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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり 1
81/369

65.街灯

コンビナートの電化が終った。


色々大変だったけど、この惑星での初めての電力システムは上手く動いた。


コンビナートの改造が終って、二日後の朝に父さんに呼び出された。

ニケも一緒だ。


父さんの執務室に入った途端、


「アイル、あれは何だ?」


ん。「あれ」とは?

あれに該当しそうなものが有りすぎるというか、叱責されるようなものが無いというか。

あれって何なのだ?


「父さん、あれって、何の事です?」


「夜のコンビナートが昼の様に明るかった。あれは、何だ?

一昨日の夜、近隣の街で大騒ぎになった。

それで、オレとグルム、ソドで視察に行ったんだが、あれは、何だ?」


工場に電気が通るんだったら、あかりが欲しいと思って、アーク灯を設置した。


せっかくなので、コンビナートのあちこちに設置してコンビナートの敷地を照らすようにもした。


夜間もボイラーは動いている。

夜間、コンビナート内の工場は動いていないが、火を消すと、立ち上げだけで何時も掛るので、非効率だ。

そんな訳で、夜間にコンビナート内を移動することもあるだろう。

安全を考えると、多少でも明るい方が良い。


最初は、ダイヤモンドでLEDを作ったので、発光した紫外線で蛍光剤を光らせようと思った。

だけど、ニケに、ダイヤモンドLEDの発光波長が短かすぎるので、危険だと言われて断念している。


電球は、寿命が短かくて、交換の度にオレが作る羽目になるのでやめた。


蛍光灯は、水銀を使うので、ニケに却下された。


アーク灯は炭素電極を対向させればアークが飛んでかなり明るくなる。

消費するのは、炭素電極だけなので、そのうち誰か作ってくれるだろう。


オレ的には、知識としては知っていても実際に灯りとして使用しているのを見たことが無い。レガシーテクノロジーだ。


その程度の認識だった。


ところが、このアーク灯の所為で呼ばれたのか……。


いやいや、発電機とかモーター、変電設備、定電圧発生装置で騒いでくれよ。

そっちは、どうやら理解の枠を越えてしまっていたらしい。

まあ、こんなこともあるよね、程度だったのに。


アーク灯だよ。単に炭素棒が対向しているだけのものだぞ……。


それで、昨晩、父さんやおじさん達は、夕食の時間に居なかったんだ。


この世界では、夜間移動することはしない。月が出て月明かりがあっても、本当に真っ暗だからだ。


父さん達は、昨晩コンビナートの街に泊って朝一番に戻ってきたらしい。


「あれというのは、『アーク灯』の事ですね。

工場は危険な場所が沢山あります。

夜間もボイラーが動いているので、夜間に動作状態を確認するために、移動することも有ると聞いていました。

夜間に工場内を移動しなければならない場合には、暗いと危いですから。

少し明るくしたんですよ。」


「しかし、あれは、ただ明るくしたというものじゃあないだろう。

コンビナートの敷地内は、まるで昼の様だった。」


オレもニケも、夕方には領主館に戻っていたから、どのぐらい明るくなっているのかは、実は知らない。

それでも、昼の様という事は無いだろう。

どちらかというと薄暗いだけだと思っていたんだけど。


「アイルが設置してたのを見てたけど、あれじゃ、あんまり明るくないと思うわ。

昼みたいだなんて、大袈裟よ。」


「そうですよ。足元が危くないようにしただけですから。」


「いや、明るさはこの際いいんだ。まあ、明るいに越したことは無いのだが……。

電気というものを使うと、夜、あんなに広い場所を明るくできるのか?」


「それは、そうよ。前の世界では、それこそ夜も昼の様だったわ。渋谷や歌舞伎町の繁華街は、夜なんて関係無く、人で溢れていたわね。」


「最近、夜間に、窃盗や傷害の事件が頻発するようになったのだ。

犯人を見掛けても、逃げられてしまう事が多い。

これまでは、足音で追跡もできていたのだが……、建物が、高くなったために、それも難しいのだ。」


ソドおじさんが、憎々しげに言う。


「以前は、アトラス領での盗難は、食料品が多かったのだが、最近は、高価なものが増えてきただろう?

日中の活動は、ギルドの統制で、難しくなったのか、夜半に忍び込むのだ。

警務団や、商店が警戒してはいるのだが、現行犯であっても、それを捕えることも難しくてな。

街の中が明るくなれば、防犯の意味でも有益なのだよ。」


と、父さんが言う。


「えーと。それは、マリムの街にあかりをともしたいという事ですか?」


「そうだ。そうすることが出来ないかと思っているのだが……。」


おもわず、ニケと顔を見合わせてしまった。


『街中を明るくするのは良いけど、どのぐらいの発電量が必要になるの?』


『うーん。今すぐには、分らないけど、コンビナートの比では無いだろうな。』


『そうすると、本格的に、電気の時代になるのね。手間さえ惜しまなければ、色々な解析装置が出来るってことよね。』


『ちょっと待て、それは、誰が作るんだよ。』


『そりゃ、アイルに決まってるわ。私にはムリだから。』


『……まあ、その話は、電気が通ったらにしよう。

うーん。本格的な発電設備を作らないとならないのか……。

まず、発電所を何処に作るんだ。マリム近郊の川って訳にはいかないだろ。

山の中だったら、送電線が必要だぞ。

鉄塔も建てなきゃならないのか……。』


『まっ。すぐにってことは、無いでしょ……。

……むむむ。でも……これまでの状況を考えると……。』


そうだ。これまでの状況を思い出すと、ソロバンを作って、鉄を作って、ガラスを作って、メガネを作って、紙を作って、上下水道を作って……。

これで、まだ1年半だよな。


『ちょっと、オレ達、走り過ぎじゃないのか?

僅かな期間に、いろいろ作りすぎている気がするんだけど。』


『うーん。それはどうかなぁ。まだ、やりすぎ評価は出てないような気がするけど。

そんな評価が出てきたら、休止すれば良いんじゃない。

領地の人たちは、多分だけど、喜んでいるよ。』


『でも、どうやって発電するんだ。

この前、見付かった、石炭でも使うか?』


『それも悪くは無いんだけど……。

埋蔵量が分らないし。そもそも石炭が有ること自体が良く解ってないし。

ノバ君の爆発時期って判ったの?』


『それは……。まだだな。

天体観測を始めて、まだ半年だぞ。

最近爆発したんじゃなければ、時間がかかるよ。』


『じゃあ、水力発電しか無いんじゃない?

マリム川は、大きな川だから、水量もかなり有るでしょ。

大陸の南には強力な海流があるって話だから、海で海流を使って発電しても良いかもしれないけど、現実的じゃないし。

ただ、完全に水を堰き止めるようなダムを作ると、生態系に影響が大きいって言われていたわね。

場所を選ばないとならないわ。

大きな滝なんてないのかしら。

そういう場所なら、滝で落下する水の力で発電できるかもね。』


『いずれにしても、直ぐに出来ることじゃないよ。

川の上流域を調べてもらわないと。

それに、そんなに都合の良い……。』


父さんの咳払いの音が聞こえてた。


「悪いが、そろそろ良いだろうか?

二人が何を話しているのか全く分らないのだが。」


「あっ。ごめんなさい。ニケといろいろ技術的な話をしてました。」


嘘だなぁ。ダベっていただけだな……。


それから、発電をするのであれば、コンビナートで採用している水を使うのが良さそうであることを伝えた。

領都マリムに電力を供給する場合、街灯だけではなく、家庭や工房、商店でも灯りを使うことを考えると、かなり大規模なものになる。


そのためには、マリム川を堰き止めるような巨大な施設が必要になる。


ただ、生態系への影響が大きいので、場所を選ばなければならない。

こういったことを伝えた。


生態系の説明が一番厄介だった。


大体、この世界には、生態系の概念そのものが無い。

ニケがあれこれ説明を試みていたけど、結局分ってもらえなかった。


そもそも、森を切り開いて、農地を作っている事自体が生態系の破壊行為だ。

どこで線引きするのかというだけのことだ。


ひとつ言えるのは、極端なことをしてはいけないということだが、それも線引きの問題になってしまう。


人類が存続できる環境を維持するということが重要なのだが、これが難しい。

因果関係が複雑すぎて、誰にも答は分らない。


最近発見された『石炭』についても説明した。

埋蔵量が分らないので、発電に使って良いかどうかが分らない。

発電を始めて、すぐに枯渇してしまうのであれば、使わない方が良い。

埋蔵量が膨大にあるのであれば、使わない手はない。

街の側で発電できるのであれば、管理するのが楽だ。


「燃える石があるのか?」


とグルムおじさんが聞いてくる。


「木炭が大量に地面の下に埋まって、石のように固くなっていると考えれば良いです。

ただ、燃やすと毒が発生するので、その処理をしなければならないですね。

発電所で使う場合は、毒を処理する設備が準備できるけれど、何にでも使えると思わない方が安全です。」


ニケが説明してくれた。


マリムを電化することは、半分決定事項だったので、発電設備を造るための立地調査と石炭の埋蔵量の調査を、文官と騎士達で行なうことになった。


その間に、オレたちは準備を頼まれた。




天文台を開設して、概ね半年経った。


ニケが、超新星爆発が何時起きたのかを聞いてきたが、今のところ判らない。

超新星爆発に起因すると思われる天体の移動が観測できていない。

これから推定されるのは、1万年よりは前だということぐらいだ。


日々、助手のダビスさんと、ピソロさんが、夜間観測してくれたお陰で、星図もかなり詳細になった。

オレは、夜に天体観測する訳に行かないので、この二人には本当に感謝しかない。


惑星と思われる天体が、二つ新たに見付かっている。


これで、ヘリオ恒星系の惑星は、恒星ヘリオに近い順から、


惑星ヴィナ

惑星ガイア

惑星メゾナ

惑星アストラ

惑星ソタニア

惑星シカニア

惑星ケレイカ

惑星ネプシマ

の8つになった。

惑星ケレイカと惑星ネプシマは、何度か星図に登録した星を再確認したときに、僅かに天球上で移動しているのか確認できた。

暗い星なので、星に名前は無かった。

太陽系の天王星と海王星に倣って、この世界の天の神様と海の神様の名前にした。

天の神の名前としてアイテールという候補もあったけど、恥しかったので止めてもらった。

残念ながら、惑星表面は、距離が遠くてよく分らない。


この8つの惑星の軌道については、詳細に観測してもらっている。


内惑星は、惑星ヴィナだけだ。この惑星は恒星ヘリオの近くを回っていて、明け方か日没にしか観測できない。公転周期129.32±0.01日で、恒星ヘリオを回っている。

まだ、データがそれほど無いために、これ以上正確な公転周期が得られていない。


惑星ガイアは、公転周期が433.12886日だ。軌道はほぼ円形と言って良さそうだ。


衛星セレンの公転周期は、36.0054日だ。

黄道こうどう白道はくどうの傾きがd6.8分(=17度)ある。


外惑星のうち、惑星メゾナは、公転周期736.7日ぐらいということが判っている。惑星アストラは、1600日から1750日ぐらいだ。

惑星ソタニアは、10年以上、惑星シカニアは、30年以上の公転周期だろう。

もう少し観測を続けないと正確なところが判らない。


それより遠い二つの外惑星は、惑星だということしか判っていない。


他には、黄道面に対して垂直の位置にある星も正確に測定している。

年周光行差を測定することで、惑星ガイアの公転速度が測定できるはずだ。


そして、恒星メクシート周辺の星もだ。

時間がかかるかもしれないが、周辺にある星の動きで、恒星メクシートまでの距離と超新星爆発が起った時期が特定できるかもしれない。

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