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【祝15000PV】無原罪御宿の吸血鬼  作者: ごっこまん
4.Εὐλογητοί

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023 スペイの出産③:バーンズ家一丸となって

 シーツを肩に担ぎ、もうもうと湯気の立つ鍋を持たされて、エリーは分娩室に急いだ。


「新しいシーツとお湯、どこに置きましょう」


 助手の指示に従って備品を置く。


「エリーさん、こっち来て」


 ミキの指揮に従い、スペイの近くへ。


 産みの苦しみの真っ只中、絶叫の声圧に押し戻されそうだった。


「子宮口はどのくらい開いていますか?」


 自然と口をついた質問に「七センチ」とミキが答える。


 一瞬、言い知れない恐怖に駆られる。遅れて、進行が速すぎると理解が追いついた。


 疑問を口にする前に、ミキが先回りする。


「本陣痛は真夜中から」


 エリーは緊張を少しだけ緩める。「スペイさん、経産婦でしたっけ」


「初産。結構速いよ」


()調()ですね。あと三センチ、ここからですよ、スペイさん」


(やっぱり意味記憶か作業記憶で覚えているみたいだね)


 今のエリーの反応は、出産への理解を物語っている。


 ハイペースな進み具合をあえて順調と言い換えたところなど、現場で母親に寄り添った経験を感じさせた。


 ミキの分析の傍ら、エリーはスペイのケア体制に目を走らせる。


「いきみ逃がしのマッサージ、どなたが担当ですか?」


「マッサージ……あ、そうだ。旦那さんまだ到着してないんだった」


 ミキの言い草からおおよそ察しがついた。


 出産は孤独な戦いになりがちだ。専門性の低いケアを家族に任せて、産後の団結力を培わせているのだろう。


 その立場を担っていたのはロバートで、飛び入り助っ人のヘーゼルはマッサージの方法を知らないのだ。


「ヘーゼル、今から私がやるとこ見て覚えて」


 スペイの尾てい骨あたりに、手首を押し当てる。


「こんな感じで結構強めに……スペイさんの反応を見ながら、場所と加減を調節して……この辺かしら。で、お尻の穴を絞めさせる力加減で押してあげて。持久戦だから手首を使った方が疲れないけれども、固さが足りないなら拳骨を固めてしてあげて」


「ね、姉ちゃん、どうだ?」


「うぐ、う……何か、ちょいとマシになった、かも……おううう……」


 強張ったスペイの身体からほんのわずかに力が抜ける。


 縋りつくようにヘーゼルはマッサージを実践した。


 スペイが息を吐くタイミングに合わせて「この辺か?」「強くするか?」と反応を窺いながら、できるだけ苦痛を逃がすように圧迫する。


「ちっ……が……そこ、あ、違うぅ……! ちがっ、ああもう! チッ! うぐううう……もう良い、いらないぃ……! や、めて……! 邪魔……!」


 舌打ち、歯ぎしり、挙句に邪魔。残酷なまでの端的さで、健気なヘーゼルを突き放す。


「う、上手くいかねえよお……エリー……若隠居……」


 不安げにヘーゼルが泣き言を漏らす。


 苦しむ姉に何もできず、全てに裏切られ、何もかも信じられなくなった表情だった。


 エリーは微笑んで、グッと親指を立てて見せた。ミキも同調するように頷く。


「一緒に戦っている感じを出すだけでも及第点。さ、頑張れ、お弟子ちゃん」


 みっともない役回りでもミキのお墨付きがあって、ヘーゼルから肩の荷が下りたのだろう。


 責められようとなじられようと根気強くマッサージを続ける内に、スペイの顔から険が薄まる。


「ふーっ、ふっ、う……ち、ちったあ、マシに……いちちち……」


 スペイの陣痛の波が引くと、扉がたわむほど勢い良く開き、ようやくロバートが到着した。


「すまん! 遅くなった!」


「スペイさん、ロバートさんが間に合いましたよ」


 エリーが妻に寄り添って、それもメイド姿でいることにロバートは若干混乱する。が、気持ちを切り替えた。


「あんたには助けられっ放しだな。ありがとう」


「義兄さん遅えよ!」


「はああぁぁぁ……? 仕事、ぬ、抜けて、偉くなったもん、だ……ねぇ?」


「言いたい放題かよ、お前ら姉妹揃って」


 身内に憎まれ口を叩かれるのは日常茶飯事で、かえってロバートの緊張をほぐした。


 ヘーゼルと交代し、スペイに施すいきみ逃がしのマッサージは様になっていた。


 苦悶は残るも穏やかに、陽だまりから感じる春の気配は日に日に増す。


 正午を越える頃には、子宮口は九センチまで開いてきた。


「栄養補給しようか。ヘーゼル、頼めるかい?」


「姉ちゃん、何か欲しいのある?」


「ス……スグリの、はぁ……はぁ……シロッ、プぅ……」


「シロップな。わかった、すぐ持って来る」


 聞くや否やヘーゼルが厨房へ急ぐ。


 けれどもスペイは疲労が祟って気がつかず「を、水で……割って……」と本命のお願いが口から尾を引いて漏れていた。


 あちゃー、踏んだり蹴ったりね、ヘーゼル。と、苦笑いで内心頭を抱えたエリーであった。


 けれども、スグリシロップの原液が存外口に合ったらしい。


 ヘーゼルに差し出されたスプーンをスペイはじっくり口内で舐め、呑みこんだ。


「あり、がと……」


 束の間、和らいだ苦痛の中で、笑顔が汗ばんでいる。


 次から次に運ばれるタライ一杯の湯が、粗悪な放熱器よりもずっと、室温を上げていた。


 子宮口は十センチに達し、その隙間からすぐそこに、胎児の頭が覗いていた。

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【嬉】

ブクマ増えたの嬉しい(子ども返り)

よりにもよって後書きでヘラッたタイミングにブクマさせてしまって申し訳ないです。


今までも、そしてこれからも応援してくださる読者の皆様、改めて御礼申し上げます。

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