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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり 1
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64.電化工場

コンビナートの製紙工場と新しい漂白剤工場を建設するために、私とアイルは、必要な素材の準備をした。


研究所では、銅、鉄、絶縁材を作って、コンビナートへ運び込む。

助手さんたちは大忙しだ。


毎度毎度申し訳ないね。


現地に先行した、アイルは、運び込まれた素材で、発電機やモーター、液送ポンプ、パイプラインなどを作っていった。


漂白剤工場は、コンビナートの上流寄りに作った。

船で運ばれた海水を、ポンプで組み上げて、保管しておく巨大な屋根付きプールを作る。

その出口側には、沈殿槽と濾過槽を設置した。


濾過した海水は、送液ポンプで、電解槽に送られる。

電解槽では、網状の多数の電極の間を海水が循環するようになっていて、一定時間海水が循環したあとで、巨大なステンレス製のタンクに溜められる。


これらは、全て、送液ポンプで輸送される。


万が一、次亜塩素酸塩が漏洩して、活性汚泥に流れ込むと、活性汚泥内の細菌が死滅することも予想されるので、漂白剤工場の排水は別系統にし、直接川に排水するようにした。


製紙工場には、未だ手を付けていないが、準備だけは実施している。


これまで、手作業で、移動させていた、水酸化ナトリウム液、漂白剤、セルロース懸濁液をポンプ輸送できるようにする。

回転シャフトで駆動していた場所は、全て、減速機付きのモーターに置き換えるので、そのための接続治具、減速機、モーターを準備した。


漂白剤の部分は、漂白剤工場から、漂白剤が液送されて、人手が不要になる。


漂白剤工場で使用する電極は、魔法で固めた炭素を使用することにした。

白金を工場で使えるほど入手できていないので、仕方が無い。


電気伝導性のグラファイトは脆い。グラファイトは、層状化合物なので、層間の結合力が小さいのが原因だ。


内部にダイヤモンド構造が混じるようにしてみた。かなり強固な塊になった。それをアイルの変形魔法で電極の形にした。

ガラス状カーボンというものと近いのかもしれないけれど、X線回折装置がある訳でもないので、調べようが無い。


いいんだよ。使えれば。


しばらく使ってみて問題がなければ、そのまま使い続ける。


送電線は、太い銅線のまわりをフォレストライトとニカワで固めて、ステンレスパイプの中にフォレストライトの粉末で埋めた。

容易に曲げられないが、魔法で曲げることができる上、信頼性は高そうだ。


工場の停止と改修を実施する前に、全ての準備が完了し、漂白剤工場は、電力供給すれば、稼動するようになっている。


計画では、稼動している水車の全てに発電装置を取り付けた場合に、総発電容量の1/8から1/12程度の負荷になる。


負荷を抑えめにしたのは、私が、今後コンビナートには、精錬工場を作りたいという要望を伝えたためだ。精錬には、電気精錬も行なう予定だ。電力が必要になる。


アトラス領は、鉱物資源の宝庫だ。だけど、その鉱物資源を有効に使おうと思ったら、精錬工場が有ったほうが良い。


魔法で分離するには、魔力量の大きい魔法使いが必要になる。


そんな優秀な魔法使いは、もっと役に立つことをした方が良いにきまっている。


そう言えば、ウィリッテさんが、金属類の分離魔法が使えるようになった。


随分苦労していたけれど、成功したときは、物凄く嬉しそうだった。

1級魔法使いに成れたのかを聞いたら、「お陰さまで。」と言われたので、成れたんだろう。


今のところ、ウィリッテさんが、分離できるのは、炭素、マグネシウム、アルミニウムだ。


残念ながら、原子量の大きなものは出来ない。


金や銀、銅なんかが分離できないか、随分頑張っていたけど、電子数が多すぎると嘆いていた。


アルミニウムは、六方最密充填構造で、マグネシウムは体心立方格子構造の結晶だ。

グラファイト構造の炭素は六方格子構造。


最初はマグネシウムに成功していた。イメージするのが比較的楽だったんだろう。六方最密充填構造は、難しかったみたいだ。


体心立方格子と六方最密充填構造は、とても良く似ている。


六角形が並んでいる面の並び方が違うだけだ。

そんな事を伝えたりしながら、何度も試して、アルミニウムに成功したら、炭素も出来るようになった。


炭素が分離できたなら、ダイヤモンド構造をイメージできればダイヤモンドが作れると伝えたら、物凄い形相で、頑張っていた。

だけど、難しかったみたいだ。


正四面体が規則正しく並んでいるだけなんだけどな。


理知的な雰囲気を漂わせている綺麗な顔が、必死になって、凄く歪んでいる姿は、執念を感じさせなくもない。


「ダイヤモンドが作れたら、自由に生きられるのに。」


とか呟いていたけれど。何か有るんだろうか。


今は、アイルに作ってもらった、ダイヤモンド構造の結晶模型をひたすら眺めている。


結晶群とか結晶点群というものがある。空間群の部分群で、結晶構造を分類するのに使われる。X線回折分析で回折パターンを決めているのが結晶群だ。

回転とか、鏡面とかの空間操作を演算とした群だ。


最近、私は、結晶群を考えながら元素をイメージすると、分離できるようになってきた。少し魔法が進化したのかもしれない。


それはともかく、魔法使いは、他に出来ることがあるのだから、普通に人が人の手によって実現できることは、実現させてしまうのが良い。


なんとか精錬工場を作りたいものだ。


製紙工場を止めて、製紙工場の改修と漂白剤工場を稼動する日になった。


朝から、私とアイルは、コンビナートに移動する。


ギャラリーが多数付いてくるけれど、まあ、仕方が無いだろう。


電気については、アイルの助手さんから、アウドおじさんや、グルムおじさんに説明してもらったのだが、理解してもらえたのかどうか今一つ不明だ。


ウチのお父さんは、私が少し説明してみたんだけど……諦めた。


ムリは良くない。適材適所だ。


製紙工場は、製紙工場の技術者さん達が完全に止めていた。

完全に止めたのは、操業以来始めてだ。


せっかくなので、大体半年ぐらいの連続運転で、どの程度の補修が必要なのかを確認してもらっている。


特に、高圧蒸気を発生させているボイラーの痛み具合を見て、補修計画を作ってもらう。


状況を見て、半年か1年に1回の定期補修をしてもらう予定だ。


一緒に来てくれている騎士さんたちに、製紙工場のシャフトを取り外してもらったら、入水側の水を堰き止めて、水車を止め、それぞれの発電機を繋げた。


堰を開けて、発電機が回り始めた。


上流から引き込んだ水の落差が一定なので、水車は、常に一定の回転をする。

とは言っても、負荷が掛かれば、回転数が落ちる。

そのときの回転数が、交流電圧の周波数になる。


モーターは三相モーターなので、電力周波数に依存して回転数が決まる。


発電量に対して、負荷の割合がかなり小さい設計なので、現状は問題無いだろう。

負荷が増えてきたら、アイルは水量を増やして、水車を増設すると言っていた。


発電機の出力電圧に合わせて、供給電圧が設定される。

アイルが、発電機の回転数と電圧から、発電機のギア比とトランスの設定を調整している。

供給電圧は200V、288ヘルツにした。

この値に理由をアイルに聞いたら、「何となく。」と言われた。

地球に合わせたのかな。多分、この世界の1秒が、地球の4秒ぐらいだと、288ヘルツは、72ヘルツだ。


うーん。あんまり合わないな。単に、d20ヘルツにしただけかな……。


リリスさんは、朝から、漂白剤工場に張り付いている。


大量の漂白剤が手に入れられることに期待が大きいんだろう。


アトラス布は、通常の布と比べて2桁以上の高額で取引されている。


最初聞いたときは、聞き直してしまった。2桁って、ほとんど暴利じゃないか?


ただ、これまでは、紙の製造で余った過酸化水素で僅かな生産しかできなかった。

だから生産量が限られていたんだよね……きっと。


漂白剤工場が立ち上がったら、大量に生産できるから……値引きはするのだろうか。


まあ、私には関係無い話だ。


最初に、漂白剤工場を動かした。電力供給が上手く行っているのかを確認する意味もある。


川にある船着場には、海水を運んできた船が多数停泊している。

電動のポンプで、海水を工場に引き入れていく。

上手く動いているようだ。


1時もすると、漂白剤がタンクに溜り始めた。

溜る端から、出荷されていった。


出荷先は、浄水場と、リリスさんのところだ。


この漂白剤工場の管理は、文官の担当者とリリスさんの番頭さんが行なうことになった。

既に、製造が開始したら、どのぐらいの量を出荷するのか話が付いているそうだ。


まあ、私が知る必要もないから良いんだけどね。


漂白工場は、問題無く立ち上げを完了したところで1日目は終了した。


翌日。製紙工場の改造作業を始めた。


製紙工場は、製紙工場の技術者を交えて、技術面の説明をしながらだ。

これまで、水車からの動力を直接ロール駆動にしていた状態を電力でモーター駆動に変更していく。


基本的な操作方法は変わっていない。

これまで、危険なエリアとして区分していたシャフト動力の周辺はスッキリしている。


動力を切るために、クラッチ操作をしていたものが、電源スイッチに変更された。


大きな変更があったのは、漂白の工程だ。


これまで、過酸化水素水で漂白していたのが、次亜塩素酸水に変更になった。


毒性のある酸化バリウムを使用しなくても良くなった。


炭酸バリウムを酸化バリウムに戻す作業や、そのための高温の炉も不要になった。


高温高圧蒸気を発生させるボイラーの燃焼室のレンガで痛んでいる部分の交換をして、ボイラーに火を入れたところで、2日目が終了した。


翌日、製紙工場の上流側から順に動作確認をしていく。


感電や漏電などによる、電気の事故の教育もしていった。


製紙工場では水や電解液を使うので、感電事故も考慮しておかなければならない。


技術者はもちろん、工場作業員も、この領地の優秀な人が勤務しているので、皆真剣に教育を受けていた。


安全操業に努めてもらいたい。


3日目が終る頃には、製紙工場も稼動して、コンビナートの作業は終了した。

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