26.告白
朝早くから、ソドとフローラ、ユリア、グルムと執務室で待っている。
後々面倒になると困るので、グルムは呼んでおいた。
グルムは、何故、こんなに朝早く呼ばれたのか、妻達が何故一緒なのかを訝しんでいる様子だ。
ほどなく、ウィリッテがアイルとニケを連れてやってきた。その後ろに、カイロスも居た。
まあ、良いだろう。グルムも居るのだから、問題はなかろう。
皆が席に着いたところで、アイルとニケに話をした。
「二人がとても賢いことは、よく判っている。
ただ、この2週間ほどの間に成したことは、あまりにも大きく、世の中を変えてしまうかもしれないことだ。
2歳になったばかりの幼子がする事とはとても思えない。
どうして、二人にそのようなことができるのか、理由を知りたいと思って、今日は来てもらった。」
『アイル、やっぱり、旋盤とか重量計とかやりすぎだったのよ。』
『いや、昨日のニケが嬉々として、刀剣類を作りすぎたせいじゃないのか。素振りをしていたところをソドおじさんに見られてただろう。その所為だと思うな。』
『……こんな事を言い合ってても意味無いわね。アイルどうする。』
『そうだな。困ったな。』
二人はオレの問い掛けに、二人にしか解らない言葉で話を始めた。
何時も思うのだが、二人は何故、この不思議な言葉を話すのだろう。
最初に目撃したときには、仲良くなった二人が巫山戯ているのかと思っていたのだが、どうやらそうでも無いようだな。
『やっぱり、本当の事を言ったほうが良いかな。』
『そうね。結局どこかで、本当のことを伝えなきゃならなくなるよ。』
『うーん。そうだなぁ。地球の事を話さないとならないか。でも、理解できるんだろうか。』
『それは、上手く話してよ。それと私達の仲についてもね。』
『えっ、なんで、オレが。』
『だって、領主の息子じゃない。私には荷が勝ちすぎてるわ。』
『それと、なんでオレ達の仲まで伝えなきゃならないんだよ。』
『だって、こんな世界で、引き離されたら、私生きてられないわ。』
『……うーん。仕方が無いな。』
「ボクとニケは、生れる前に御互いに思い合っていた間柄だったんです。」
えっ。今何と言ったのだ。驚いたオレ達に、引き続きアイルが話した内容は信じられないものだった。
二人は、この世界とは異なる世界で暮していた。分野は異なるが、それなりに名の知れた求道師だったそうだ。
求道師のことをアイルは『ガクシャ』と言っていたが、その意味を聞くと、求道師のことにようだ。
魔法は無いのだが、遠くに離れた人と対面で話ができたり、高速で沢山の人を運ぶことができたり、道具が空を飛び、やはり沢山の人を別な大陸に運んだりするほどの、進んだ世界だったらしい。
その進んだ世界で生活していた二人が何かの事故に巻き込まれて気付いたら、この世界で生まれていた。
その進んだ世界も、最初から進んでいた訳ではない。彼等が生きていた時代から3000年ぐらい前は、今のこの世界と同じように、テツやハガネは無く、数の表し方もこの世界とあまり変わらなかったそうだ。3000年の年月を掛けて、我々から見たら驚くような世の中になっていったらしい。
彼等にとって、太古のつまりこの世界に生れて、少しでも彼らが生活していた文明に辿り着くための最初の一歩になるようなことを伝えていただけなのだと言う。
それが、数字であり、ソロバンであり、統一した長さの単位や、重さの単位や、テツやハガネなのだ。
この時、ニケが、「だから、テツは、魔法ではなく、領民の手で作って、加工できるようになることが大切なの。」と言う。
ここで、一区切りついたのかアイルが話を止めた。
部屋の中に居て、この話を聞いた誰もが、言葉が無かった。
沈黙に耐えきれなくなったのか、ソドが口を開く。
「つまりは、神々の国に居たということなのか?」
二人の話を聞くかぎり、そう思うのも当然ではないか。
アイルが、
「神々の国というのがどういうところなのか、そもそもこの国の神がどういうものなのか知らないので、何とも言えませんが、この世界から見たらそう見えるかもしれないですね。」
『それ、絶対誤解されると思うけど。大丈夫そんなこと言ってしまって。』
『でも、科学技術が進んだ状態は魔法にしか見えないなんて言葉もあるんだから、神々の国にしか見えないと言ってもそれほど奇しなことではないと思うんだけど。』
思わず、オレは口を開く。
「その言葉も、その神々の国の言葉なのか?」
アイルが、
「『ニホン』という国の言葉です。二人ともそこに居て、互いにこの言葉を使っていたんです。」
と言う。
神の国は、『ニホン』という名の国なのか。そういえば、昨日ソドが、ニホントウという武器の話をしていたのを思い出した。
「ニホントウというのは、そのニホンという国の武器なのか」
「そうよ。ニホンの剣という意味。」
とニケが言う。
それを聞いて、ソドが、
「ニケは、その国で、騎士をしていたのか?
いや、なに、昨日ニケがしていた素振りが堂に入っていたからな。」
それから、ニケは、ケンドウというものの説明をしていたが今一つ分からない。
一応ニケは、剣の達人だったが、剣を仕事にはせずに、求道師をしていた。
アイルもカラテという素手で戦う方法の達人だったらしいが、やはり戦士にはならずに、求道師をしていた。
その世界では、戦う事に於て、そこそこの達人であるより、求道師の方が尊敬を集めると言う。
ニホンという国は、いくつかの大国の中で、唯一戦争をしないことを宣言していた国らしい。
それは、個々の武力が大きくて、戦争になっても跳ね返せるということなのだろうか?
それで、武力を持ったものが、求道師などという仕事をしていたんだろうか?
なんとも解らない話だ。
ただ、ニホントウというのは、切ることに特化した武器だと言っていた。剣の達人が居れば、あっというまに、敵は切り殺されてしまうんじゃなかろうか?
いかん。いかん。当初の目的からどんどんズレていっている。話を戻さなければ。
「あー。それで、二人はこれからどうしたいのだ。」
二人はしばらく沈黙したあとで、
「この世界の事が知りたいです。どうして生れ変るようなことになったのかも知りたいですね。
今のこの世界の技術では、どうにもならないです。だから、少しでもこの領地を発展させたいです。」
「私も知りたいことが一杯あります。でも、まず第一は、美味しいものが食べられるようにしたいです。」
二人ともに、求道師のようなことを続けたいのだと言う。
まあ、それはかまわないだろう。アイルが言うように、領地が発展できるのなら、さらに良い。
「あと、大人になったら、ニケと結婚したいです。ダメでしょうか?」
「あっ。私も。もうアイルと離れ離れはイヤです。」
「領主の息子が、騎士団長の娘を嫁にもらうのは全く問題はない……。
なんだ、ソド、何でオレを睨んでいるのだ。
まだ、先の話ではないか。
ところで、先ほどから気になっていたのだが、二人は、前の世界ではいったい幾つだったのだ?」
「二人とも同い歳で、35歳でした。」
オイオイ、オレより年上だったのかよ。
それにしても、その歳で、ニケの回答は無いだろう。そうは思ったが、黙っておくことにした。この部屋の女性達が美味しい食べ物のところで、ニコニコしていたからな。
「その年齢だったのなら、我々は年下になるのか。」
「父さんも母さんも、私にとってはとても大切な家族で、親ですので、そんな風に思ったことは無いですね。なにしろ、私達は、まだ親の保護が必要な幼児ですから。」
「お父さんも、お母さんも大好きです!」とニケが言う。
「まあ、それも尤もだ。しかし、これから、どうするかだが。」
ここで、 ユリアが口を開いた。
「「新たな神々の戦いの日に生れた神々の知識を持つ子供」ということで良いではありませんか。
今、考えなければならないのは、アトラス領を発展させてくれる我が子達を、如何に守っていくかでは?」
そうなのだ、二人はもともと求道師だったということもあってなのか、全く敵意や悪意や害意が見られない。
そして、二人の知識は、我が領地をどれだけ発展させてくれるか計り知れない。
もう、すでに、二人は神童であるとか、神の御使いだとか、噂され始めている。ユリアが言うように、とにかく護衛を厚くして守ることを決断しなければならならない。
「そうだな。もう既に二人のことは噂になってしまっている。二人のことは「新たな神々の戦いの日に生れた神々の知識を持つ子供」ということにして、ソド、二人の警護計画を立ててくれ。
それと、今日二人から聞いた話は、この部屋に居る者以外には絶対に伝えてはならん。
これは、厳命しておく。」
二人は幼児ではあるが、中身は大人なのだ。正式に依頼という形を取っても良いだろう。
「領地の発展のために力を貸してくれるか?
ただし、ほどほどに頼む。
何か領の方で助力が必要であれば、相談してくれ。」




