2.ニーケー・グラナラ(ニケ)
頭と肺に激しい痛みを感じて、思わず叫んでしまった。
声が上手く出ない。目も良く見えない。音も良く聞こえない。体も上手く動かない。
やけにミルク臭い流動食を与えられた。なんとなくホッとして、気を失なった。
何か臭いなと思ったら、漏らしてしまったらしい。足を持ち上げられて、処置された。
目はよく見えず、体は相変わらず上手く動かない。綺麗にしてもらって安心したら、また気を失なった。
何度も流動食を与えられて、何度もシモの世話をされて、周辺は明くなったり暗くなったりしている。しょっちゅう気を失なって、うつらうつらと過している。
私はどうなってしまったのだろう。恭平の装置の試運転に付き合っていて、まわりが光ったと思った後は、良く分らない。
きっと大怪我をしているのだろう。
恭平はどうしているのだろう。助かったのだろうか。
まあ、私は生きているみたいだから、体が治るまで待つしかないな。
どのくらいの時間が経ったのか分らないが、だんだん目が見えてきた。まだ、遠くに焦点を合わせることができない。
近くしか見えない。耳も少しずつ音を判別し始めた。
抱き上げられたと思ったら、眼前に豊満な裸の胸がせまってきて、乳首を咥えさせられた。
流動食だと思っていたのは、母乳だったようだ。少しショックを受けたが、お腹が空いていたので、有り難く頂くことにする。
手を見ると、大人の手ではなく、赤ん坊のようなプクプクとした手だ。
母乳を頂いているときに何か話し掛けられたようだが、少くとも日本語ではないようだ。
母乳をくれた女性は、とても綺麗な顔立ちをしていた。
時々やってきては、私を抱き上げる男性の顔は、とてもハンサムだった。
判明していることは、「私は赤ん坊であること」と「ここは日本ではないこと」以上!。
チンプンカンブンだよ。
あ、あと両親がとてもハンサムなので、私は将来きっと美人になるだろうということ。
あの時、何かとんでもない事が起こって、私は生まれ変わったのだろうか。
でも、何故、生まれ変わる前の記憶があるのだろう。
何がなんだか全く分らない。
しばらく、気を失なったり、覚醒したりして過す。
何がなにやら分らないことは変わらない。
体が赤ん坊なので何もできない。
周りの人達が話していることにひたすら耳を傾けていると、きまった単語が聞こえる。
「ニーケー」とか「ニケ」というのがそれなのだが、どうやらこれは私の名前らしいな。
何も反応しないでいると、ひたすら連呼されるので、この単語が出てきたら微笑み返してあげることにする。なんか喜んでいるので、対応としては良いのだろう。
こういう場合に出てくる言葉としては、「名前が判るのかしら」とかなので、そんな事を知らない言葉で話しているのだろう。
私が話声に耳を傾けているのに気付いた女性が、何かを持ってきては物の名前を教えてくれた。ありがたいことだ。
そんな生活をしばらく続けていて、話の内容が少しずつ判ってきた。
いやー、子供の脳細胞は素晴しい対応力がある。
ただ、まだ話すことができない。舌が上手く動かないのと、声帯が上手く使えない。
それでも、何とか発音を真似て、「ここはどこ?」と聞いたら、大騒ぎになっていたな。
答は分らずじまいだったよ。
首回りが丈夫になってきて、寝返りが打てる状態になった。体の筋肉が少しだけど思い通りに動く。
この頃には、「おしっこがでそう」とか「うんちがでそう」とか言うと、オマルを持ってきてくれた。でも、大切なところを拭き清めるのは無理だった。それでもあの羞恥心ズタボロの日々は少し解消されつつあった。