表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり 1
82/370

66.送電線

58番目の鉱物調査隊が戻ってきた。

あとは2ヶ所を残すだけになっている。随分と北の方を探索した調査隊だ。


魔物が多くて、そっちの方が大変だったらしい。

私の発案なので、本当に申し訳ない気持になる。


この調査隊でも石炭が見付かっている。


石炭の発見は、50番目の調査隊から連続している。

どうやら、北の大地には、広大な石炭層が有るみたいだ。


謎が深まる。


この石炭になった植物たちは、一体何時繁殖していたんだろう。


石炭の埋蔵量などの調査のために、チームが結成された。

お父さんが積極的に騎士の編成をしたみたいだ。


早く、電気が欲しいんだろうな。


そもそも、窃盗する人が悪いんだけど、なかなか居なくなってはくれないみたいだ。

真面目に働けば良いのにと思う。


アトラス領では、仕事が増えている。今でも全然人の手が足りていない。労働者の賃金も、高くなっている。

以前、アイルが聞いていた、職人さんの賃金も、今では、1日1ガリオンを越えている。

真面目に働けば、生活できるのに。


自分の人生を、分の悪いギャンブルに賭けているようなものなのにね。


調査隊が持ってきた鉱石の分析が一段落着いたところで、アイルがやって来た。


『ニケ。良い事を思い付いた。』


ふーん。何か思い付いたけど、アイルでは処理出来ないことがあるんだ。

なんか、悪い予感しか無いんだけど。


『今、マリム川の上流調査をしているじゃない。

どこに、水力発電所を造ることになるか分らないけれど、かなり上流になるかもしれないだろ。』


そうね。そうなるかもしれない。


『そうなると、送電線の距離がとても長くなるじゃないか。

銅線の抵抗を下げるには、銅を太くしなきゃならないけど、それも限界があるだろ。

電力のロスが避けられないと思うんだよね。』


まあ、そうだろうね。


『そうなると、銅線に流す電流を()()く低く設定しないとならないんだよ。

電線でのロスは、抵抗値に電流の二乗を掛けた値になるから、電流値が低い方が良いんだ。』


まあ、オームの法則でそうなるよね。


『それに対応して、大量の電力を送るためには、電圧を上げなきゃならない。送電線が長くなればなるほど高電圧が必要になる。

高電圧って、ものすごく危ないじゃない。

この世界の人にとって、未知の電気でとてつもなく危険なものってマズいよね。』


でも、それって、どうしようも無いじゃない。


『送電線に使える素材が銅しかないのが問題なんだよ。』


ん?銅以外の選択肢は……無いだろ?


『だから、高温超伝導体を作れば良いんだよ。』


はぁ?何でそうなるんだ?


『あのね。それ、地球で散々色々な研究者が研究しまくってたじゃない。

酸化物高温超伝導体の相転移温度が頭打ちだったでしょ。

たしか、最近は、圧力掛けまくって、室温あたりまで転移温度が上ったけど、そんなもので送電なんて出来ないわよ。』


『いやいや、あれは、複雑な酸化物の原子配置を上手くコントロールできなかったからだと思うんだよな。4元素系とか5元素系とかって、結晶への原子配置がコントロールできないから、平均的な効果を狙ってたんだよ。』


『そうかもしれないけれど……。なんとなく出来るとは思えないんだけど……。』


『確か、酸化物超伝導材料は、導電レイヤーが乱れているために、超伝導が発生しなかったりするって、論文を見たことがあるんだよな。

それに、この世界の人達に、超高電圧を扱わせるのは危険だろ。

だから、ニケの魔法を使えば、超伝導転移温度が室温はおろか200℃でもどうにかなるよ。

頼むから、お願い。』


『わかったわ。でも、無理だったらあきらめてね。』


『流石、ニケだ。アザース。』


なんか……。前世で、同じシーンを見た記憶がある……。

私のセリフも、アイルのセリフも全く同じだ……。

しかも、転生することの切っ掛けになった記憶だ……。


まっ。今さら、過去の事を思い出してもどうにもならんし。


それから、アイルは、過去に検討されていた酸化物高温超伝導物質の特徴や、どういった機構で超伝導になっていたのかを話し始める。


やけに詳しいと思っていたら、一時期、超伝導コイルを液体ヘリウムではなく、液体窒素で冷却した構成ができないか、詳細に検討していた。

結局、電流密度が上げられなくて、断念した。


肝心なのは、酸化銅や酸化水銀のレイヤー間隔を如何に狭めるかということのようだ。周りにある元素で、むりやりそのレイヤー間隔を狭めてしまうことができれば、かなり高温化できるかもしれないと言う。


『だけど、アイル。仮に、超伝導体になったとして、どうやって確かめるつもりなの。』


『そこなんだよな。問題は。測定器があるわけじゃないし。

だから、永久電流による電磁石状態の維持と、マイスナー効果を見るぐらいかな。

まあ、永久電流が流れるような素材だったら、目的の高電圧回避ができるはずだから、そこらへんは厳密じゃなくて良いと思うんだよな。』


まあ、いいや。確認の方法があるんだったら、やった事が無駄にはならない。



なるほどと思って、作業をしようとしたところで、周りに、アイルと私の助手さん達が居るのに気付いた。

というより、アイルの意外すぎる提案で、忘れていた。


一応、アイルと私で、これからする心算(つもり)の作業について説明を試みたが……全然理解してもらえた感じがない。


それでも、私達の作業を見ていたい人ばかりだった。


大丈夫かな、これから、色々調整するから、反復作業を眺めていることになるんだけど……。物凄く暇だよ。


まっ。何時もの事なんだけどね。


それから、アイルとあれこれ相談しながら、結晶を作っていく。

最初は、伝導レイヤの周辺を構成する原子を積み重ねて、伝導レイヤが周りの結晶要素で、潰されているようなものを作ってみる。

原子をレゴブロックにして、ブロックで、造形しているようなものだ。


段々と、転移温度を上げることができて、酸化物高温超伝導材料が0℃でも超伝導特性を持つようになった。

それからは、様々な元素を入れ替えていって、転移温度を上げることができた。


最終的には、原子1200個で単位格子になる、局所的に酷く歪んでいると思われる無機結晶が出来上がった。

この物質は、150℃でも超伝導状態を維持していて、伝導方向の異方性も無い。


でも、これを、地球で作るのは……ムリだわ……。

複雑すぎるし、多分歪みのあるところは、きっと、別の元素が置換してしまう。

魔法じゃなければ、原子を目的の場所に配置するなんて芸当出来る訳がないよ。


出来上がった素材の特性評価をした。

融点は、1000℃を越えているが、400℃以上の温度にすると不可逆変化をして、室温に戻すと超伝導特性は無くなっている。

逆に言えば、400℃ぐらいまで温度を上げても良いということになる。


粉末を固めたものは、超伝導特性が見られない。魔法で合体すると特性が現われる。

アイルが魔法で変形させたものは、問題ない。


そして、セラミックスなので、硬脆い。


うーん。それで、どうやって使うんだ?これを?


『アイル。作ったのは良いけど……。これ、銅線みたいに曲らないし、どうするの?』


『細くしたら、曲らないかな……?』


太いものから、だんだん細くしてみる。太いと、ポッキリ折れる。

まっ、そうだよね。


0.1mm径にしたら、自由にではないけれど曲るようになった。

0.07mm径ぐらいだと、まあ、曲るかな。直角にというのは無理だけど、引き回すぐらいだったらどうにかなりそうだ。


だけど、こんなに細くても大丈夫なものだろうか。大電流が流れるんだよね。

でも、抵抗はゼロか……。


1本だけだと、万が一折れると断線なので、7本で束にしてみた。


まあ、自由に曲る銅線と比べると少し不自由だけど、ポッキリいかないだけマシかな。


アイルは、超伝導線に、銅で作った鞘管スリーブを被せて、銅線と繋いでいる。銅のスリーブに、銅箔を巻き付けて、ストレスが掛らないようにした。


アイルの研究室にある、発電装置とモーターの間を繋いでみて、問題は無さそうだ。


『でも、アイル。これを何kmも先にある発電所まで繋げるのはどうするの?』


『そうだな。架線という訳にもいかないだろうから……。方法は考えるよ。

ただ、これで、超高電圧を使うということも無くなったから。ありがたい事だよ。』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ