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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり 1
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46.四元素

今日は、昨日の続きだ。


アイルに、眼鏡の製造方法の作業がどのぐらい掛かるのかを聞いてみた。

材料が届くのに、あと何日もかかる。その後、製造指導にどのぐらいかかるか分らないと言っていた。

あと2週間は、アイルの手を借りるのはムリそうだな。


じゃあ、手伝いの人と助手さんに、薬品と化学反応に必要な知識の教育かな。


助手さん達は、これまで鉱石の調査を手伝ってもらっているので、鉱石に含まれていた元素についての知識はある。

ただし、鉱石から元素を魔法で抽出して、即座に安定で安全な化合物に変換していた。

そんな訳で、化学薬品を使った化学反応を実際に行なったことがない。


「じゃあ、昨日纏めたお復習さらいから始めましょうか。

植物の繊維を水洗したら、細かく切り刻んで、ゴミを取ります。

ゴミを取り除いた繊維は、『水酸化ナトリウム』を溶かしたお湯の中で煮込みます。

『水酸化ナトリウム』は、『化学式』ではNaOHと表わされます。『水酸化ナトリウム』は、金属『ナトリウム』と水が『反応』して……。」


黒板に、記号や言葉を書いて説明していく。説明の時に出てきた物質は、魔法で実際に眼前に出して見せていく。


安全なものならば、実際に触らせる。危険なものは、注意を伝えたりする。


昨日概略検討を行なった結果を踏まえて、濃度をどうするのか、どういった操作が有効だったのか、どうしてそういう判断になるのかを伝えていく。


助手さんも、お手伝いの人達も真剣だ。説明すると質問が出てくるので、質問に丁寧に答えていく。


特に危ない化学薬品については、どう危険なのか、危険を避けるための対応をどうするのかを説明していく。


みんな、紙にペンでメモを取っている。紙をこの世界で具体的に有効使用した初めての例かもしれないね。


ウィリッテさんは、昨日の質問のこともあって、かなり真剣に聞いている。


途中、昼食を挟んで、昨日のお復習いだけで、1日が終った。

昼食は、餃子のようなものが出てきた。お手伝いの人達は、嬉しそうに食べていた。


助手さんとお手伝いの人が帰った後、私とウィリッテさん、カイロスさんが実験室に残った。


昨日、帰りがけに話をした、分離の魔法がウィリッテさんが使えるかを確認するためだ。


海水を桶に汲んで侍女さんに持って来てもらう。


その間に、ウィリッテさんに『塩化ナトリウム』の説明をする。

単に『塩化ナトリウム』と頭の中で唱えたからって、それは思い描いたことにはならない。

塩素原子の構造ー原子核を構成する陽子の数、電子の数。


ナトリウム原子の構造を教える。


それが、立方体頂点に交互に配置されて、無限に続くイメージが必要と伝える。


「こんなに複雑なものをニケさんは思い描いていたのですか?」


「だって、より具体的に思い描くことが必要と言ったのはウィリッテさんじゃないですか。」


「それは、そうですが……。これを思い描くのは、ちょっと大変すぎますね。魔法で分離できるのですから……塩は本当はこんな形をしているのですよね……。」


「ウィリッテさん。これは塩とひとくくりにしたものではなくて、『塩化ナトリウム』です。

塩は、『塩化マグネシウム』、『塩化カルシウム』、『硫酸ナトリウム』などの混合物です。ですから、水を思い描くのとは違って、塩を思い描いても単なる白い粉ですから、海水から分離できないんです。」


「なるほど、そういう理由があったんですね。かなり大変ですが、その『えんかなとりうむ』を思い描いて、魔法を使ってみますね。」


それから、ウィリッテさんは、薄目を開けて瞑想状態になった。かなりイメージを構築するのに苦労しているんだろう。だんだん額や鼻に汗が滲んでくる。

しばらくして、桶の海水の上に白い粉が浮び上ってきた。


ウィリッテさんは、目を見開いて、浮び上ったものをテーブルの上に移動させた。一摘みほどの白い粉がテーブルの上に乗る。


「ニケさん!成功した気がします。この粉は、『えんかなとりうむ』なんですよね?」


「確認してみましょうか。」


そう、私は言って、桶の中から、塩化ナトリウムを取り出す。ウィリッテさんのときとは違って、大量の白い粉が出た。それを、ウィリッテさんが分離した粉と混ざらない場所に置いた。


「確認するには、両方の味が同じかどうか、ちょっとだけ舐めて味で確認すのが良いですよ。毒ではないですから、舐めても大丈夫です。」


それを聞いて、ウィリッテさんは、恐る恐る、両方の塩の山から粉を指先に付けて舐めてみる。

顔がパァと明るくなった。


「ニケさん、同じ味がします。『えんかなとりうむ』を海水から取り出せたんですね。』


「ちなみに、塩化マグネシウムは、別な味がしますよ。」


そう言って、私は、海水から塩化マグネシウムを取り出して、別な場所に置いた。


「これも、毒ではないですから、舐めて見てください」


「苦いですね。苦い塩の味がします。なるほど、違いが分ります。

私、分離の魔法で、海水から水以外のものを取り出すことができたんですね。

ふふふっ。

ありがとうございます、ニケさん。これで、私の魔法使いの格が上がりました。」


ウィリッテさん喜んでいる。よかった。


ん?魔法使いの格?それは何だ?


魔法使いの格について、聞いてみた。四元素魔法を全て使える人は少ない。複合魔法は更に少ない。ウィリッテさんは全て使える。そのため、魔法学校で主席になった。

使える魔法の種類や威力で、級分けがされている。


ウィリッテさんは、10段階の上から2番目の2級魔法使い。


一番上は、かなりの威力の魔法が使えて、非常に使うのが困難な魔法を2種類以上使えることが条件。

伝承魔法は、誰も使えない魔法に属している。特に分離魔法で、海水から水以外の物質を取り出すことは、ここ何千年もの間、誰も成功したことが無い、神話級の魔法だ。

そんな魔法を使えたら、それだけで困難な魔法2種類どころではない。


「私は魔法の威力は十分あるんですけど、使うのが困難だと言われている魔法は遠耳の魔法ぐらいしか使えなかったんですよね。

それで……『えんかなとりうむ』以外のものは、私にも分離できるんでしょうか?」


「それは、イメージできれば可能なのでは?」


そう言って、私は、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウムの結晶構造を黒板に書き出した。


「こっ、これは……。ムリです、こんなの……。」


そう言って、ウィリッテさんは、絶句した。


まあ、そうだろうね。他の物質の結晶は、お世辞にも簡単な構造じゃあない。

硫酸ナトリウムに至っては、硫酸イオンが構造を持っている上に、斜方晶の結晶だ。塩化ナトリウムは、これらと比べると、とってもシンプルだ。


「ニケさんは、これをイメージできるんですか?」


「できるから分離できているんでしょうね。

それに、前世では、こういうことを研究していた『学者』、あっ求道師っていうんでしたっけ。

それでしたから。」


少し誤魔化しもある。最近は、完全な結晶をイメージしないで、化学結合だけで分離が出来ている。私の魔法は、少し進化したのかもしれない。


「アイルさんも、これをイメージすることが出来るんですか?」


「アイルは、別な方面の求道師だったから、ムリらしいです。

逆に、アイルが出来ることは、私は全然ダメなんです。

アイルは、道具の構造とか、運動とか、先刻見せた、『原子』の成り立ちとかの求道師でしたから。分野が違うんです。」


蒸し器を作ろうとして、散々な目に合ったことを思い出してしまった。


「それで、二人は、分担して作業しているんですね。なんか納得しました。」


その時、これまで黙って成り行きを見ていたカイロスさんが口を開いた。


「ウィリッテさんが、分離の魔法を使えたってことは、元素が4つというのは間違いで、ニケさんが書いた、あの表のようになっているってことなんですか?」


そう言いながら、私が書いた周期表を指差す。


「カイロスさん。

それは、ある意味正しくて、ある意味間違っているんだと思います。

私が書いた『元素』は、簡単にこれ以上分割できない、物を構成する元だと考えています。

一方、四元素は、考える方向が違うんです。

四元素は、ものを構成する元というより、状態の違いを示しているのでしょう。」


それから、私は、置いてあったフラスコの中の酸素を追い出して、窒素で充満させた。


「カイロスさん、そこのフラスコに栓をしてもらえますか。」


私は、栓をしてもらったフラスコの中を魔法でどんどん冷していく。フラスコの外側は結露した水滴が付いた。そして、それが凍っていく。

空気中の水分が結露すると中が見えなくなるので、魔法でフラスコの周辺の水を取り除いて、窒素と酸素だけにした。

少したつと、液体窒素温度になったフラスコは、周辺の窒素や酸素が液体になって滴り始める。中には液体になった窒素が入っている。


「こうやって、物を冷していくと、風魔法の元になる風が水に変わります。さらに冷すと、土に変わります。」


それまで液体だった窒素は、融点以下になって、固体になった。


「最初にフラスコの中には、空気の成分の『窒素』が入っていました。四元素で言うところの風です。

そして、それを冷すと、『液体』になりました。これは四元素で言うところの水に相当するものです。

さらに冷すことで、水が氷になるように、『窒素』が氷になったんです。これは四元素でいうところの土です。

フラスコには栓がしてありますから、外とは何も元素のやりとりはありません。

そして、これを温めると、元の状態に戻ります。」


少しずつ温度を上ていくと、固体窒素は、液体窒素になって、最後は気体になって見えなくなる。

ここで、黒板に、「風」、『くうき』、『ちっそ』、『さんそ』、水と書き、風である空気は、窒素と酸素と水の混ざり物だと説明する。


「「風」の中に含まれているものは、冷すと「水」の性質を持つ状態に変ります。さらに冷すと「土」の性質を持つ状態に変るんです。」


「それは、どんな物もですか?」とカイロスさんが聞く。


「そうですね。だから、四元素は、物の状態を示しているということになります。」


「あれ、火はどうなりました?」


「あっ、説明が途中でしたね。冷すのではなく、温度をどんどん上げていくと、『プラズマ』という状態になります。『空気』の温度を上げていくと、魔法で言う「火」になります。

これは、空気の中に沢山ある、窒素のプラズマです。これが火といっている魔法です。」


そう言って、窒素を集めて、火の魔法を出す。普通の火の魔法より色が少し青みがかっている。


「そして、これは、空気に含まれている『酸素』の『プラズマ』です。」


そう説明して、酸素を集めて火の魔法を使う。

さっきは薄い赤紫だったプラズマの色が、今度は黄色だ。


「普通の火の魔法と色が違ってますね。」 とウィリッテさんが言う。


「そうです。普通の火の魔法は、空気をプラズマにしているので、窒素と酸素のプラズマが合さった、色の薄い赤色になります。

プラズマを発生するほどに温度を高くすると、物を冷す場合とは違って、元素に分解してしまいます。

さっきの塩化ナトリウムは、プラズマになる高い温度では、塩素という物とナトリウムという物に壊れてしまいます。」


それから、ウィリッテさんと、カイロスさんの質問を受けていく。


大体納得してくれたのか、質問が途切れた。


「それで、これはとても大切なことですが、四元素という考え方は、あながち間違ってはいないと思います。

魔法は、思い描くことが大切ですから、物の状態を思い描くために、土、水、風、火という区分けをするのは、上手く魔法を使うのに必要な事なのでしょう。

そういう意味で、正しいんです。

ただ、物を構成している元だという事に関しては、完全に間違っています。」


「よく解りました。あらゆる物の元が四元素だというのは違うけれど、物は四元素の状態になるということなんですね。」


カイロスさんは、納得した顔でそう言った。


「これは、魔法を扱っている人には受け入れられない考え方でしょうね。

信じていることを否定されることになりますから。

この考え方を公表すると、大変な論争が巻き起こると思います。

特に、魔法学校の教師などは、どんな事を言い出すか……。」


ウィリッテさんは、苦苦しげな表情でそう言う。


「別に、この考えを広めようとは思ってません。

魔法を使う人は、それなりに権力を持っているでしょうから、態々(わざわざ)衝突することもないでしょう。

でも、何かを言ってきたら、こんな年齢で、言うのも何ですが、どんな反論も受けて立ちますよ。」


私は笑いながらそう告げた。


ウィリッテさんが分離に成功した塩化ナトリウムの粉を保管するために、ガラス瓶をあげた。

分離した塩化ナトリウムが入っているガラス瓶を、ウィリッテさんは、大事そうに抱えていた。


戦利品だね。甲子園の土みたいなものかな。

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