1.新たな神々の戦い
神歴三一九四年二月一〇日、その惑星の近傍に、突然、強力な光が発生し惑星全体を包んだ。その後、惑星の大気上層では、激しい放電現象が発生した。
この放電現象は、この惑星で生活しているすべての人々が目にした。惑星の北半球にあるユーノ大陸の東端での放電現象が特に激しかった。
神話では、神暦元年に「神々の戦い」が起こり、大地震が発生するとともに、空は雷に覆われたと伝えられている。そして、大地は引き裂かれ、激しく崩壊し、天空でさえも破壊したと伝えられている。
この惑星に住んでいた人々は、今回のこの現象を目の当たりにして、再び「神々の戦い」が始まったのだと思った。神話になっている古の災厄の如く大地が崩壊し、天をも破壊する神災が発生するのではないかと恐れ慄いた。
この嵐の様な厄災は、半日ほど続いた後、突然、何もなかった様に消え去った。
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この惑星最大の大陸はユーノ大陸という。その東部には、ガラリア王国がある。そのガラリア王国の東端の広大な辺境は、アトラス子爵が領有して統治している。
領都は海に面した美しい港町マリムだ。
後に「新たな神々の戦い」と呼ばれる神災が発生したとき、子爵のアウド・アトラスの妻のフローラと、その騎士団長ソド・グラナラの妻ユリアは臨月だった。
激しい放電現象の最中、二人は産気付き、それぞれ元気な男の子と女の子を出産した。
アウドは、「新たな神々の戦い」の最中に生まれた嫡男に、神話でガイアに助力したとされる天空の男神の名に因んで、アイテールと名付けた。
ソドは、長女の名をやはり同じく神話で活躍した戦いの女神に因んで、ニーケーと名付けた。