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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり 1
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43.化学器具

アイル視点の「42.メガネ製造方法」の最初の時期に戻って、ニケ視点の話です。

この時期は、アイルはメガネの製造方法の検討を、ニケは紙の製造方法の検討を別々に行なっています。

「42.メガネ製造方法」の続きは、もう少し後になってから出てきます。

研究室の中が木簡だらけになってきた。

3つ目の鉱石探索チームが持ち帰ってきた鉱石の分析が終った。


ここにある木簡の内容とほぼ同じものが、文官さん達が文官の詰所にある木簡保管倉に保管されている。

だから、ここに置いておかなくても良いのだ。


まあ、忘備録というか、今後のためというか。手元にあれば、見直すときに楽だからね。


木簡は嵩張る。紙の数百倍近い体積があるんじゃなかろうか。

うーん。そろそろ紙を作った方が良いんだろうけどねぇ。


紙を作るのには、様々な方法がある。

原理は、単純だ。植物のセルロースを取り出して、不織布のように、セルロース繊維を絡ませれば良いのだ。


問題は、セルロースを何からどうやって取り出すかなんだよね。


どうしようかなと思ってはいたのだ。そこに、鉱石探索チームが帰ってきたり、ガラス研究所に呼ばれてみたりで、集中して考えることを忘れていた。


そんなときにアイルがやってきた。


『もう、だめだ。ニケ。紙を作ってくれ。』


アイルは、如何にも疲れ切った風にやってきて言い放った。


『ん?アイル?どうしたの?』


話を聞くと、天体望遠鏡と天文台の設計をしていて、設計要素があまりにもありすぎて、黒板と木簡ではどうにもならなくなってきた。

今や、部屋の中は木簡だらけになっている。

とてもではないが、過去に計算した結果を利用するのが無理になっているらしい。


まあ、解らなくは無いな。私のところでもこんなに木簡が溢れてきているんだから。アイルのところは、ウチの比じゃあないんだろう。


『それは私も必要に感じてきたところなので良いけど。多分時間がかかるよ。』


『いや、それは仕方が無いんで、いいんだ。とにかく紙を作ってくれよ。』


『ん。分った。ただねぇ。紙を作るには、少し実験しなきゃならないんだよ。

紙を作るのに都合の良い、植物があるとは限らないから。

それでね。悪いんだけど、化学実験用の器具を一式作ってもらえないかな。』


これは、別に、嘘でも何でもない。紙を作ろうと思ったら、一番簡単なのは、こうぞとか三椏みつまたのような、樹皮に高品質なセルロース繊維がある植物を使うことだ。

それなら、熱湯で処理すれば、良質のセルロースを取ることができる。

でも、多分無さそうなんだよね。竹だって無いんだから。


そうなると、樹木からセルロースを取らなきゃならないんだけど。これが一筋縄ではいかない。

化学薬品を使って、邪魔なリグニンを除去してセルロースを取り出さなきゃならない。


これまでは、鉱石から特定の元素を取り出していれば良かったんだけど、これは、本格的な化学実験が必要になる。


『しょうがないなぁ。ビーカーとかフラスコとか作ればいいのか?』


『それだけじゃ足りないから、蒸留器とか、ロートとか色々。』


それから、アイルには、様々な器具を作ってもらった。


いやぁ、悪いねぇ。


私が作ると、炭を作ったときみたいに、なんだか解らないガラス容器になってしまうから。


それから、容量の異なるビーカー各種、フラスコ各種、コニカルビーカー各種、ナスフラスコ各種、ガラス管、……、ソックスレーの抽出器などなど。

この前作った、硼珪酸ガラスを使用して、どんどん作ってもらった。

一応、フラスコの口は、透明擦り合せにしてもらった。擦り合せつきの曲管で、冷却管と繋るようになったよ。


ガラス製品だけじゃなくって、ゴム管や、七輪みたいな加熱装置とか、薬さじとか、水流エバポレーターとか、アルミナ製のルツボとか、メノウの乳鉢、アルミナの乳鉢、ステンレスの粉砕器。まあ、思い付く限りのものを作ってもらった。


そして温度計。ストックの中に水銀があったので、硼珪酸ガラスと水銀で温度計を作った。もとい、作ってもらった。

本当は、アルコールで作りたかったけど、手元ストックには高沸点のアルコールが無かったんだよね。

色を付けられないと値も読めないし。水銀は、蒸気でも薬物中毒を起す。割れたら速やかに回収だな。


ただ、水銀の温度計は良いところもある。アルコールの温度計は、混ぜ物をしても100℃が測定の限界。

水銀温度計は300℃以上まで測定できる。水銀の凝固点が-38.8℃、沸点が356℃だから、理論的には、この範囲で測定可能。

これで、精密蒸留が出来るようになる。


壁沿いの机の上にはステンレスで、スタンドを作ってもらう。

スタンドには、アームを付けてもらって、フラスコとかを固定できるようにした。


最後に、大きな水槽を屋根の上に設置してもらった。

水は、私が水魔法で、水槽に入れれば良いからね。

水道や流しが無いので、流しも作ってもらった。

水は設置した水槽から蛇口に流して、研究所の外にある容器に流れ込むようにした。


上にある水槽と研究所の外にある容器の容量を同じにしたので、下に設置した容器から満タンになったときには、上の容器には水が無くなっている。

下の容器から分離魔法で、水だけ取り出して上にある水槽に戻す。


うーん完璧だ。


今後の実験のために、保護眼鏡を作ってもらう。

ガラスだと割れると危ないので、透明な樹脂を魔法を使って作ってみる。

強度と透明度からポリカーボネートが良さそうだ。


魔法を使って、炭素と酸素と水素を無理矢理反応させて、ポリカーボネートを作ってみた。出来るものなんだ。吃驚だよ。


あと、白衣があれば良いかな。


これは要相談だな。誰か白衣を作ってくれる人を見付けないと。


この世界の人達は、貫頭衣みたいなものや、布を巻きつけたものを着ている。


生腕が露出しているんだよね。


薬品が飛ぶと薬傷しほうだいだよ。


あとは、ケブラーを作って、耐熱手袋も作った方が良いだろうか。


いやぁ。化学実験室っぽくなってきたじゃない。


アイルは、あまりの種類と数の多さに辟易していたけれど、文句も言わずに作ってくれた。


ありがとうアイル。


それじゃあ、紙に使えそうな植物を探しますか。


まずは、セアンさんと相談して繊維を取り出すのが容易な植物を調べようか。

カリーナさんにセアンさんを呼びに行ってもらった。


植物から作る紙は、セルロース繊維でできている。

セルロース繊維を薄く絡めてあるのが紙だ。


植物は、半分ぐらいはセルロースでできている。

セルロースは、グルコースという糖をモノマーとして沢山繋がっているポリマーだ。

これはとても頑丈な分子で、酸やアルカリなどで分解しようとしても簡単にいかない。

熱にも強い。

だから植物は、この物質を体を構築するのに使っている。


ただ、セルロースを植物から取り出そうとしても、簡単じゃない。

セルロースをくっ付けている接着剤のようなものがある。

それがリグニンというやつ。複雑な分子構造をしている。

どちらかというと、反応しそうなものが適当に繋がっているというのが正しそうな有機物だ。


さらに、セルロースそのものも、水素結合で分子同士が複雑に絡み合っている。


植物の細胞壁は、絡み合ったセルロース分子の間や外側をリグニンが固めているという構造になっている。


実は、魔法で、これらを分離しようとしたのだが上手くいかなかった。

セルロース自体は単純な化合物なので何とかなりそうに思ったんだ。

けれど、ポリマーって、幾つ繋がっているのか分らない。


イメージするのが難しい。


リグニンに至っては、分子構造そのものがぐちゃぐちゃしているので特定できない。


難攻不落だよ。


セアンさんと助手さん達と相談をする。


実は、植物のなかには、良質のセルロースを持っているものがある。

楮や三椏なんていう和紙の原料になる植物は、表皮の下にセルロースの層がある。

それで、和紙は、そういった植物のセルロース層を取り出して紙にしている。

他には、麻とか、亜麻とか、真麻、イラクサ、シナノキなんかもそういった構造がある。

バスト繊維という構造だけれど、その部分は、セルロースが豊富なのだ。


ただ、致命的な問題がある。

私はバスト繊維というものがあることは知っていても、その植物がどういう姿をしているのか知らない。


うーん。もっと植物に親しんでおけば良かった。


植物っていうと食べ物としか思っていなかったんだよね。


大学のときに、農学部の知り合いに、どう見ても木にしか見えない植物を見せられて、これが何か分るかと聞かれたことがある。

絶対良く知っているはずだと言われたけど。

全く分らなかった。

それは牛蒡ごぼうだったんだけど、牛蒡の葉っぱなんか見たことも、食べたことないから分らないよ。


助手さん達は、この世界の素材には詳しいのだけど、植物については、殆ど知識が無かった。


私と同じだね。


セアンさんに、バスト繊維の説明をして、考えてもらった。


イラクサは名前のとおり、トゲトゲしている植物だろう。

気触かぶれるという噂もあったな。あまり使いたくはない。


シナノキは、普通に木だったはずだ。


セアンさんも、簡単には答えが解らないと言っていた。

剪定作業や、雑草などを刈りとるときに、注意して見てみると言ってくれた。

それはそうだよね。

樹皮の下がどうなっているかなんて、興味を持って見ないと気付かないだろう。


あとの可能性は、衣服に使用している植物繊維だ。

多分、衣服の繊維は、毛じゃないと思うんだよね。繊維を燃やしても蛋白質特有の硫黄の臭いがしないから。

こっちは、業者さんをあたりますかね。


グルムおじさんに相談して、布製品を扱っている商人さんを探してもらった。


グルムおじさんから、今度は何を作るのですか、それとも服に興味があるのですか、などと聞かれたけれど、作るものを説明するのが難しいので、糸とかそういうものに興味があると伝えておいた。


やはり幼いながらも女性なのですねと言われた。


まあ、それは、どうでも良い。


グルムおじさんから、業者の人が訪問してくると連絡があった。


布を扱う商店の店主で、紡績とか織りとかも手掛けている人らしい。

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