 紫炎は、地図の目隠しなどお構いなしに、三本の矢の端の一本を右手に持ち、大きく振った。

 一方、教祖は目隠しの隙に、ものすごい速度で矢を番て放った。


 教祖の一射(いっしゃ)は紫炎の左の腹を貫いた


 対して紫炎が繰り出した三本の矢は鉄線によって繋がっている。

 端の矢を紫炎が持ったままでも中央の矢が教祖の左肩目掛けて飛んでいく


 渾身の一本を放った教祖の弓が、反動で左から飛んできた矢を偶然にも受け止めた。



 しかし、この矢は3本が繋がっている

 最後の一本はそのまま教祖の背中まで回り込み、突き刺さった。

 互いに深い傷を負った。



 けれどまだ、戦いは終わっていない



 机の前で、二人は組み合い、力比べが始まった。

 教祖は脇腹と背中に、紫炎も脇腹と左腕に大きな傷を負い、結果、力が拮抗した。


 紫炎の左腕から、教祖の脇腹から、血が噴き出す

 お互い特に動きがない膠着状態に(おちい)った



 その時だった、紫炎だけはその不穏な動きに気づいた。

 しかしもう手遅れだった。

 その動きはあまりに早すぎた



 教祖の背後から、一本の槍が貫いた。

 その槍は、同時に取っ組み合っていた紫炎さえも貫通した。

 一本の槍を伝って、両者の血が混ざり合う。



見ざる

聞かざる

言わざる

せざる

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