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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり 1
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60.疫学調査

アイルは発電機を仕上げたようだ。


あの後、大量のシリコンやホウ素、リンなどを要求された。

今度は、トランジスタだかダイオードだかを作ってるんだろう。


ここらへんになると、私の出番は殆ど無いね。


魔法で分離すると、100%の素材が手に入る。

苦労して純度を上げる必要もない。


うーん。地球で苦労して作った鉄は……。


まっ。過去の事だ。


今回、50番目の鉱物探索隊が戻ってきた。随分と領地の北の方まで行ったみたいだ。


調査した場所で、石炭が見付かっている。


驚きだ。


地球では、石炭は、太古の昔に、地上で大量に繁茂した植物が風化せずに化石になったというイメージなのだが……。

この惑星だと、どう考えれば良いのだろう。


何が変性して石炭になったんだろう。


そういう観点で言うと、石油もあるんだろうか……?


何時、石炭の元になる植物がこの惑星に有ったんだろう?

いや。植物じゃないのかもしれないし。

顕微鏡が有れば、ひょっとして少しは分ることがあるのだろうか?

無いものねだりしても、しょうがない。


同位体年代測定というのが頭を過ったのだけれども、ノバ君の所為で、同位体比率が信用出来ないので、使えない。


大量の化石燃料資源が見付かったとして……どうしようか?


バカバカ燃やして良いかについて、私一人で判断できない。


そして、困ったことに、相談できるのは、アイルしか居ない。


二人で結論を出しても良いものなんだろうか……?


とりあえず、植林して、木炭を作っている分には、問題は殆ど無い。

当面はそのセンで進めよう。


ちょっと前に見付かった、ウラニウムを含めて、ペンディングだ。ペンディングだ。

先送りして、ダメな理由も無いさ。


少し前から、お母さんと、アイルの母親のお腹が大きくなってきた。

二人とも「おめでた」らしい。


ふふふ。私に妹か弟ができる。


しかし、私とアイルの時もそうだったけど、アウドおじさん夫婦とウチの両親は、同じ時期に子供を作ることにしているんだろうか……。


まっ、偶然かもしれない……。


うーん怪しい。


領民台帳が完成した。従来から領民だった人達の登録が終ったと聞いた。

これからは、他領から移住してきた新規の領民を追加しつつ、更新していくことになる。


頼んでいた、疫学調査のためのデータも揃ったと聞いた。

文官さん達が、疫学調査のデータを持ってやってきた。

物凄い紙の山だ……。

4万人を越える領民の近親者の死亡記録って……一体何件あるんだろう?


文官さん達は、10名だった。

私の助手さんたちも手伝うと言ってくれた。


これも最初が大変なんだよね。


これからは、データに追加していけば良いだけだから、それほど大変じゃぁない。


調査した結果を、死亡した年度毎に、死者の性別、年齢、死亡原因をリストにしていく。


聞き取りの調査のため、内容が整理されていないので、まずはデータを正規化しないとならない。


年度毎の用紙を作って、担当を決める。読み上げ役の人が読み上げた内容を元に、担当年度の所定の用紙にリストとして記載していく。


熟々(つくづく)コンピュータが欲しいと思った。

コンピュータへがあれば、順番無関係に、ただ一向ひたすらに入力していけばよい。

あとで、必要な分類項目でソートするなり集計するなりすれば良いのだから。


それでも、皆で分担して、2日の作業で、全てのデータの集計が終った。


私は、指示だけして、何もしていないよ。


しょうがないよ。幼児なんだから。


集計したテーブルを基に、死亡した年でデータを纏める。死亡原因の比率、年齢の比率を出していく。


比率の計算のしかた。統計的を使ったデータの纏め方を教えていった。


事故の場合、その発生原因を調べて似た事例が過去に無かったかを確認する事が大切だとか、病気で死ぬ人が増えた場合も原因を調べる事が大切だとかを伝える。


今回のデータでは、詳細説明が殆ど無いので、その原因を確認することが難しい。


今後領民台帳で、死亡が確認されたら、原因調査をする事が大切だと伝えた。


ひととおり説明が終って、担当の人たちは集計データを持って文官詰所に戻っていった。


集計したデータを見てみた。

あまり過去に遡ると、データの欠落が発生していそうなので、過去6年に限定して、結果を確認してみる。


集計結果は、予想していたのとは全然違っていた。


乳幼児が死亡するケースが極めて多かった。これは例年、死亡者全体の1/4を占めている。

日本基準で考えているからだろうが、私は異常としか感じられなかった。


全体の1/4が事故や魔物による怪我が原因の死亡。

こちらは、この世界で成人と言われる15歳以上が多い。


成人の病死は、全体の1/12も無かった。そして、魔物の被害で死亡している人は1/12程度だった。


そして、残りは、70歳以上で死亡している。


つまり、乳幼児を生き残り、事故に合わなかった人の、半数以上の死亡原因が老衰なのだ。


病気って、無いんだろうか。


病死で原因が判っているものの記述に腫れ物や、できものの記述が多い。


これは癌かもしれないけど……。


地球基準で言うと、かなり不思議な状況だ。死に至る病気があまり無い?


それ自体は良い事なのだけど、何故だろう?


病気に罹る原因には、様々なものがある。


感染症によるものもあれば、生活習慣によるものもある。


地球では、生活習慣に起因する病気が問題になっていた。


高血圧とか、糖尿病とか、血栓症とか。


ただ、この世界の人達の生活は、朝日が昇ると動き出して、日が沈んで、それほど経たずに寝る。


物を運んだり、移動したりするのは、ほぼ全て人力だ。


文官さん達も、馬を使うけど駆けずり回っている。


体を動かすことが多い。


生活習慣起因の病気で死ぬ事は少ないのだろう。


あとは、感染症だ。


感染症は、細菌やウィルスが体内で繁殖して、様々な不全が起きる。


大分前に、中国から広まったウィルスで、沢山の人が死んだ。


肺炎になった人も多かった。インフルエンザで死ぬ人も多い。

致死性の高いエボラ出血熱とか、テング熱とか、コレラ、ペスト、……。


これらは皆感染症だ。


癌になる感染症もあったな、肝炎ウィルスで、病気が悪化すると、肝癌になったりする。

これらに共通することは、沢山の人が感染して、沢山の人が死んでしまうこと。


ただ、そんなデータが、見当らない。


この世界の人は、免疫系が化け物じみて強いのだろうか……?

いや、乳児の死亡率がものすごく高いから、そうとも言えないのか……?


なんだか、モヤモヤする。一体この状況は何なんだろう。

地球と比較するから変に思うんだけど、ここは地球じゃないから。こういうものだということなんだけど……。


結果をアイルに伝えてみた。


『不思議だね。でも、ここ地球じゃないし。生物系の事は、オレ殆ど解らないからなぁ。』


あのね。こんな事を相談できるのアイルしか居ないのよ。

少しは親身に考えてくれても良いと思うんだけど。


仕方が無いので、病気になったときに対応をしている人に、話を聞いてみようと思った。


助手さんたちに相談してみた。

この世界で病気になったり怪我をしたら、病人や怪我人を神殿に預ける。


その話を聞いたときに、お祈りで病気を直すのかと思ったのだが、どうやら違うらしい。


神殿には、病気の人や怪我人のための療養施設があって、修道士の人たちが、病気の人の看護をする。


そして、家族の人達と病気が治ることを神に祈る。


……やっぱり、祈るんじゃないか?


治療って何をするのか聞いたら、病気になったことが無いので分らないと言われた。

そうだね、統計的に見ても、病気になる事は殆んど無いよね。


うん、知ってたよ。


助手のビアさんが、昔、神殿で修道士をしていて、今は文官をしている人を知っていた。


興味本位で、何故、修道士の人が、今文官をしているのか聞いてみた。

結婚して子供が何人も出来たので、神殿勤めを辞めて、文官になったらしい。


神殿の修道士は、清貧をモットーにしていて、給金は少なく、家族で暮すのが大変になってきたこと。今、アトラス領では、文官を大募集しているため給金が上りまくっていた。

主に経済的な理由で、転職したんだって。


ビアさんにお願いして、その文官の人と会うことになった。


私が呼んでいると聞いて、嬉しそうにやってきた人は、温和な感じのオバチャンだった。


えっ、説明の流れだと、男性だと思っていたんだけど、違うんだ。


このオバチャンは、バンビーナさんと言って、半年前までは、神殿で修道士として勤めていた。


「ニケ様と御会いできるなんて、嬉しくて。上司もニケ様のお役に立てるんだったら、今の仕事はしなくても良いと言ってくれました。」


あっ、そうなんだ。色々吃驚だよ。


「ところで、神殿ではどういった事をしていたんですか?」


「主に、病気になった赤ん坊のお世話をしていたんです。

でも、なかなか神に願いが届かず、亡くなってしまう子が多くて……。

気落ちすることばかりで。」


そう悲し気に話すバンビーナさん。大変な思いをしたんだろうなぁ。

しっかし!ドンピシャだよ。


「それは、大変でしたね。ご苦労も多かったんでしょうね。

ところで、病気になった幼児には、どんな治療をしていたんですか?」


「大体は、高熱を出していましたので、体を水で冷ましたり、少しでも食べやすい食事としてスープを与えたりしていました。あとは、ひたすら神に祈るのです。」


そう言えば、この世界に薬というものは有るのか?


「病気の人に特別なものを与えたりはしないのでしょうか?」


「いえ、特にこれといったものは、ただ、幼い赤子なので、母親から乳を貰ったり、固形物が無いように、スープをよく煮込んでして与えていました。

それでも、熱の所為か、体調の所為か、段々食が細くなっていって、大抵は衰弱して死んでしまいます。

なかなか、命を救うことは難しいです。

祈りの無い日はありませんでした。」


そうか、薬はどうやら無いんだな。生薬とかあれば、命に関わるんだから、飲ませるよね。

ということは、体温管理と、あとは、お祈りか。

お祈りが病状改善に役立つとは思えないけれど、必死なんだろうな。


それから、看護のしかたなどの詳細を聞いていった。衛生知識は有るみたいだ。

うーん。グルムさんに、頼んで助手さんに採用したいな。


とにかく、幼児の死亡率を何とかしたいよね。


折角、大変な思いをして生まれてきて、すぐに死んでしまうなんて、悲しすぎる。


私も最近生れたばかりだ。


いやぁ、今にして思えば、大怪我をしてしまったんじゃないかと思うぐらい辛かった。

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