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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり 1
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37.黒板

ある日、アイルがホワイトボードが欲しいと言いだした。


私も欲しいと思う。


ただ、ホワイトボードはこの世界では無理だろう。ホワイトボード用のペンをどうやって作るのだ。


これまで、アイルは、旋盤の増産や、重量計の増産などを依頼されて、かなり忙しかったみたいだ。収穫の時期が終って、やっと暇になってきた。


本来やりたかった研究をしたいらしい。


私も「たたら場」の立ち上げや鍛冶師達への指導もほぼ終了した。


先日、鋼の剣の品評会があって、ガゼルさんのところが優勝した。


もともとの地力があった上に、少しだけだが先行していたのが有利に働いたのかもしれない。


日本刀を出品した工房もあった。

まだまだ突っ込み所は満載なのだが、日々進化しているようだ。あとは鍛冶師さん達に頑張ってもらおう。


それで、ホワイトボードだ。


これまで、石版で計算をしていたが、面積が足りないらしい。

まあ、それも解る。


とは言ってもなぁ。


ホワイトボード用のペンは、ちょっと特殊だ。有機染料と剥離剤をアルコールに溶かしている。

ホワイトボードの表面材も新たに開発しなきゃならない。


無い無い尽しだ。


アイルと色々話しているうちに、黒板だったら出来そうだと気付いた。


黒板に使える塗料の候補が判らなかったので、ボロスさんとエクゴさんに来てもらうことにした。


翌日の午後、ボロスさんとエクゴさんが研究所を訪ねてきた。


午前中は教育があるからね。


教育も大分進んできていて、今は、他の王国の歴史を学んでいる。


それ、本当に必要なんだろうかと思う。


ただでさえ歴史は苦手だ。歴史というより人名が苦手というのが正しいのだが。

他国の歴史まで手を延すと、人名の数が半端無い。


勘弁してくれ。


試験が無いのが救いだよ。


ただ、他国の歴史を知ると、ガラリア王国と敵対している国も判る。


隣接する国で友好的なのは、ルシエ王国とスワディ王国とルパート王国だ。


ルパート王国は、中央砂漠が領地の大半で、あとは山岳地帯。遊牧民の国なので、王国と呼んで良いのか良く判らない。

この三つの国は、東部大戦で、テーベ王国に攻め込まれた。ガラリア王国と強力してテーベ王国と戦った盟友だ。


敵対しているのは、テーベ王国とノルドル王国だ。


テーベ王国は、直接戦争をしていたので理解できる。


ノルドル王国は、ガラリア王国設立の時に、ガリア王国を中心とした建国に反対していた領地が纏まることで建国した。

結果的に、ガラリア王国の北に押し出されてしまったことで恨んでいる。


アトラス領は、アトラス山脈北部で国境を接しているので要注意らしい。


ボロスさんは、来るや否や、挨拶もそこそこに、目を輝かせて「今度は何だ」と言う。

ボロスさんを落ち着かせて、最近の領都の様子を聞くことにする。


それも今回来てもらった目的の一つだからね。


木炭の生産は、日に日に増えている。他領から、流れてきた人達が、炭焼きをしている。

農家の三男以下の息子や娘の中には、自分の育った土地を離れる人も居る。

跡を継げないのなら、他の領地で一旗揚げようということだ。


アトラス領は辺境なので、もともと、農民の流入は大歓迎なのだ。

それに加えて、最近は炭焼きの仕事があって、移動しても食うのに困らないという噂が広がっている。


それで、炭焼きに従事する人が増えている。


今は、「たたら場」でも鍛冶師の仕事でも沢山の木炭が必要なので、作れば作るほど売れるという状況だ。


先日、商人と文官の不正が明みになって、数字と、長さと重さの単位の利用が一気に進んだ。


あまりにも鮮やかに不正を暴いてしまったため、不正を疑われたくない商人や農民が積極的に利用するようになった。


アイルがせっせと量産していたモノサシや重量計は、街なかの警務騎士の詰所に置かれている。


主要な商人や農村の村長のところにも無償で貸し出している。当然ながら転売は禁止されている。


そんな事もあったんだ。アイルは余計に忙しかったんだね。


ちなみに、不正を行なって奴隷落ちした商人や文官の妻子は炭焼きをしているらしい。

露頭に迷わなかったのなら、良かったと思う。


いつの間にか、ルキトさんの工房は、アトラス領最大の工房に成長していた。


相変わらず、ソロバンの需要は旺盛で、旋盤はフル操業らしい。


ただ、他の工房も旋盤を手に入れたことで、一時のソロバンだけで首が回らいということは無いそうだ。

最近では、丸棒を利用した椅子やテーブルなどの意匠に凝った家具も人気だと言っている。


大量の木工製品を作っているが、最近は多少は余裕が有ると言ってもらえた。


ボロスさんのところは言うまでもない。


凄い勢いで売り上げを延ばしている。


今や周辺の領地含めて、最大の商店になっている。

ソロバンで財を成して、あちこちの領都に支店を置いた。

今は、鉄の鋳造品も飛ぶように売れている。


特に鉄の農具が大人気で、作っても作っても需要に対応できない状況になっている。


これも、私達のお陰だとしきりに言うので、以前はどうだったのかを聞いてみた。


雑貨を扱う商店は、エクゴ商店以外には無かった。陶器や青銅器は商店を通さず、陶芸工房や鍛冶工房が直接売っていた。


家具は扱っていたが、それほどの需要は無かった。大体において、耐久品なので、何十年も買い替えたりしない。


最近の、一番のお得意様は領主館とグラナラ家だった、ってそれ、私達ために家具を買い揃えただけじゃないの?


いつかは、食料を扱っている商店のような大きな店になりたいとは思っていたけれど、それは夢のまた夢と思っていた。

今は他領に支店を持っていることで、他領に輸出することができる。他領向けに陶器も青銅器も扱う様になった。


なんとも、しんみりとした話になってきたので、話題を変えて黒板について相談を始めた。


今使われている塗料について聞いてみた。


黒板の表面の塗装は丈夫な方が良い。チョークで頻繁に書いたり消したりするので、剥れたり、傷が付いたりするのは避けたい。


この世界で使われている塗料は、樹脂だった。ラッカーみたいな物だ。あんまり丈夫そうに思えない。


それでも丈夫なものが無いかと聞いてみたが、少し硬いものでこすると傷だらけになるそうだ。


チョークは硬いものに含まれるのだろうか。


観点を変えて、大きな石版を作れないかを聞いてみた。


石版は、名前の通り、薄い石の板で頁岩けつがんのように薄く削り取ることができるものを使っている。

私達が想定している黒板ほどの大きさの頁岩を得ることは、まず無理だろうと言われた。

それを薄く削り取ることも難しい。


そもそも岩なので、大きくなると、とんでもなく重くなる。


塗料を塗った平な板とでは使い勝手が違いすぎる。


とりあえず、2デシ角の板に硬い塗料を塗ったものを準備して翌日来てくれることになった。

それまでに、こちらでは、チョークを準備しておかなければならない。


チョークは、炭酸カルシウムの粉を固めたものだ。炭酸カルシウムは、マリムでは廃棄物になっている貝殻を粉砕して粉にすれば良い。

普通に作るのであれば、石臼で粉にするのだろうけれど、ここでは手っ取り早く、魔法で粉にしてしまおう。厨房のゴミ捨てから貝殻を貰って、魔法で粉にする。水で解いて粘土状にして、丸い棒を作り、水分を魔法で飛す。

何回か試行錯誤して、お馴染みのチョークを作ることができた。


翌日の午後、ルキトさんとボロスさんがやってきた。ルキトさんが準備してくれた板にチョークを当てて擦ってみた。残念なことに、どの塗料もキズが付いてしまった。上手くいかないものだ。


もう少し考えてからまたお願いすると二人に伝えて今日のところは帰ってもらった。しきりにボロスさんが何を作ろうとしているのかを聞くので、『黒板』と言った。

それは何ですかという質問に、大きな石版です。とだけ答えておいた。


なにか硬い塗料が無いかと思って考える。


部屋の壁を見ると、漆喰が塗られている。あの漆喰が何で出来ているのかを聞いたところ、石灰だと言う。

どうやら、この世界には石灰岩は使われていて、それを砕いて漆喰にしているみたいだ。


助手さんにお願いして漆喰を手に入れてもらった。

木炭を魔法で粉にした。漆喰と粘土と炭の混合比を変えて混ぜてもらった。

アイルには左官コテを作ってもらった。


何枚も板を作ってもらい、比率の異なる黒い漆喰を助手さんに左官コテを使って塗って乾燥させて固めた。

固まった板の色、チョークで文字を書いてみたときの漆喰の強度を比較して、これで行けそうだと思える比率を定めた。


漆喰の成分比率が定まって、ルキトさんとボロスさんを呼んだのは二日後になった。


ルキトさんとボロスさんがやってきた。なぜかボロスさんがウキウキしていた。なぜだろう。


今回試作した板を見せる。漆喰の比率を伝えた。その漆喰を作れるかを二人に相談した。


ボロスさんが、エクゴ商会と付き合いがある陶器工房に相談してみるそうだ。チョークも試作してみると言っていた。


木簡に、寸法の入った図面を描いてルキトさんとアイルが打ち合わせをしている。移動式の架台も作るみたいだ。


ボロスさんが、『こくばん』の使い方を詳しく教えてほしいと言ってきた。


この塗料を塗った板に、貝殻の粉で作ったチョークで字を書く。

布を使って書いた字を消すことができる。

石版と滑石のようなものを木の板で作れる。


字を書く面積が大きいので、会議中の要点を書いたり、教育のときに教える内容を書いたりできる。


消えない塗料で枠と項目や人名を書いて、その場所での予定を書いたりできる。


ボロスさんの目がキラキラしている。


商売に夢を馳せているのだろうか。

でも、黒板だからね。鉄やソロバンの様な訳には行かないと思うよ。


2日ほどして、黒板が納入された。打ち合わせ場所と、2階の全ての部屋に置いた。

グルムおじさんも見たいというから、おじさんを誘った。するとアウドおじさんと父さんもやってきた。


グルムおじさんが、文官詰所の会議室に置きたいと注文していた。

父さんも警務騎士の詰所に置きたいらしい。


なんか、一気に50台ぐらいを注文していた。

まあ、あったら便利だよね。


ボロスさんはニッコニコだ。うーん。意外と売れるのだろうか。



ーーー



これは、後で聞いた話だ。


領都内では食べ物屋さんが店の外壁にこの漆喰を塗って、今日のお買い得品などを書くようになった。


食べ物屋さんに限らず、お店というお店の外壁は、この漆喰を塗って広告するのが流行になっていた。


ボロスさんは、漆喰とチョークを他領に持っていって大量に販売したらしい。


そもそもアトラス領では、チョークの原価は只みたいなものだ。

黒い漆喰も木炭が原料なので、安く手に入る。


この漆喰さえあれば、他領で黒板が欲しいときは、現地の木工工房で黒板を作れる。


黒板じゃなくて、漆喰だけ売るとは。やるな。ボロスさん。


アイルに作ってもらった左官コテは、「アトラス『こて』」という名前で漆喰を塗るための標準道具になったらしい。

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