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シン桃太郎  作者: 星乃光
五月雨
16/53

教祖

武蔵:お供の犬

紫炎:猿王の息子

 桃太郎の脇腹を矢が貫いた。



 この時、桃太郎は周囲の警戒を解いてはいなかった。

 まだ、信者を完全には制圧できていなかったから。

 しかし、完全な不意打ちで桃太郎は矢を受けてしまった。



 その矢は桃太郎の足元から飛んできていた。



 桃太郎は、奇襲組の猿達に合図を送るために、船の床を殴り割っていた。


 その際、桃太郎の足元には割れた床材の間に、そこそこ大きな隙間が生まれていた。

 さらに、効率よく敵勢力を制圧するために、桃太郎はその場からほとんど動かなかった。



 そこを狙われた。

 弓を射たのは、あの教祖だった。

 桃太郎の気が抜ける瞬間を待ち、割れた床の隙間から矢を放ったのだ。



 すぐさま教祖は、二発目の弓を射る

 しかし、同じ攻撃を二発くらうほど、桃太郎は弱くはない。

 すぐさま身を翻し、矢を避ける


 足元の隙間からしか、狙われていないのであれば、避けるのは容易だった。

 二発目の矢は弧を描き、湖に落ちた。




 しかし、桃太郎は、かなりの深傷を負ってしまった。

 臓器にまで矢が届いているかも知れない

 血がドクドクと止まることなく流れ出す。


 猿との戦闘、日鬼真宗との戦闘、そして脇腹の深傷(ふかで)

 ここまで血を流しすぎた桃太郎がついに膝をついた。






 制圧が早く進んでいても、全ての信者を制圧できてはいない

 そして、桃太郎の位置は、まだ信者に囲まれている。


 桃太郎のうめき声を、膝をついた音を、聞き取った信者が急接近する


 どうせ死ぬなら一人でも道連れに、そんな意志を感じる。

 桃太郎の首めがけて信者の刀が振り下ろされる。


 桃太郎は、妖刀『狛犬』を振るった。

 その刃は振り下ろす刀と触れることはなかった。


 しかし、その刀の軌跡は信者の刀を受け止めた。

 振り下ろした刀が弾かれる。


 桃太郎は、命拾いした。

 たった2秒延命した。



 次の瞬間には、信者はもう刀を構え終えていた。

 それは刺突の構えだった。


 突きは、点による攻撃は、妖刀『狛犬』の軌跡の防御を逃れる手段としてはかなり有効だった。

 その一撃が振り下ろされる。



 たった2秒。されどその2秒が桃太郎には必要だったのだ。



 武蔵が走っている。

 突きが、桃太郎に届く前に、武蔵の牙が信者の喉を噛み砕いた。


 刺突の軌道がずれる

 桃太郎は、一命をとりとめた。


 しかし血を流しすぎている

 まだ危険な状況なことに変わりはない



 ぱらぱらと雨が降りだした



 甲板にいる日鬼真宗の信者は全て制圧された。

 けれど武蔵の尻尾は垂れている。


「主人様、大丈夫ですか。」

 武蔵が、桃太郎のそばに寄り添っている。


 そこに紫炎もやってくる


「桃太郎さん、あなたが最も大変な役回りを引き受けてくださったおかげで、俺らは死傷者なしでこの船の甲板を制圧できました。本当にありがとうございます。この御恩は絶対に一生忘れません。


そしてこの後のことは、全て俺らにお任せください。船の中を制圧してきます。

……武蔵、残りの敵は何人ですか?」



 真面目な紫炎は、それはそれで違和感がある。

 しかし、ここからが、彼の本番なのだ。

 否が応でもまじめになってしまうのだろう



「敵は残り二人。どちらも同じ部屋にいる」


「承知した。桃太郎さんはここで休んでいてください。救護班を呼んでいます。武蔵は、この船の人質や救護道具を探してきてください。

桃太郎さんの深傷を考えると、俺たちが持参した道具だけでは少し心もとないので。」


 その言葉を最後に、紫炎は振り返ることなく、船の中へと消えていった。

 そして入れ替わるように、猿の救護班が桃太郎の元に来る。


 武蔵は少し桃太郎から離れたくなさそうに、まだ寄り添っている。



「武蔵、俺のために紫炎が言ったものを探してきてくれ。今は、お前の素早さとその鼻だけが頼りだ。」

 その言葉に武蔵は少し嬉しそうに尻尾を振った。


 武蔵は駆け出そうとして、2歩ほどで足を止め振り返った

「主人様。船に乗った時に一つ気づいたことがあるのです。」


 真剣で少し悲しそうな顔をしている。

「この船に乗った瞬間、匂いで気付きました。この船には女性は乗っていませんでした。死体があるわけでもありませんでした。なので、あの、その…………」


「皆まで言わなくても大丈夫だ。私は、大丈夫だ。」


 桃太郎にはわかった。

 武蔵は、戦闘に集中できるように、敢えてこのことを言わなかったのだと。


 きっとこの話を聞いていたら、もっと早くにどこかで致命傷を負っていた。


 この船には最初から『ねね』はいなかったのだ。

 武蔵はそのまま船の中へと走っていった。




 だんだんと桃太郎の意識が遠のいていく

 すでに目の前の半分が真っ黒だ


 おそらくは出血多量のせいだ


 桃太郎は即座に、きび団子を一つ口に入れる。

 それが最低限、桃太郎にできる応急処置だった。


 直後意識を失った







 紫炎は、船の階段を降りる。

 後ろには部下が数匹ついてきている


 階段を降りる途中で、一本の矢が不意打ちで飛んでくる


 きっと、桃太郎に出会う前の紫炎であれば、躱せなかっただろう。

 いや、そもそも不意打ちを警戒して、こんなに堂々と他人の縄張り(テリトリー)に入ってはいない


 しかし、きび団子を食べた紫炎にとって、その程度の速度の矢など脅威ではなかった。

 来るとわかっていれば、避ける程度、容易にできた。


 それは教祖もわかっていたようだ。

 紫炎が避けたことに特に驚いた様子はない。


 猿王の息子『紫炎(しえん)』と教祖『富岳(ふがく)』が対面する

 紫炎の背後には部下たちが数匹

 対する、富岳の後ろにも部下が一人


 しかし、お互いがなんとなく理解していた。

 これから起こるのは二人の一騎打ちだと

 リーダー同士の最後の戦いだと



 富岳は弓を背にしまい、腰の後ろから2本の短刀を抜いた。

 一本は順手、もう一本は逆手に持っている。


 対する紫炎も毛を逆立てる

 両手を地面に着き、体勢を低くする



 雨漏れした一滴の雫が、船室に滴り落ちる

 その瞬間、一騎討ちが始まった



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