57.ギルド
アウドおじさんから、相談が有ると言われて呼び出された。
その時は、三十四番目の探索チームが帰ってきて、その分析をしていた。
探索チームが持ってきてくれる鉱物の分析には随分と慣れてきた。
大量の鉱石も、半日もあれば、成分分析が終る。
アトラス領は、金属資源の宝庫だ。殆どの金属元素が手に入っている。
今回の場所は、白金族元素が多量に見付かっている。
有機合成をするときに、触媒になってくれるだろう。
ウラニウムについては、保留のままだ。
鉛の容器の中で、大人しくしていてくれ。
アイルとアウドおじさんの執務室に行く。
グルムおじさんは居そうな気がしていたのだが、お父さんも居た。
何事だろうか。
色々話を聞いていると、最近移民が多くなって、人口が増えるのは良いのだが、対応が十分には出来ていない。
犯罪も多くなってきている。
どうやら原因は、私達が開発した物品が人を引き寄せている。
うーん。責任の一端は、私にもあるのか……。
グルムおじさんの話を聞いていて、奇異に感じた。
領民とは?
領地に住んでいる人?
領地に居る人?これは違うよね。旅人も居るんだろうから。
区別が出来ているんだろうか。
領民かそうでない人かの区別は、人繋りだったよ。吃驚だ。
記録とか、台帳とかそんなものは無い世界なんだ。
木簡しか記録媒体が無いんだったら、2万人の人口でも凄いボリュームになるよな。
とりあえず、領民の台帳を作成することを勧めてみた。
これまで、そういった記録をしようとかは思いもしなかったみたいだ。
そりゃ木簡に書いて保管しておくのも大変だっただろう。変色すると読めなくなるらしいし。
今は、紙があるんだから、台帳を作ろうよ。
今迄どうやって徴税していたのかを聞くと、人伝で文官の人達が駆けずり回っていた。
うーん。何重にも手間がかかりそうだ。
住民台帳みたいな領民台帳は、領地の人の把握だから、領主館の文官さんたちが作るのは良い。
だけど、商取引なんかは、あまり領地で関わるのも、どうなんだろう。
そんなの、専門機関を作ってやってもらえば……。
そうだ、ギルドだ。
異世界転生物語の常套句。「冒険者ギルド!!!」あっ。この世界には冒険者は居ないか。
でも、商業ギルドとか、工房ギルドとか。
有っても良いかもしれない。
商業ギルドは、商店や商取引、商人の管理。
工房ギルドは、工房や製造依頼、職人の管理。
どうだろ。提案してみよう。
「そして、『ギルド』を作りましょう。」
「ん?ニケ。『ギルド』って何だ?」とアウドおじさんに聞かれた。
唐突だったな。失敗。失敗。
「えーと、領民は、商業活動をするか、職人か、農業や漁業をやって生活してるんですよね。」
「まあ、そうだな。」
「商取引は、契約を交すじゃないですか。その契約を管理するのが商業ギルド。
製造依頼は、やはり、工房と契約書を交すじゃないですか。その契約を管理するのが工房ギルド。
そして、商店や工房は、領民台帳に載っている人でなければ領内で設立できないようにするんです。それも各ギルドが管理します。
商店や工房は、従業員を雇うじゃないですか。それも領民台帳に載っている人でなければ領内で働けないようにするんです。その管理も各ギルドが行ないます。」
「契約書を管理するのか?」
「ええ。そうです。
そもそも、商店や工房の利益は、どうやって把握しているんです?」
「それは、文官が、各商店や工房に行って、商売の状況を調べる。
契約書は、流石に領地で関与することはできない。」とグルムおじさんが言う。
「でも、契約書の所在が分かっていれば課税金額の裏付けになりますよね。課税額が多すぎたり、少なすぎたりするのを避けられるでしょ。
領主館で出来ないんだったら、別な組織を作れば良いんですよ。
そこでは、商取引の相談や工房のお客さんの紹介なんかをしても良いでしょう。
契約の際には、ギルドの職員が立ち会う。そうすれば、契約の不履行や揉め事が起こったときに仲裁に入れますよね。」
「なるほど、第三者が関与することで、不当な契約を未然に防げて、契約の揉め事にも適切な判断が出来るのか。
そして、そのギルドでは、商売の斡旋もする。
良さそうだな。」
「いいでしょ。いいでしょ。
そして、他領から移ってきた人に、商店の商人や、工房の職人さんの斡旋をしても良いだろうし。」
グルムさんは乗り気になったみたいだ。大商店や、大工房から人を出してもらって、お互いに牽制するようにすれば、どこかだけが不当に利益を上げることも無くなるだろう。
色々相談をして、商業ギルドと、工房ギルドが立ち上がることになった。
ふふふ。ギルドだよ。ギルド。うーん異世界転生物の王道じゃない。
そのまま、領民台帳を含めて、細部を詰めていった。
・領地に居住する人は、領民として領民台帳に登録をする。
・領地の商店や個人営業は、商業ギルドが管理して、商業ギルドに登録する。
・領地の工房は、工房ギルドが管理して、工房ギルドに登録する。
・領民台帳に登録していない者は、商店、個人営業主、工房を設立できない。
・領民台帳に登録していない者は、領地内の商店、個人営業、工房として働けない。
・領民台帳に登録していない者は、領内で両替が出来ない。両替する場合は商業ギルドで許可証をもらう。
他領から入ってきた商人については、
・領民台帳に登録するか、商業ギルドの許可証を持たない者は、領内で商売できない。
・領内産の物品の売買契約は、商業ギルドが立ち会う。
・各商店の商人との雇用契約には、商業ギルドが立ち会う。
職を探しに入ってきた職人希望者は、
・領民台帳に登録した上で、工房ギルドに登録する。
・工房ギルドは、職の斡旋をするとともに、雇用契約に立ち会う。
概要はこんなものだ。
他には、商店で働く人や工房で働く人の手当は源泉徴収にする。契約書の取り交しついては、契約の金額に応じた手数料を徴収する。
といったこと等があるけど……。
詳細は忘れた。
あとは、文官の人達がどうにかしてくれるんだろう。
私の仕事じゃぁないよね。
アウドおじさんや、お父さん、グルムおじさんは、満足したみたい。
早速、詳細を文官で詰めて、布告することになった。
領民台帳を作るのは大変だけど、一旦作ってしまったら、後は、増減の管理で済むからね。
これから、領地を回って、家族の年齢や構成を聞いてまわるんだよね。大変だ。
文官の人達、頑張れ。
そう思ってエールを送っていたときに、思い付いた。
領地の家族を調べるんだったら、ちょっと手間が増えるけど、絶対必要なことだ。
「あっ。領民台帳を作るときにお願いがあるんですけど。
これまでに、家族で亡くなった人が居たら、死因を調べて欲しいんです。
生れて、直ぐに病気で死んだとか、事故で死んだとか、病気で死んだとか、老衰で死んだとか簡単なもので良いんです。
死亡した時の年齢と、死んだ原因を調べてもらえませんか。」
「ニケ。そんな事を調べてどうするんだ?」とアウドおじさん。
「『疫学』調査をします。
死因に病気が多かったら、何の病気か調べて、防ぐ方法を考えないとならないですし。
事故で死ぬ人が多かったら、危険な事が多いってことでしょ。安全対策しなきゃダメですよね。
みんな老衰で死ぬんだったら、まあ、これは仕方が無いというか何というか……。
栄養の偏りがあっても早死にしたりもしますから、幾つで死んだかっていうのもが大事ですね。
これからは、死亡したときに、領民台帳に記載されるから、これからの事は分るんですけど、これまでの事は、分らないじゃないですか。
この調査は、安全で健康的な領地を目指すのにとても大切です。
せっかく、各家庭を訪問して、聴取するんだったら、いっしょに聞いておけば、手間が省けます。
今後の領地の運営に役立ちますよ。」
「神の国では、そんな事もしていたのか?」
「ええ、私達の国は、その世界の中でも長寿で有名な国だったんです。
平均寿命は80歳を越えていて、100歳まで生きている人はかなりの人数居ましたから。」
「そうそう、人生100年時代なんて言われていたね。」とアイル。
「ふーむ。グルム。領民台帳の調査の時に一緒にやってみてもらえないか。」
「ええ、分りました。それで、その『疫学』調査はどうやるんです?」
「いろいろ計算しないとならないのですけど、その調査をするときに文官の人を付けてもらえますか?
そうすれば、後は、その人たちで、やっていくことができると思いますよ。」
それから、文官の人たちで、領民台帳やギルドについての詳細を決めていったらしい。
何度か、商店の店主や工房の親方が呼ばれていたみたいだ。
しばらくして、領民台帳の作成が始まって、各ギルドが設立された。




