第1話:ビンタの意味がわからない
「王子にビンタされるって、何の罰ゲームですか?……前世では、深夜コンビニでおでんを片付けてた側の人間なんですけど。」
目を覚ましたら、目の前で金髪のイケメンがキレていた。なぜか私のことを“悪役令嬢”と呼び、いきなり平手打ち。
痛い。というか意味がわからない。
私はリヴィア=グランシュタイン。
この世界では名門貴族の娘らしいけど、中身は違う。
前世の私は、深夜シフトでレジを打ちながら、パンとお茶で生きていた女。
恋もなければ、社交もない。週6夜勤で、目の下のクマがデフォルトだった。
それなのに、気づけば「乙女ゲームの悪役令嬢」らしい。
……いや、ゲームやったことないんですけど。
なんかヒロインと王子がいい感じになってるところを邪魔したとか言われたけど、
私がやったのは「転んだメイドさんを助けて通行の邪魔になった」ことだけです。
そして、なぜかそれが“いじめ”になるらしい。
誰が定義したの、それ。
「どうぞご自由に恋愛してください」って思ってるのに、こっちは。
なんなら、早く寝たい。
「破滅エンド」っていうのも、なにそれ。
それで死ぬなら、まあ、それはそれでいいかな、って思ってた。
でも最近、ちょっとだけ思うんです。
この世界、どこかおかしくない?
たとえばさっきビンタしてきた王子、私の名前すら覚えてなかった。
ヒロインのセリフは、いつも同じような言い回し。
周りの人たちは、まるで台本を読んでるかのように行動してる。
……まさかとは思うけど、ここって“本当にゲームの中”だったりしない?
まあ、考えるだけムダかもしれないけど。
とりあえず、今日も私はお茶を飲みながら、そっとその場からフェードアウトするのでした。