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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり 1
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68.製薬

アイルが、例のトンデモない高温超伝導素材を試験していたのだけれど。

何をしていたんだろう。

臨界電流密度とか言っていたな。それに合格したらしくて、例のトンデモ素材を200キロほど作った。


……脳味噌がシビレている気がする……。


あんなもの、もう二度と作りたくない……。


アイルの依頼で、超伝導体を作っているときに、良かったこともある。


私が、ソレを作っているあいだに、アイルには、分光光度計を作ってもらっていた。


だって、アレを大量に作るのは、私だけ大変なんだから。


測定波長域は、240nmから、2.5μmまでの超広範囲だ。


分光は、アイルが開発した回折格子を使った。


当然一つの回折格子でカバーは出来ないので、複数の回折格子を組み合わせている。


光源は、アイルが作ったダイヤモンドのLEDで蛍光材料を光らせる。


蛍光物質は、助手さんに指示して、希土類などを秤量してもらって、あとはアイルに混合してもらった。

赤外域は、無機素材という訳にいかなかったので、二重結合構造を持った有機分子を使った。


これも、ひょっとすると超伝導体のように、無機化合物で構成できるのかもしれないけれど……。

もう、しばらくは、対応したくない……。


受光は、シリコンのフォトダイオードとインジウムガリウムヒ素のフォトダイオードを組み合わせている。


小型のモーターを使って、波長は自動スキャンする。

光路を2系統に分けることで、サンプルの吸収信号をアナログ演算で求められるようにしてある。


波長に合わせて自動的に紙送りして記録できるようにした。


至れり尽せりだよ。


あぁあ。でも、一向ひたすら草臥くたびれた……。


結局、希少元素が足らなくなって、急遽、鉱石を集めてもらった。


最初の鉱石探索チームのエリアだったので、比較的直ぐに集まったけど大変だった……。


今日は、久々に、実家に行った。


癒しの、セド君に会うためだ。

セドくんは、誕生して1週間ほど領主館に居て、その後は、グラナラ家に戻っている。


あぁ。セド君だよぉ。


可愛いなぁ。


産まれたばかりの赤ちゃんって、何て可愛らしいんだろう。

ふふふ。

「お姉ちゃんですよぉ。わかりまちゅかぁ。」


ベットの上なら、抱かせてもらえるようになったよ。


ベットに攀じ登って、セドを抱き抱える。

ほのかにミルクの香りがする。


手をニギニギしている。何か掴みたいのかな。


うぅぅぅ。可愛い。


作業に戻りたくない……。


解熱剤は、セドみたいな赤ちゃんを、助けることができるかもしれないんだよなぁ。

やらないと……。


投薬の実験に、女性の文官さん達と、領主館の侍女さんたちに配布した鎮痛剤の服用結果が集ってきている。


助手さんたちに、集計をお願いしている。


この世界の人たちには、薬の作用が強く現われるみたいだ。


1/4グラムの最小量で十分に効果が見られた。

それ以上必要だった人は皆無だった。


一方、副作用として、眠くなったというのが多い。

発疹が出たり、気分が悪くなった人は居なかった。


なかなか上々の結果だ。


これは、私が魔法で作ったものだから……。純物質なんだよな。合成薬の場合は、再度副作用を見ないとダメだな。


アンケート結果を受けとった助手さんの話では、無くなってしまったので、再度処方して欲しいという人も多かった。


有効性が確認できたこと、処方量の目安ができたことから、化学合成することにした。


アセトアミノフェンの合成を助手さんたちにやってもらう。


私は、未だ体が小さくて、化学器具を扱うことが出来ないので、口頭で、助手さんに指示をしていく。


まず、原料になるフェノールを得ることから始める。

木炭を作るときに発生するタールの中には、フェノール類の有機物が含まれている。

あまりに雑多なものの集りなので、魔法で分離しながら、分離精製方法を見付けていった。


まだ、様々な試薬が使える状況にないので、それも考慮しながら実施した。


フェノールを得られれば、それからは、順に反応させていくことで、アセトアミノフェンを得ることができる。


フェノールを硫酸と硝酸を使って、ニトロフェノールを合成する。

ニトロフェノールは、2−ニトロフェノールと4−ニトロフェノールなどの混合物になっているので、不純物を炭への表面吸着などの処理をして、必要な4−ニトロフェノールを分離精製する。


4−ニトロフェノールを還元して、4−アミノフェノールを得る。

これも、未反応生成物などを除去するために、分離精製する。


4−アミノフェノールが得られたら、無水酢酸と反応させて、アセトアミノフェンを得る。

ここでも、未反応生成物などを除去して、分離精製する。


肝心なのは、各ステップで、十分に分離精製することだ。

不純物を含んだ状態で、次の反応に移行すると、思わぬ不純物を生むことになる。


最後に、純度の確認をする。


魔法で作った純物質アセトアミノフェンと赤外領域の吸光度の相違や、カラムクロマトグラフィーで得られた分画の吸光度を見て、不純物の濃度を算出する。


最終的に、合成の手順を記載して、さらに、合成の際に出る廃棄物の処理方法を決めた。

そのまま廃棄して良い場合と、不味い場合がある。

不味い場合には、焼却一択なんだけどね。


細菌に毒性のあるものをそのまま下水に流すと、可愛い活性汚泥君達が死滅することになる。


手順書が出来たところで、これをどうするか、助手さんたちと相談した。


今となっては、様々な事を知っている助手さん達が、製薬だけに携わってもらうのも困る。

できれば、領都内に居る人に対応してもらいたい。


そんな相談をしたら、バンビーナさんが、神殿の修道士の中には、薬を作ることに興味を持つ人が居るだろうと教えてくれた。


「でも、神殿の修道士さん達は、神様に祈ることが仕事なんですよね?

薬で、病人の症状を改善することは、神様の祝福を蔑ろにする行為じゃないんですか?」


とキキさんがく。


私も、神殿の人たちが、どういう考えを持っているのか分らないので興味がある。


「そういう考えも無い訳では無いですが、神様が私たちの願いを叶えて下さるかどうかは、神様の御判断です。

私達は、神様に縋るしかないので、なんとかお伝えし、お助け下さるようにお願いしているだけです。

神様は、私達を見守ってくださっていますが、何でも願いを叶えてくださる訳ではありません。

もし、自力で対応が出来るのであれば、それに越したことはないのです。そして、その対応できる機会を与えてくださったことを神様に感謝するのです。」


やっぱり、神様は、何もして下さらないのだな。

でも、感謝する心は大切か。


「そうすると、修道士の中には、薬を理解して、合成作業をしてくれる人が居るかもしれないということですか?

その場合、神殿の中で合成をすることになるのでしょうか?」


とギウゼさんが聞く。


「ええ、興味を持つ人は、それなりに居ると思いますが……。合成実験は危険な試薬を使いますから、神殿でという訳にはいかないかもしれないですね。」


そんな話をしていたら、ウィリッテさんが少し厳しい表情で、


「バンビーナさんの話は分ります。ただ、直接神殿に問い合わせるのではなく、領主様達に相談してからの方が良いと思います。」


と言う。


何かあるんだろうか……。バンビーナさんは、少し驚いた表情をしている。

他の侍女さんたちも、似たような感じだ。


「アイルさんと、ニケさんに関しては、他領や神殿には詳細は伝えないことになっています。まずは、領主様に確認しないとなりません。」


とりあえず、アウドおじさんたちに相談をしてみることにした。

ウィリッテさんが、アウドおじさんの都合と聞きに行った。

直ぐに会ってくれることになった。


助手さん達や、カイロスさん、ウィリッテさんと連れ立って、アウドおじさんの執務室に向った。


執務室では、アウドおじさん、お父さん、グルムおじさんが話し合っていた。


「……司教などという大物が、アトラス領に来ているのかは、確認しないと、なりませんな。」とグルムおじさん。


「そうだな。こんな辺境の領地に司教などが来るはずがないのだから。」とお父さん。


「おっ。来たのか、中に入れ。」とアウドおじさんに言われて、皆が中に入る。


「今、アイルも呼びに行っている。ちょっと待ってもらえるか。」


アイルと助手さんたちもやってきた。


「知っている者も居るだろうが、先月、領都の神殿長が変わった。前の司祭がお歳だったということもあるんだが……引き継いだのはダムラック司教だ。

こんな辺境の領地に来るには、あまりにも大物だ。前の任地は、領都ゼオンだった。オレもソドも旧知の仲で、人物は悪くない。

ただ、神殿が何を考えて、ダムラックをアトラス領に赴任させたのかは、考えておかなければならない。」


「父さん、それは、ボクとかニケに関る事だと思っているんですか?」


「そうだな。その可能性はかなり高いと思う。ただ、不確定な事なので、少し慎重にしたいのだ。

ところで、ニケのところで、作っているクスリというものの生産を神殿に依頼したいらしいが、少し待ってもらえないか?」


待つとそれだけ、苦しむ赤ちゃんが増えていく……。


「どのぐらい待つのですか?

アウドおじさんも、赤ちゃんの死亡率が高いのは知ってますよね。

少しでも早く処方した方が良いんですよ。」


「いや、ニケ、そのクスリというものを使うのは待たなくてもよい。

神殿に生産を依頼するのを待って欲しいということだ。」


「じゃあ、他の所で作って、神殿に渡すのであれば良いということなんですか?」


「そういう事だな。

グルム、手の空いている文官とか、領都の商店とかで対応できそうなところは知らないか?」


「これから、収穫になりますから、文官は難しいですな。

内容を聞いてみないと何とも言えませんが、領内の工房とか商店を探してみましょう。」


「あっ、それなら。

あっ、すみません、話に割り込んでしまって。

顔料とか染料を作っているところなら出来る可能性があります。」


とビアさん。


「顔料とか染料か。それは、領都には何件も無いな。担当の文官と少し確認してみてもらえないか?」


「わかりました。担当の文官というと、ボルジアさんですよね。確認してみます。」


ビアさん、担当の人まで知っているんだ。

ん。みな、頷いている。ボルジアさんて、有名なのかな。


「ビアさん。そのボルジアさんって、良く知っているの?」


「ええ、ニケさんの助手になれなくて、ものすごく悔しがってました。

食品と陶器と建築関連以外の粉物の担当税収官なんですけど……何時も愚痴を聞かされてます。

少し、地味な製品の担当なんですよね……。」


食品と陶器と建設関連以外の粉物?

うーん、何の商品担当なんだか想像が付かない。


あっ、それで、顔料とか染料なのか。


無茶苦茶お世話になってるじゃない。

というより、これから、沢山お願いしなきゃならないことが出てきそうじゃない。

薬品類は全て該当することになる……。


あっ、この世界だと殆ど無いのか……。


「えぇっと。それじゃ、その人と相談して、領地で生産していって良いんですね?」


「ああ、当面は、そうしてくれないか。グルムは、神殿関連の情報を集めてもらえないか。

それと、バンビーナ。君は、神殿にも知己のある者が居るだろう。

情報があったら、グルムに伝えてくれないか。お願いする。」


「分りました……。」


戸惑った雰囲気で、バンビーナさんが応える。


「ですが、神殿が領地の事に口出しするということは無いはずなのですが……。」


「普通はそうだな。

神殿は領地とは関係の無い組織だ。民衆のために活動している。

ただ、君も、アイルやニケの事を見てきただろう。

神の国の知識を使って、領地を発展させてくれている。

神の国の知識は、神殿のものだと言われたら、不要ないさかいが起りかねない。

それを防がなければ、オレ達の幼い子供を守れなくなるかもしれない。

分ってくれるかな。」


「分りました。」


こんどは納得してくれたみたいだ。

ただ、アウドおじさんは、上手く誤魔化してくれているけど、私達の知識は、神殿の教義と、多分折り合いが悪いんだよね。


「ところで、ニケ。そのクスリとやらは、女性に大層人気があるようだが、オレ達には効き目が無いのだろうか?」


「そんなことはありませんよ。男性でも痛みを柔らげたり、熱を下げたりするはずです。」


「それなら、それは、二日酔いにも効いたりしないのか?」


なんか、アウドおじさんが、凄く期待した目で見てくる。


「さあ……どうなんでしょうか?

普通の頭痛や筋肉痛、打撲痛などの痛み止めだとは知ってますが。判りません。

あと、くれぐれもお酒といっしょに服用しないでくださいね。毒になりますから。」


「それは、筋肉痛や打撲痛に効くのか?」


お父さんが目を輝かせている。


「飲みすぎると、中毒になりますよ。筋肉痛や打撲痛のときには、休んでください。」


「いや、戦闘の時に、戦力が落ちるのを防げるんじゃないか?」


なんか、ジャンキーの戦闘狂が生まれそうだよ。


「そんなの、私には判りません。本当に飲み過ぎは危険ですから、気をつけてくださいね。下手をすると、薬の所為で死にますから。」


「ふーむ。現場で確認してみるしかないのか……。」


ほんとめてよね。


それから、半分雑談になりつつあった打ち合わせもお開きになって、私たちは、アイルと別れた。

アイルは、送電設備の検討をしているらしい。


ボルジアさんと会うことにした。

グルムおじさんが、ボルジアさんを連れて、領主館の応接に行くので、そこで待っていてほしいと言われた。


助手さんたちにお願いして、合成したアセトアミノフェンと、製法、これまでの調査結果を研究室から持ってきてもらった。


応接室で準備を整えて待っていたら、ボルジアさんがグルムおじさんに連れられて来た。

ボルジアさんは、外回りをしていたため、グルムさんに呼ばれて戻ってきたそうだ。


ボルジアさんは、ビアさんと同年齢の女性だ。部屋に入ってくるときからニコニコしている。


「ニケ様。よろしくお願いいたします。

クスリを作る工房をお探しだと聞きました。

私もクスリを使わせていただいています。とても助かりました。

領内には、染料や顔料を作っている工房が4軒あるのですが、その中では、コラドエ工房が、技術的には優れていると思います。

ご紹介しましょうか。」


そこで、グルムおじさんが声を掛けてきた。


「ニケ様、先程の神殿の話もありますが、これからは、助手と文官に任せるのはどうでしょうか?

何分にも、ニケ様もアイル様も幼すぎます。あまり、妙な話が伝わるのも問題かと思います。

以前は、お二人にしか理解できなくて、誰も補助することができなかったのですが、今はそうではありませんでしょう?」


そう言われれば、そうかもしれない。

ボロスさんも、リリスさんも、私達を見て驚いていた。

まあ、私も前世で、2歳の幼児があれこれしているのを見たら、驚くだろう。

いや不審な目で見るかもしれない。


それに、助手さんたちは、かなり優秀で、今は、私がやっていることを十分理解してくれている。


そろそろ、私達が全面に出ない方法に変えても良いかもしれない。


「わかりました。そうですね。私の助手さんたちは優秀ですから、前の様に、私が前面に出なくても上手くいきそうな気がします。

それに、ボルジアさんにお願いすれば、商店と密接な意思疎通もお願いできそうですからね。」


そんな訳で、担当を決めて、それぞれ進めてもらうことにした。


工房での試作検討は、元気なキキさんと、活動的なビアさんにお願いした。ボルジアさんと一緒に、領地の生産者開拓担当だ。

神殿への対応は、神殿と関連が深いバンビーナさんと、貴族出身のカリーナさんに頼んだ。

そして、大人し目で、緻密なヨーランダさんと力仕事を任せられるギウゼさんとジオニギさんは、研究所で引き続き、私の補佐をお願いした。


今の私じゃあフラスコ一つ持てないからね。

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