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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり 1
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53.メクシート

ようやく天体望遠鏡が出来上がった。


赤道儀式なので、正確に天の北極に軸が合っていないとならない。


天の北極近傍には、あまり明い星が無いため、苦労した。

惑星ガイアの地軸の延長線上には、地球の北極星のような星は無い。


星図を見て、おおまかな位置合わせをして、星の運行状態で微修正を掛けていった。

先に作った屈折式望遠鏡より視野角が小さいので、時間がかかった。


今日から本格的に観測をする。


領都は晴れることが多い。天体観測にはとても適した環境だ。

季節によっては雨が続くこともあるのだが、今は雨の季節まで少しある。


完成した天体望遠鏡で最初に観測するのは、オレやニケが超新星爆発の跡だと思っている星雲だ。


この世界では、もともと有った、メクシートという星が、「神々の戦い」で壊れて雲になっていると信じられている。


この星雲が実際どういったものなのか、確認したい。


今のところ、惑星ガイアが地球と同じ宇宙に無いという明確な証拠は無い。

地球と異なっている点は、魔法とニケが発見した同位体比率の異常ぐらいだ。


魔法なんてものが何故あるのかは皆目分らないが、同位体比率の異常は、超新星爆発の所為だとすれば合点がいく。

星雲が、超新星爆発で無かったとしたら、再度考え直す必要がある。


今日からしばらく夜更かしをすると両親に伝えた。


夜更かしなんてとんでもないと言う両親と押し問答の末、8時6刻には家に帰ってきて寝ることを約束させられた。


地球の時刻では、21時か。


まだ、幼児なので仕方が無い。


寝る子は育つだな。

早く大きくなりたいもんだ。


夕食を食べてから、天文台に向う。侍女さんや騎士さんが同行する。


ニケを誘ったのだが、眠いと言って、自分の部屋に戻ってしまった。

最近は、根を詰めて調査している事があるようだ。


ウィリッテさんは同行してくれた。カイロスさんは、家に帰っている。


天文台に着くと、助手さんたちが準備をしてくれていた。

早速、メクシート本体があると思われる星域に望遠鏡を向ける。


爆発の中心と思われる場所には、何も無かった。


一応想定通りだ。


超新星爆発は、完全な対称に爆発はしないので、爆発圧力で中心星は移動することが多い。


中心と思われる場所に恒星の核なんかが見付かると、それは、この惑星系の軸線上を移動していることになる。


離れていってくれてたり、静止してくれていたりすれば良いが、近付いている場合には、いつか大変なことになるかもしれない。


少しずつ範囲を広げて、周辺を見ていく。


中心から経度でプラス0時0刻20分、緯度でマイナス0時0刻15分離れた場所に、重力レンズ効果によると思われる光の輪が見えた。


中央付近に、ぼんやりとしたものが見える。何かが光っているんだろうか。光の強度がとても早く変動している。


ぼんやりと見えているのが巨大な降着円盤だろうか。

解像度を考えると、見えているのかどうかは何とも言えない。


両極が僅かながら明るく光っている。


光の強度が変動しているのは、ブラックホールの自転が歳差運動していることによるジェットの方向の変化かもしれない。

そうであれば、前世で見たブラックホールの模式図として良く見た構造だろう。


中心部分にブラックホールがあると考えても良さそうだ。

初めてブラックホールを目視した人類になったな。


地球だったら大騒ぎだ。この世界ではほぼ無価値なのだが……。


とりあえず、このブラックホールを、この世界で爆発してしまった惑星の名前であるメクシートと名付けることにした。


周辺の星域を見ると、小さな恒星が生れつつあるように見える。


距離を測ることができないので、背景にある星々なのかもしれないが、ぼんやりと光っているところを見ると、まだ本格的に核融合反応が開始していないと思える。


これらが、新しい恒星だとすると、相当大きな赤色巨星だった可能性がある。


助手さんたちには、このブラックホールと思われるものと、周辺のぼんやりした恒星の経緯度観察を継続して実施してもらうことを依頼した。


半年経つと、惑星ガイアは、太陽の反対側に移動する。

ブラックホールまでの距離と、もし移動が確認できたら、その方向と速度の概略ぐらいは計算できるだろう。


周辺の恒星の位置の移動で、どのぐらい前に超新星爆発が発生したか解ると良いのだが。


これは、数年かかるかもしれない。


一人でひとしきり観測してから、ウィリッテさんたちに、今見たものを見てもらう。


「これは、メクシートが砕け散った場所ですよね?

なぜ、何も無い、こんな場所を見ているのですか?」


巨大な反射望遠鏡に付随してあるファインダーを覗いていたウィリッテさんが言う。

肉眼では、爆発の残滓の中央部分は、暗く、何も無いように見える。


「何も無いと思いますか?

実は興味深いものが見えるんですよ。」


そう言ってからウィリッテさんに反射望遠鏡で同じ場所を見せて、焦点を合わせてもらう。


「あら?ぼんやりした輪が見えますね。」


「そうです。肉眼では到底見ることは無理です。この大きさの望遠鏡じゃないと見えないものです。」


「そうなんですね。この場所にはもう何も残っていないんだと思っていました。」


「ところで、メクシートは砕け散る前は、どんな星だったのでしょう?」


「神々の戦いの前のことですよね……。

日が沈むときの西の空や日の出前の東の空に明るく輝いていたらしいです。

それ以上は……。

ヴィナとメクシートは太陽神に従う神の星と言い伝えられています。」


うーん。そうすると、内惑星ということになるのだが。

元々のメクシートは何処に行ってしまったんだ?


「星の色とかそういった情報は残っていないのでしょうか?」


「さあ。残念ながら、聞いたことは無いですね。」


もし、仮に、赤色巨星が「神々の戦い」の時に超新星爆発したとして、他の民族が全て居なくなってしまうのは良い。

ただ、今、ここにいる人類が生き残る理由が……。


核シェルターみたいなところに入っていたんだろうか……。


魔物は、地球の生物と全く異なっている。

ニケに言わせると、魔物は地球外生命体の可能性が有るらしい。


魔物が生き残っているんだったら、人類が生き残っていても良いのか?


それで、メクシートが消滅?うーん想定できるシナリオが無いな。

最初に超新星爆発で到達するのは、強力な光線、つまりγ線のはず。β線や陽子線なんかは、後でやってくるだろう。


仮にメクシートが巨大な水か氷の惑星だったとしたら、蒸発して消滅するという事も有るのかもしれない。


しかしそんな状況なら、惑星ガイアの海も消滅するかもしれない。


一つの惑星規模の水塊が蒸散してしまうほどの強力な光線が降り注いだら、大気温度が上ってしまって、人類が生きている訳がない。


そうすると、この超新星爆発の星雲は以前から有ったことになる。

メクシートは別な理由で消滅。


水惑星だったりすると、何かの理由で消えて無くなってしまうことが有ったりするのかね……。

でも、そうなると、伝承でメクシートがあの超新星爆発の残骸と結びつくことは無いだろう。


何だか良く分らない。


はっきりしていることは、


メクシートが破壊されたと言われている星雲は、多分、かなり大きな赤色巨星が超新星爆発した。


多分、それは「神々の戦い」の時期では無いだろう。


メクシートは、理由が分らないが消えて無くなっている。


観測を続けていくと、超新星爆発の時期やこの恒星系との距離も解ってくるだろう。それからだな。


とりあえずは、重力定数を調べながら、この恒星系の全体像を把握することにしよう。


「でも、不思議ですね。この道具で、星々の細かなところまで見えるんですね。」とウィリッテさん。


ウィリッテさんには、オレ達の来歴は伝えてある。


「そうです。そして、星を観測することで、この世界がどうなっているのか解ってくるんです。」


「そういえば、アイルさんは、この世界の事が知りたいと仰ってましたね。それで、天文台を作ったんですね。」


「ウィリッテさん。

今回、観測した結果で解ることを教えますね。

これも神殿の教義とは合わないと思われますので、ここだけの話にしてください。

あの、爆発した跡というのは、メクシートが爆発した跡では無いですね。

何か別のものが爆発した跡です。

それもとんでもなく遠くにあった星です。」


「観測することで、そんな事まで解るんですか。

他に何か解ったことはあるんですか?」


「これから、観測を続けていけば、何時爆発したのかとか、どこで爆発したのかが解るかもしれませんが、今はここまでですね。」


「そうですか、何かまた解ったことがあったら教えてくださいね。」


ウィリッテさんは、そう言うと柔やかに微笑んだ。


そろそろ帰らなきゃならない時間だ。


助手さんたちに、観測をお願いして帰宅することにする。


助手さんたちが頑張ってくれていて、約d200個の星の位置の測定が終り、今は2順目の測定になっている。


新たな惑星が見付かれば良いのだが……。


部屋に戻って、風呂に入りながら考える。


ごく近傍で超新星爆発が発生して、惑星ガイアに生命がある理由は何だろうか。


あの超新星爆発の場所が何百光年も離れている場合や、超新星爆発の後で、この恒星系が生まれた場合。

この場合には生命が存在する事自体は、超新星爆発と関係がない。


ただ、周りの異教徒が全て居なくなってしまった理由が別に必要だ。

そして、同位体の比率異常は、説明が付かなくなってしまう。


他の可能性は、地球から惑星ガイアに人や動植物が移住してきた場合だ。


もし、そうだったとしても、天の川の側にあるはずの恒星が全然見えないのだから、惑星ガイアは地球からはとんでも無く離れている。


遥か未来の地球人類が、高度な科学技術を持ってこの惑星に地球から移住したというのが唯一の可能性だろう。


しかし、その人々の末裔が、何故青銅器文明まっただ中なんだろう。


先日、この世界の人々の宇宙観を聞いたが、天動説だった。地動説はガラス同様に失伝してしまったのだろうか。


先日ニケから、不思議な話を教えてもらった。


ニケに言わせると、ここに住んでいる人、生育している動物、海洋生物、植物は、地球のものと酷似している。


気になって、生体内のタンパク質のアミノ酸構成を調べてみたらしい。

その結果は、地球のものと完全に一致していた。


自然に発生して、ここまで完全に一致することは、確率的に有り得ない。


オレもそう思う。


謎だらけだ。


平行宇宙論という説がある。


有名なのは、量子論的な収束が発生する際に、宇宙が分裂していくというものだ。あまりにも荒唐無稽に思えて信じることはできなかった。分裂するときの物やエネルギーは一体どこから来るのだ。


ただ、今の状況を見ると、そんな平行宇宙の一つに囚われているということも有るのかもしれない。


分裂する平行宇宙の説以外の説もある。宇宙が始まったときに、壮大なインフレーションが発生した。

宇宙が発生したときのインフレーションは凄まじく、あっという間に空間は拡大していった。

我々の宇宙は、事象の境界線の内側だ。

ビッグバンの時に発生した光が届くほど距離より先に広がっている宇宙は知ることができない。


実際の宇宙は、我々が知っている広大な宇宙とは比較にならない程広い。

そもそも有限かどうかすら分らない。


そしてその広大な宇宙の中には、我々の宇宙と全く同じ宇宙が多数存在している。

確率的にほとんどゼロでもゼロでなければ、あまりに広大な宇宙が前提になればそういうこともあるという説だ。


どっちの平行宇宙も、不可知論的なことだ。証明することはできない。

こんな説に乗っかるのは、考えることを放棄しているのと同義だ。


事実を積み上げて現状を理解して、証拠を探して、何か合理的な理由を掴むべきだろう。


色々調べると謎が増えていく。

仕方が無い。


そんなものだ。


そのうちスッキリとした回答が得られるだろうさ。


とりあえず、超新星爆発の残骸の中にブラックホールらしいものが見付かった。


やはり、同位体異常は、超新星爆発による放射線の影響だったんだろう。


魔法があること。地球の動植物が地球外に居ること。


これらが謎の大きなものだな。

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