67.妹と弟
フローラ母さんと、ニケの母親のユリアさんが臨月になった。
二人とも、日増しにお腹が大きくなっている。
オレとニケが生れたときも、ほぼ同時だったと言っていたのだが、今回もそうなりそうな雰囲気だ。
何故だろうと考えるとモヤモヤするので、考えないことにした。
ニケは、もうすぐ弟か妹が生まれるということで、ニコニコだ。
母さんは、ガラリア王国宰相の娘。ユリアおばさんも、ガラリア王国近衛騎士団長の娘。
アトラス領にとって、とんでもなく高貴な御令室なので、二人とも領主館で大切にされ、経過観察状態だ。
指揮を執っているのは、カイロスさんの母親のナタリア おばさんだ。
前回と同じ態勢らしい。ナタリアおばさんは大変だね。前回については、オレ達は生れる前なので知らないが……。
そもそも、この二人は、何で、こんな辺境の貧乏領地に嫁いできたんだ?
自分の母親ながら、有り得ないだろうと思う。
ただ、父さんは、随分といい人だ。前世の記憶がある得体の知れないオレ達のことをきちんと気に掛けてくれている。領民のことも第一に考えている。
ソドおじさんも、腕は確かだ。ニケに言わせると、あんなに重い剣を振っても体幹がブレない上に、とんでもなく剣を振る威力がとんでもなく高いらしい。
二人とも若いころは、王都でそれなりの地位にいた有望株だったという話をグルムおじさんから聞いた。
容姿も、一言で言えば二人ともにハンサムだ。
父さんと母さんの馴初めについて質問したことがある。でも、二人とも照れてなのか、あまり教えてくれない。ニケのところもそうらしい。
まあ、子供に馴初めを聞かれたら、普通に照れるものなのだろう。
もうすぐ、二人とも出産だという時期になってきた所為で、前回、オレとニケが生れたときのことが話題になる。
母さんと、フローラおばさんが、ほぼ同時に産気付いて、それとほぼ同時に、「新たな神々の戦い」が起った。
出産自体は、普通で、2時ぐらいで、産まれた。
ただ、その間中、とんでもない雷鳴が轟いて、時々落雷していた。昼間だというのに、空は真っ黒だった。
そして、オレ達は、ほぼ同時に生まれて、その瞬間に、「新たな神々の戦い」が終った。
それは……一体どういうホラー映画だ……。
出産は順調だったのだが、手伝いをしていた侍女さんや、神殿から来ていた修道士の女性は、怖けついてしまって、何も手に付かなかったらしい。
そんな中で、気丈に出産の処置をしていたのが、ナタリアおばさんだった。
流石に領地の宰相の奥さんというか、3児の母というか。肝が据わっている。
なんか、オレ達は、ナタリアおばさんに、ものすごくお世話になっていたんだね。
お世話になったといえば、グルムおじさんもそうだろう。
父さんと母さんは、出産のことで手一杯で、「新たな神々の戦い」の時の記憶があまり無いらしい。まあ、母さんは、お産で大変だったんだろうけど、父さんは一体何をしていたんだ?
母さんは、何か、外が酷く騒がしいと思っていただけらしい。父さんは、その時の記憶は殆んど無いと言っていた。
ニケの両親もそんな感じだ。
領地の重責を担うはずの二人が抜けている状況の中で、グルムおじさんは、一人で、領地内の大騒ぎを収めようと必死だったみたいだ。
この世の終わりだと勘違いして暴れる人とか、火事場泥棒まがいの事をしでかす人とかが沢山居て、警務団への指揮をするのに、てんやわんやだったそうだ。
まあ、ご愁傷さまと言うほか無いな……。
オレ達二人が生れてからの事も随分と聞かされた。
二人ともに、産声を上げて以降、全く泣かない赤ん坊だった。
それは……。声が出ないことや、動けないことにばかりが気になって、泣く必要性を全く感じていなかったからなのだが……。
まあ、とにかく、物凄く変な赤ん坊だったはずだ。
父さんと母さんは、手が掛らない、可愛いだけの存在だったみたいで、全然気にしていなかった。
初めての子供だから、比較対象が無かったんだろう。
遂に、母さんとユリアさんが、産気づいた。
父さんとソドおじさんは、オロオロしている。
今回は、グルムおじさんが来て、
「どうせ、ここに居ても何の役にも立たないのですから、仕事をして下さい。」
と言うと、二人ともどこかに、引っ張って行った。
前回の事が相当に堪えているみたいだ。
確かに、この世界では、出産の時には、男はジャマにしかならない。
前世では、男性が、出産する奥さんの手を握っているとか、立ち会い出産とかが有ったけど、この世界ではそんなジャマなものは要らないらしい。
ちなみに、幼女もジャマにしかならない。ニケは、何か手伝いたかったらしいのだが、早々に部屋から追い出されていた。
閉められた扉の前で一向ウロウロしている。
2時ほどして、元気な赤ん坊の泣き声が響いた。ほぼ二人同時だった。
今回は、雷鳴が轟くこともなく、平和に二人の子供が産まれた。
ウチは、女の子、ニケのところは男の子だった。
オレの妹は、フランと名付けられた。ニケの弟は、セドという名前だ。
普通は、親の名前と似た名前を付けるんだな。
オレ達は、ちょっと生れ方が異常だった所為で、神様の名前を付けられたらしいが……。
生れたばかりの赤ん坊は、皺だらけで、可愛いからは懸け離れているのだが……ニケは、可愛いを連呼している。
本当に嬉しそうで、ニッコニッコだよ。
ニケは、セドを抱きたがっていたけど、禁止された。落すと危険だからな。
しかし、二人も嬰児が居ると泣き声が煩い。
「やっぱり、生れたばかりの赤ちゃんは、良く泣くわねぇ。アイルと全然違うわ。」
「そうね。セドもニケと違って良く泣くわね。他の人達に聞いたとおりだわ。」
と二人の母親が言っている。
まあ、オレ達の事は、経験値にしない方が良いよ。多分……。
ただ、こうやって、妹が産まれると、つい、前世のことを思い出してしまう。
前世でも、オレには妹が居た。
生れたときのことは覚えていないけれど、銀行に勤めていた父親と、雑誌記者をしていた母は忙しく、子供の頃は、いつも妹と一緒に食事をしていた。
三つ下の妹は、可愛いというか綺麗な顔立ちをしていた。大学を卒業して、某放送局に勤めた。オレが日本に帰ってきた頃には、ニュースキャスターをしていた。
オレ達の事故の原因がどうだったのかは分らないが、母と妹は、きっと食い付いているだろうな。
こちらに来てしまったオレには原因は皆目不明なのだが、二人は原因が明確になるまで追求している気がする。
妹は、無愛想なオレにも良く懐いてくれていた。
度々、オレの仕事に対して、「そんなの何の役に立つの?」と半分バカにしたような事を言っていたが、それなりに理解はしてくれていた。
高エネルギー重力研究所に勤務することが決まったときには、「これでアニキも一端の物理学者になったね。」と喜んでくれた。
皆どうしているんだろう、と思ったら、なんとなく悲しくなってきた。




