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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり 1
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55.領都マリムの変貌

アトラス領は、空前の活況を呈している。


宰相の儂としては、税収が上り、嬉しい限りだ。


2年前までは、農民に税の優遇策を取っても、人口は増えなかった。

なかなか税収が上がらず悩んでいた。


そして、度々出没する魔物だ。魔物に対処するために、騎士を増やしたくても金が無かった。


人的被害は甚大で、毎年60人以上の領民が命を落とした。

先代の領主のアドル様と騎士団長のサムラ様が魔物との戦いで命を落されたときには、目の前が真っ暗になった。


領地の跡を継ぐために、宰相補佐をしていたアウド様と王国近衛騎士団の副団長をされていたソド殿が戻られた。経営基盤が脆弱で、魔物の出没頻度の高い領地にお二人とも苦労された。

人口を増やすためと農民への優遇策を取られたのもアウド様が戻られてからだ。


この時、何よりも驚いたのは、アウド様の奥様は、ガラリア国王宰相オルムート・ゼオン様の娘のフローラ様。

ソド殿の奥様は、ガラリア国王近衛騎士団長のシアオ・サンドル様の一人娘のユリア様だった。


このお二人は、先代の不幸が無ければ、王国を動かす人材として名を馳せたのだろう。なんとも残念なことだ。


ただ、このお二人の奥方さまのお陰で、王国中央との間に太い繋りができた。

これまで、忘れ去られてしまったような辺境の領地が少しずつ変わると思っていた。

ただ、中々上手くは回らない。


周辺の領地からは、領地は伯爵並なのに領地の力は男爵並の子爵とか、辺境の田舎子爵と言われて、何かと低く見られている。

ひとえに、農業と漁業しか取り柄がなく、金の無い弱小領地という状況からは抜け出せなかった所為だ。


しかし、それも、これからは変わる。

年1回開かれる東部宰相会議では、もう、他領の宰相達に好き勝手なことは言わせない。


領地が好転したのは、あの「新たな神々の戦い」の時に生れた二人の子供のお陰だ。


大層利発なお子が生まれたと聞いたときには、奥方さま方の血統とご指導の賜物だと思っていた。

しかし、お二人は、信じられないことに、神の国の知識を持っていた。


1年ちょっと前に、アイル様とニケ様からソロバンを見せられたときには、驚いたものだ。ただ、驚きは、それに留まらなかった。


たった1年の間に、鉄、木炭、ガラス、釉薬付きの陶器、メガネ、望遠鏡、紙を作り出された。

これらは、全てアトラス領の特産品となり、他領では、目が飛び出るほどの高値で売れている。

このため、領地の税収入は以前のd1000倍を優に越えている。


ニケ様の進言に従って鉱物探索をしたところ、金や銀、銅の鉱床も見付けた。

採掘はこれからだが、この鉱山もアトラス領を繁栄へ導いてくれるに違いない。


お二人が身の上のことを話されたときには、あまりにも荒唐無稽なことで、何も言葉を発することが出来なかった。


お二人は、神の国で暮していて事故に会い、この領地に生まれたと言う。

そして、その神の国の知識を持っていると言われた。


最初はとても信じることなど出来なかった。


しかし、その後、時計、鉄、ガラス、メガネ、望遠鏡、紙と、この世界では有り得ないものを生み出したのだ。

信じる他無い。

そして、このお二人が居るかぎり、この領地は安泰だろう。


あの国宝になっているガラスの容器も、この領地では普通に使われている。

今や、僅かに残っている過去のガラス製の物品は、骨董的価値しかない。


少しでも安く手に入れようと、周辺の領地や王都の商人たちが頻繁にやってくる。支店を出した商店もある。


派生して生まれたメガネは、老齢にさしかかった者たちの救いの神だった。

かつては、40歳になると引退するしかなかった者たちが生き生きと働いている。

再雇用された文官達も居る。

懐しい顔が見られるようになった。


鉄の武具の威力は、凄まじいものだ。昨年は、魔物の被害は激減した。騎士たちが怪我をすることもない。


鉄の農具が普及したことで、固くなった土地を耕すために領主様が頻繁に地方に出ていかなくても済むようになった。


紙の生産も始まった。最初にコンビナートを見たときには、絶句するしかなかった。銀色に光輝くタンク、自動で動く工場、生産される紙。

これが神の国の知識なのだと圧倒された。


そして、お二人の素晴らしいことは、これらの産物を全て領民の手で作れるようにしてくださることだ。

最初は魔法で生み出したものが、僅かな間に、領民の手で生み出せるようになる。


そして木炭。


木炭は、鉄、ガラス、高級な陶器、紙を生産するために大量に消費されている。

ニケ様の指導で、原料の薪の木を切り倒したら、かならず植林することが定められている。

そのため、原料のために森林が荒らされることもない。


家族の大黒柱だった夫を事故などで失なってしまった寡婦、家族を事故で失なってしまった老人。

そういった者たちを援助する方法がこれまで無かった。

アトラス領から融資を受けて木炭の生産を始めれば、そういった者たちも、食べるのに困ることはない。


時計とか、重量計とか複雑すぎて、とても領民の手に負えないものもある。しかし、それらも、領民の生活を支えてくれている。

数字や、長さと重さの単位を定めたことで、領内の商取引には不正が根絶した。誤魔化しが効かなくなったのだ。


あの口うるさいだけの神殿も感謝してきた。

これまで、天気の悪い日に鐘を鳴らすのに苦労していたのだろう。

時計を破格の値段で売ってやったら、彼らの口も閉ざされるようになった。


良いことだ。


職人たちも、新しい道具や素材をそのまま使うのではなく、自分たちで工夫し始めた。この領地では、新しいものが次々と生まれている。


紙を白くするために使っている薬品を布に使うことで、輝くような白い布が生まれた。これも、アトラス領でなければ作れないものだ。高額で取り引きされている。


ただ、良いことばかりではない。


これまで、何をしても、増えなかった人口が急速に増えている。


途切れることなく、仕事が生み出され、利益が生み出される領地。

そんな場所には人が集まるものだ。


職人になるつもりで移り住む者、新しい製品を商うために集ってくる商人。

食いはぐれて流れてくる移民たち。


木炭を生産しさえすれば食い逸れることは無いという噂が近隣の領地に流れているらしい。

確かに木炭の生産は、今でも手が足りない。幾らでも手が欲しいのだが……。

居住場所が無く、襤褸家ぼろやで生活する者も多いと聞く。


かつて、2万人ほどで、変わることのなかった領都の人口が、今ではその倍に増えている。


部下の文官達も努力しているのだが、対応が追いつかない。


利益を上げた商人たちの商売の把握が出来ない

所得隠しによる、見えない脱税や、雇用者からの搾取。


まだ、こういった、ものは良い。


警務団の出動件数が増えた。

警務団長のエンゾは、忙しくしている。

警護団が忙しいのは、文官が忙しいのとは訳が違う。


人口が増えるとともに、犯罪も増えているのだ。


窃盗や傷害の被害に会う領民が毎日のように報告される。

以前のアトラス領は平和そのものだった。

人が増えるということは、悪意を持った者たちを呼び寄せることに繋がっているのだろう。


領地の運営方法を根本的に変えないと、更に状況は悪化してしまう。

今の段階で、有効な手を打たなければならない。


何度も、アウド様やソド殿と相談をしている。

しかし、これと言った有効な手立てが無い。


最近になって、カイロスをアイル様とニケ様のお二人に付けた日に、カイロスが言っていたことを思い出した。


お二人は、王国が貨幣を鋳造するときに、量を調整することを知っていた。


もしかすると、お二人は、モノを作り出すだけではなく、施政方面の知識もあるのではないだろうか。

モノを生み出すことに驚き過ぎて、忘れていた。


アウド様たちに相談して、お二人の意見を聞いてみた方が良いのではないか。

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