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シン桃太郎  作者: 星乃光
五月雨
14/53

夜襲

武蔵:お供の犬

紫炎:猿王の息子

「…………作戦は以上っす。」

 紫炎(しえん)の話が終わる。


 皆が静まり返る

 軽薄そうに見えるが頭がかなり切れる、それが桃太郎から見た今の紫炎の印象だった。


「最後に、桃太郎さんにお願いです。きび団子を一つ、預けていただけないっすか?」


「きび団子を?」


「ういっす。もし、この作戦が失敗した場合に船をぶっ壊そうと思います。その役目を俺の弟に任せたいのですが、若干力不足なのと、あとそいつかなり引っ込み思案というか、気弱というか、なので兄のちょっとしたエコ贔屓っすね。

もし作戦が成功したら、ちゃんとお返しします。失敗してしまった時の予備みたいなもんっす。どうかお願いしゃす。」


 桃太郎にはそれを躊躇う理由などなかった。

 ねね(許嫁)を救うための作戦でもある。最終手段としても悪くはないと思った。


 船が壊される前に助け出すだけでいいのだから

 むしろ、逃走されるリスクを下げられる方が重要だ






「最後に、質問があるものは?」

 紫炎の声に緊張と興奮の色が混じる


「一つだけいいですか?」

 桃太郎が声を出す

「この湖の中からどのように、船を見つけるのですか。」


 その答えを出したのは驚いたことに紫炎ではなかった

「主人様、ここから見て北東に停泊しています。日鬼真宗の人数はおそらく20人前後かと」


 紫炎達の奇襲を受けてから、武蔵は嗅覚を全開で使って、索敵をしていた。

 どうやらその索敵に引っかかったらしい



 続けて、紫炎が口を開く

「さすが!桃太郎さんのお供っすね!

日鬼真宗の奴らは船を拠点としてはいるんすけど、この湖はマジでデカいって程じゃないんすよ。

普通に浮かんでたら一発でバレます。ので船を木々に擬態させて基本的には、湖の淵に停泊して隠れているっすよ。

これから、それを探しに行くところだったんすけど、どうやらその手間が省けましたね。」


 まるで紫炎の口ぶりは武蔵がすぐに船を見つけられることがわかっていたようだった。







 それでは、日鬼真宗を落としましょう。


 行軍が始まった。

 雨が降りそうな風が吹いている。



 桃太郎は武蔵に乗って風を切る。

 先ほどチラッと目に入った船は、側面に擬態用の木が貼り付けられていた。


 目標通り、船へ急接近する

 そして、大きく息を吸い込んだ



「敵襲だぁぁぁぁあああ!!!」



 桃太郎が叫ぶ

 妖刀『狛犬』を手に持つ


 湖畔に停泊した船の近くには見張が二人いる

 しかし、加速し切った武蔵の速さについてこれる人間などいない

 桃太郎は、その二人を一瞬で切り伏せた。


 予想通り、その隙に船が湖畔を離れていく




 紫炎の作戦通りの展開である


 そして、総本山が見つからなかったもう一つの理由もわかった。

 日鬼真宗はこの船で湖に逃げられるから、誰にも見つけられなかったのだ


 探す方は一度見た場所をもう一度探そうとは思わない



 それはまさしく移動要塞だった。


 桃太郎と武蔵は、助走をつけるために、湖から離れる方向へ木々に間を走り抜けた。





 教祖は大きな声で目が覚める

 敵襲だ。


 しかし、焦ることはない。

 山の中にある湖。ゆえに湖の中央へと逃げて仕舞えば、最強の水の防壁ができる


 ここまで船を持ってこれるような奴は、まずいない

 泳いで追いかけてくるなら、矢の餌にすればいい

 鎧をきてたら、泳ぐこともできずに沈む。


 そう、この船は最強なのだ。

 慢心ではなく、それが事実だ



 教祖はそのまま、船のデッキに出る

 眠りを妨げた敵の顔を見に行く

 どうせ、猿の群れか、日鬼真宗の総本山を調査にきた馬鹿どもだろうと高を(くく)っていた。



 しかしそこで目にしたものは衝撃的なものだった。

 それはとても神秘的で不気味だった


 まだ日が登っていないせいで、湖畔はよく見えない

 しかし、そこには奇妙なものがあった


 馬なんて比にならない速度で進む、白銀に輝く帯状の何か

 それはどう考えても妖怪の類だった。


 信者の戦意が低下している。

 大半が恐怖で震えている。



 見張に立っていた、二人の信者があっという間に食われた。


 何よりも問題なのは、その妖怪は浮いているように見える

 あれでは、船にまでたどり着けてしまう

 水の防壁が機能しない


 そんなふうに焦っていると、その妖怪は湖から離れるように進路を変えた。


 助かった。そう安堵したのも束の間

 それは助走をつけて、船に向かって飛んできた。


 月明かりに照らされて、その全貌が目に入る


 姿を見たと思った次の瞬間には、それは船の上に着地していた

 大きな犬に乗り、白く輝く脇差(わきざし)を携えた少年

 それが信じられない距離を跳躍し、船の船尾へと着地した。


 結局水の防壁は役に立たなかった

 しかし、もうそんなことはどうでもいい


 一人と一匹に対してこちらは19人

 たとえこいつがどんなに強かろうとも、囲んでしまえば、問題ない


 ここは湖の真ん中だ。

 増援は来ない


 結局のところ、こいつはこれで詰みなのだ。



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