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シン桃太郎  作者: 星乃光
五月雨
11/53

敵襲

日鬼真宗:鬼を信仰する宗教

 桃太郎と村長の話し合いは続く。


 桃太郎にはどうしても聞かないといけない質問がある

「その日鬼真宗(にっきしんしゅう)の男は、まだこの村にいるのですか。」


「いえ、桃太郎殿がこの村に到着した直後、すぐに次の目的地へと向かって旅立ってしまいました。きっと桃太郎殿を追手と勘違いしたのでしょう」


 一筋の希望が見えた


 桃太郎は心から、旅人のお兄さんに心から感謝した。

 全力で走って、ねねとの距離を1日に縮めてくれたのだ。





 …………?



 ふと気がつく

 話が少しおかしい

 ねねとの距離は縮んでいるはずだ。


「なぜ、私がこのまま旅を進めると、私の許嫁に出会えないのでしょうか?」

 むしろ一刻も早く出発すべきなのではないだろうか


「ええ。ここからが本題です。その日鬼真宗の男はイオノの川へと向かっておらんのです。

彼はこの村から北へと、湿原地帯がある山へと向かいました。」


「なぜ、わざわざそのような遠回りを?」

 それは桃太郎の純粋な疑問だった。



 少しの沈黙がある。

 村長は話すべきか迷っているように見える。



「実は、一つおとぎ話のような、噂話のような話がありまして・・・。

なんでもその湿原地帯のどこかに日鬼真宗(にっきしんしゅう)の総本山があると。」


 言われてみれば、日鬼真宗も一応宗教なのだ。どこかに聖地となりうる施設があってもおかしくはない。


「実際に確認した人がいるわけではないのですか?」

「残念ながら。昔、調査団という人々が湿原地帯に入って行ったこともあるのですが、三つの理由で断念せざるを得なかったと聞いております。」


「三つの理由?」


「ええ。一つ目が純粋に日鬼真宗の総本山が巧妙に隠されていて、それを見つけるのが至難の業であったとのこと。

 二つ目が、この村よりも北の山々には、鬼達が何匹かテリトリーを作って略奪を行っており、調査が捗らなかったこと。

 三つ目が、湿原地帯の近くに男体山という山があるのですが、ここを猿王(えんおう)が支配しており、人間が入っていけないという理由です。」


 聞きなれない言葉が現れた

猿王(えんおう)とは何者ですか?」


「その名の通り、猿の王です。この一帯の山脈を縄張りとした、巨大な猿の群れの族長を張っているやつです。

膂力、機動力、統率力その全てに優れており、かなりの強さだとか。

ただ、縄張りへと侵入しなければ、向こうから襲ってくることはまずないとも言われています。」



 二人の会話はまだ続く


 桃太郎は、今必要な情報が、ある程度集まっているのを肌で感じ取る。


 旅人のお兄さんが、この先の道のりについて、旅を始める時に教えなかったのは、単純にこの村の人々に聞いたほうが、圧倒的に多くの情報を得られると判断したからなのだろう。


 ただ、まだ全てのピースは集まってはいない。




「村長。その湿原地帯から鬼ヶ島へ行くにはどうするのが最短ですか?やはり、イオノの川経由ですか?」


「いや、その湿原地帯のさらに奥に大きな湖があるという。名前は確か……銀山湖。その川を下ったほうが早く鬼ヶ島に近づけたはずだ。」


 結局、そこから小一時間ほど桃太郎の質問は続いた。




 夜空では星が輝いている

 桃太郎は、早朝に鬼退治から帰ってきて、そのまま宴会の時間まで離れ家で十分に休息をとっていた。

 武蔵は、嗅覚に優れ、人間よりも夜目も聞く


 桃太郎一行(いっこう)にとって、今急いで出発できない理由はなかった。


 麓の村とはお別れだ。

 旅人のお兄さんとも、二度目のお別れだ。


 胸にしまった桃の小枝が入った箱を強く握りしめた




 桃太郎は、北の山へと入っていく

 今回もまた、谷の底に流れる川沿いを進めば、目的の湿原地帯付近に出れるらしい


 問題は、猿王の群れだけだが、この辺りまで猿がくることは珍しいらしい

 村長曰く、出会ってしまったとしても、下っ端2~3匹だそうだ


 そのくらいなら桃太郎にとっては、十分対応できる範疇である。


 しかも、これは今がもし昼だった場合の想定だ。

 今は夜だ。出会わない可能性の方が遥かに大きい








 道中、先に進むにつれて元々細かった川が、より狭くなる

 もう、簡単に飛び越えられそうな狭さだ

 いや、手のひらサイズだ

 気づけば川は無くなった。



 ちょうどその時、武蔵の鼻がピクっとした

主人(あるじ)様。敵襲です」


「日鬼真宗か?それとも鬼か?」

「…………いえ、この匂いは猿です。しかも、十匹以上います」


 その言葉通り、木々の中から、突如として猿の集団が現れた。



 奇襲だ







 聞いていた通り、この猿の群れはかなり統率がうまい

 桃太郎に対して五匹、武蔵に対し、三匹で攻勢を仕掛けてきた


 共闘させないために二人の間に割り込み分断を図っている

 さらに残りの猿は攻撃の届かないところで、退路を塞いでいる



 戦闘が始まってすぐにこれはかなりやばい、と桃太郎は悟った

 絶え間なく全方位からの攻撃をいなし続けているせいで、刀を抜く暇がない

 それでも、五回に一回、桃太郎は攻撃を喰らってしまっている。


 通常、桃太郎の力があれば、一匹ずつ攻略できるのだが、この猿達、桃太郎の死角からしか攻撃をしてこない。

 逆にいえば、死角からしか攻撃が来ないと分かっているからこそ、なんとか凌げている。


 ただし、それもこちらの体力がなくなり次第、全面攻勢に変わるだろう。

 じわじわと追い詰められている。


 かなりやばい






 桃太郎は、だんだんと武蔵と距離が生まれていることに気がつく。

 武蔵の立派な毛並みは、十分に鎧の役割を果たしているが、明らかにジリ貧だ


 この状況では、武蔵の力は発揮できない

 武蔵は、力も犬の中では強い部類だが、特筆すべき能力はその脚力だった


 一度加速した武蔵は、桃太郎ですらそう簡単に捕まえられないほどの速度を出す。

 純粋な脚力勝負なら、武蔵の方がかなり上だ。


 逆にいえば、加速できなければ、武蔵は少し強い犬なのだ。




 桃太郎は、段々と急斜面の岩場へと追い込まれていたことに気づいた。

 足場が悪く、かなり戦いにくい


 一方、猿達は木々の上を立体的に移動するため、足場が悪いことにデメリットが生じない。

 五回に一回だった攻撃を二回食らうようになってきた。


 いよいよ限界が迫ってきている



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