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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり 1
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61.解熱剤

折角なので、バンビーナさんに、神殿の事を教えてもらった。


神殿と言っているのは、大地神教という宗教の神殿。

全ての国、領地に神殿がある。

テーベ王国にも有るのかを聞いたら、活動はあまり上手くいっていないけれど、一応王都に神殿が有るらしい。


アトラス領の神殿は、田舎の領地の神殿で、規模も小さい。

かなり年配の司祭様が神殿長で、あとは修道士が20人ほど居る。

修道士になるのにも、修行が必要で、未成人の内に、修道士見習いとして、学ぶ必要がある。バンビーナさんも、子供の頃から、神殿で修道士見習いとして学んでいた。


そんな小規模のところに居たのに、文官に職を変えるために抜けて大丈夫だったのかを聞いてみた。

そもそも、神殿の規模と御布施の金額で、修道士の人数が決ってしまう。

バンビーナさんが、いつまでも居座っていると、修道士見習いの人が修道士に成れなくなってしまう。

だから、修道士を辞めても大丈夫らしい。


どこにでもあるね。上がつかえて出世出来ない組織ってやつが。


神殿に務めていたため、バンビーナさんは、読み書きは問題ない。

神殿でも、お金や備品の計算が必要で、ソロバンを学んでいたんだそうだ。


時計を領主館から購入した時は、神殿中で話題になっていた。

ソロバンも、領主館から広まったので、領主館の仕事に興味を抱いていた。

そんな時に、領主館の文官の募集を見て、一も二もなく、応募したと言っている。


「採用が決まった時には、ニケ様とアイル様に御会いできるんじゃないかと思うと胸が一杯でした。」


あれれ?経済的な理由と聞いていたぞ?


旦那さんは何をしているのか聞いたら、魚介類の仲買人をしていた。

あまり稼ぎが良くない上、4人の子供が食べ盛りで、何時も大変だった。

文官になって給金が倍増したので本当に助かっている。


やっぱりそっちも有るのか……。


「あっ、そう言えば。

今度、アトラス領の神殿長が変わると聞いています。

今度の神殿長は、司教様が就任なさるそうです。

驚きました。」


と、さも重大ニュースを伝えているかのように、バンビーナさんが言う。


何が驚きなのか、ちっとも分らないよ。


理解していない私の顔を見て、説明してくれた。


「神殿で一番偉い方は、大司教様で、この世界に一人しかいらっしゃいません。

次は、司教様で、この世界に、24人しかいらっしゃらないんですよ。

ガラリア王国には、2名しかられません。

たしか、王都と、王国宰相の公爵様の領都ゼオンにいらっしゃるだけなんです。

なんで、こんな辺境の領地に司教様が来られるのか……。

本当に特別な事なんですよ。」


ふーん。そうなんだ。でも、私には関係ないことだよね。


色々四方山よもやま話をしていたら、夕刻の鐘が鳴った。


バンビーナさんの、神殿での看護の知識はとても役立ちそうだったので、しばらく、私の研究室に来て欲しいと伝えて別れた。


夕食時。


あいかわらず家族でやってきている、グルムおじさんに、バンビーナさんの事を相談した。

少し、乳児の死亡率を下げるためにどうするか考えるのに、バンビーナさんの経験と知識が役に立つと訴えた。


グルムおじさんも、ちょっと特殊な経歴を持っているバンビーナさんの事は知っていた。

私の為になるのであれば、使ってもらって構わないという返事を貰えた。


よしよし。助手さんゲットだよ。領地の衛生環境改善に力を貸してもらおう。


何かの感染症なら、抗生薬を作るという手もあるんだろうけど……。

幼児が体調を崩す原因になる、病原が一体何なのかも判らないから、対症療法しか出来ないかもしれないな。


夕食の後で、アイルに、明日、適当な時に、研究室に寄ってほしいと言われた。

整流器や定電圧発生器が出来たので、相談をしたいらしい。


翌日。


教育は断続的に、午前中に実施していた。

それでも、子供の教育に必要な内容は、全て終ったみたいだ。

これまで、色々勉強したよ。

人の名前は、怪しいけど……。


今でも、ウィリッテさんは、私やアイルがお願いすると、教育とは別に、講義をしてくれる。

本当に優秀だ。

こちらの希望に合わせて、講義内容を直ぐに考えてくれるのはスゴイ。

地球にもあまりこんな講師の人は居なかったな。


バンビーナさんが、私の研究室に来た。

今日から助手をお願いしますと言ったら、感激していた。

でも、私の助手するのって大変だよ。


私は何も出来ないからね。


ウィリッテさん、カイロスさんは、今日は、こちらに来ている。

病気の原因になりそうな事を教えてもらうために、助手さんたちと、バンビーナさんたちと、幼児の死亡率について議論する。


神殿に運び込まれる病気の幼児は、何ヶ月ぐらいの子供が多いのか、どんな生活をしている家の子供が多いのかなどを聞く。


多いのは、生れて半年を過ぎて、1年ぐらいまで。

大抵は、高熱で、ぐったりしている子供が運び込まれる。

裕福な商店の子供や、文官や騎士の子供が運び込まれることは殆ど無い。


前世で、妹の子供が生まれたときに聞いた話を思い出した。


赤ちゃんが母親からもらった抗体の効果が切れるのが半年。1歳ぐらいになると、独自の免疫を作れるようになる。


同じなのかもしれない。


バンビーナさんから耳寄りな話を聞いた。

バンビーナさんは、昨日、私と会ってから、昔の同僚に、今の状態を聞いてくれていた。


それによると、上下水道を整備してから、目に見えて、神殿に運び込まれる幼児の人数が減っているそうだ。


やはり、感染症で高熱になって、衰弱して死んでしまうんだな。


これまで、水は井戸水か川から運んできた水をそのまま使っていた。


衛生概念が薄かったり、子供に手を掛けられない家庭では、感染しやすいのかもしれない。


何しろ、排出物を道に廃棄していたりしたんだから、家の中は病原菌だらけだったんだ。

この月齢の子供は、寝返りを打ったり、ハイハイしたりして、活発に動き始める。手や足の裏を舐めたりもする。


そういった意見は、皆から事例を含めて出てきた。


薬は無いみたいだから、何か良い薬を作ることができれば、死亡率を下げられるかもしれない。


とりあえず、解熱剤かな。


抗生剤として比較的容易に合成できるのはスルホン酸アミド系の薬剤だろう。

有れば、怪我をした人にも使えるかもしれない。


ただ、確実に細菌を死滅させられないと耐性菌が発生するリスクが有る。


確か、耐性菌が発生しにくくするために、ST製剤というのがあった。


スルファメトキサゾールが、細菌の核酸合成に必要な葉酸を作るのに必要なジヒドロ葉酸の生成を阻害する。


トリメトプリムが同じく、葉酸を作るのに必要なジヒドロ葉酸からテトラヒドロ葉酸への還元を阻害する。


相乗効果で、細菌の増殖を防ぐ薬だった。どちらか片方だけだと、耐性菌の発生が抑えられないので、両方を混ぜて使用する。


ただ、こういった薬物は、自然分解しにくいんだよね。

自然分解というのは、紫外線で分解するか、細菌が消費することで分解される。

細菌を死滅させるような薬物は、自然分解しにくい。


まあ、少量なら、有っても良いかもしれないから、魔法で少し作っておいても良いかな。


幼児に投与するのは……様子を見てからだな。


そして、これらのものを、合成できる下地が無いんだよね。


魔法を使えば、試薬も作れるけど、基本的な試薬類が、普通に生産できるようになっていない……。


そもそも魔法を使ったら、ターゲット化合物は、そのまま得られるし。


まず、解熱剤を合成できるように考えてみよう。


たしか、乳幼児に使ってはダメな鎮痛解熱剤があったな。


妹は使っても良い解熱剤について何て言ってたっけ……。


アセチルサリチル酸はダメだったな。イブプロフェンじゃないな……。

あっアセトアミノフェンだったな。


アセトアミノフェンだったら、フェノールを出発材料にして比較的容易に作れる。

助手さんたちの有機合成の練習にも丁度良いだろう。


ところで、この世界の言葉で、薬に相当する単語は有るのか?

聞いたことが無いな。


「ところで、体の具合が悪くなったときに、口にするものって何と言うのですか?」


聞いてみたけど、何も応えが無い。


「えーと、それじゃ、風邪を引いたときには、どうやって直すんですか?」


「暖かくして寝ます。」とキキさんが応える。皆頷いている。


「何か、飲んだりはしないのですか?」


「栄養のある消化の良さそうなものを食べますね。」とヨーランダさん。


「神様に祈ります。」とバンビーナさん。これにも皆頷いている。


うーん。困った。


「じゃあ、二日酔いのときには?」


「横になって、具合が良くなるのを待ちます。」とギウゼさん。


「神様に祈ります。」とバンビーナさん。また皆頷いている。


神様は万能薬なんかい。まあ病は気からと言うから、それもアリなんだろう。


「女性が多いので聞きますが、毎月、具合が悪くなったりしますよね。その時はどうしてます?」


幼児に、生理の話を聞かれて、みんなビックリしている。赤くなっている人も居る。男性は、何のことだか分っていない顔だ。


聞いちゃいけない話題だったたかもしれない……。


「えーと。それは、毎月お腹が痛くなったりするときの事ですか?

そのときも休んで、横になって具合が良くなるのを待ちます。」

カリーナさんが消え入りそうな声で応えてくれた。


どうやら、薬というものは無いみたいだ。ただひたすら我慢して、神に祈るんだね。


「ごめんなさい。応えにくいことを聞いちゃったみたいですね。

病気になったりして、具合が悪いときに、その状態を軽くするものが有ります。

『薬』というものです。

その『薬』なかには、熱で衰弱した子供のために、その症状を改善するために良いものが有ります。

『解熱剤』と言うものなのですが、それを作ることにしましょう。

ただ、赤ちゃんは体が小さいので、どのぐらい使えば良いのか分らないんですよね。

大人にも効くので、少し協力してもらうことになります。」


二日酔いしている人や、風邪を引いている人を探すのは大変だけど、女性の生理痛で困っている人は、一定数居るだろう。

午後に、女性の文官さん達に集まってもらうことにした。

人数を聞いたら、150人ぐらいだった。


とりあえず、アセトアミノフェンは私が魔法で作った。

それを1/4グラムに小分けして、紙に包んでもらった。

薬の包みは、500包用意した。

使用量、どの程度有効だったか、飲んでから改善されるまでの時間などのアンケート用紙も用意した。


準備が終ったところで昼になった。


あっ、アイルに呼ばれていたなぁ。

都合のつく時で良いと言っていたから、女性の文官さん達に説明してからで良いかな。


昼食の時間、アイルに、アイルの研究室に行く時刻が、午後の後半になりそうだと伝えたら、それで良いと言われた。


午後、文官詰所にある大会議室に向った。

私の足だと、時間が掛りそうだったので、侍女さんに抱えてもらって移動した。


大会議室は、文官全員を集めて、通達などをする場所で、文官全員が入っても大丈夫なほど広い。

最近は、文官の人数が増えてきていて、全員を収容するには手狭になっているのだと助手さん達が言っていた。


女性だけと話をするということで、男性助手のギウゼさんとジオニギさん、カイロスさんには御遠慮いただいた。


会議室には沢山の女性の文官さんたちが待っていた。


大会議室に入ったとたんに、嬌声と拍手にみまわれた。


ん。何事だ?


キキさんが、「だって、ニケさんに御会いできて、協力を依頼されるんですよ。皆、興味津々です。」


痛み止めの使用方法についての説明は、バンビーナさんにお願いした。


今、私のところでは、痛みの症状を軽くするための薬を検討していること。

どのぐらい飲むと効き目があるのかを調査したいこと。

新しい試みなので、飲むことで具合が悪くなる可能性もあること。

などを説明した。


趣旨に賛同してもらえる場合には、薬を渡すので、辛い時に飲んで、アンケートに答えて欲しいとお願いした。


その後で、薬を飲む際の注意事項を伝えてもらった。

空腹の時に飲まないこと。

沢山水を飲んで、喉に詰らせないこと。

奇しな症状が出たら、申告してもらうこと。

1日3包を限度にすること。

などを伝えてもらった。


生理痛で悩んでいる人は、参加者の半分ほど居た。

今現在、困っている人も居る。


痛くない人は、痛み止めを飲むべきでは無いので、痛みが出る人にだけ痛み止めを渡すことにした。


頭痛持ちだという人が居たので、その人には渡して様子を見てもらう事にした。


私を運んでくれた侍女さんが、申し訳なさそうに、「わたしにも頂けませんか?」

と言ってきた。


そう言えば、侍女さんたちって、若い女性が多かったんだな。


困っている人が居たら、教えてくださいねと言って、その侍女さんにも薬を渡した。

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