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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
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8W.紙幣

デニスさん達は、造幣所までやってきて、警備している騎士さんに私達に会いに来たと告げたところ、昼食で不在だと言われて待っていたんだそうだ。

なかなか、律儀な人達のようだ。


そもそもは、バールさんが居なかった所為だけど。バールさんはどうしてるんだろう。


デニスさん達を造幣所の中に入ってもらった時に、そんな事を思った。

広い敷地の周りをぐるりと塀で囲まれた中に入ると、デニスさんは、溜息を着きながら、


「ここまで、準備が進んでいたんですね。長官が私達を急かす訳だ。」


と言った。


ん?準備って、この敷地の整備を始めたのは、昨日からだから。上司の人達が知っている訳がないよな。デニスさん達を急かせた理由ではないよね。


「えーと。何か誤解があるみたいですね。この造幣所は、昨日から作り始めたばかりですよ。」


「そうですね。一昨日までは、この場所には何もありませんでした。」


アイルも私の言葉に同意してくれる。


「えっ?すると、昨日からこの場所を造り始めて、今はこの状態なんですか?

あっ、そう言えば、お二人は特級魔法使いでしたね。

なるほど……。

じゃあ、何故あれほど急かされてたんだろう……。」


話を聞いてみると、マリムに赴任が決まったのが、つい4日ほど前で、本来なら準備の時間として、1週間はあったのが、突然、直ぐに移動しろと言われたらしい。

本来なら、家族とこちらに移動する筈だったのだけれど、家族と一緒という訳に行かなくなった。


「それで、ご家族は?」


「あっ、それは良いんです。引越しの準備をして、後でこちらに来ることになってます。」


「それなら良いんですけど、でも、何故、そんなに急がされたんでしょうね?」


「さぁ。それは聞いていないので、何とも……。アラピ管理官なら理由を知っているかもしれないですね。」


「そうそう。そのアラピ管理官。バールさんは、何故、御一緒じゃなかったんです?」


「王宮から無線機で連絡が入ったとか言ってましたね。」


なるほど。それで一緒にメーテスに来なかったのか。

しかし、中間管理職は大変だね。


私は、私で、状況が変わった説明を准教授達にしないとならないんだろう。

工場で作業をしている騎士さんに頼んで、化学研究所に居る准教授達にこちらに来て欲しいと伝えに行ってもらった。


とりあえず、王宮から来た文官の人達には、現状出来上がっている設備の説明をする事にした。


王都から来た人達は一様に、工場の大きさや、自動で紙が出来ていくという説明に驚いていた。

まあ、普通は、こんなもの見た事は無いだろうからね。


製紙工場の説明をしている最中に、准教授達が集まってきた。


残りの説明をアイルにお願いして、私達は午前中に新造した研究室の居室に移動した。


新しい研究室の居室には、大きな机と、d20人分ぐらいの椅子、黒板が置いてあった。

ふふふ。バンビーナさん。ナイスジョブだね。


「こんな場所も作ったんですね。」


キキさんが、溜息混りに呟いていた。


「ここって、一昨日までは、何も無かったんじゃなかったか?」


こんどは、ギウゼさんが呟いている。


「まあ、アイルだからね。そんなもんでしょ。」


なんか、皆、妙に納得した表情をしている。もう、慣れたってことだろうな。


准教授達には、黒板の前に集まってもらった。

皆が席に着いたところで、


「何か、思いの他、状況が急変?激変?……まあ。とにかく、状況が大きく変わってきたので、説明しますね。」


そう切り出して、この1週間ほどで、起こったと思われる状況の説明をした。


事の起こりは、バールさんやロッコさんに、経済研究室で何を研究するか相談した事だ。

その後、王宮で何が有ったのかは知らないけれども、翌週には紙幣を作る事になっていた。

それで、昨日、准教授達に指示を出して、紙幣用のインクの開発と金の精錬方法の検討をしてもらうことにした。

ところが、今日、紙幣の開発をするための人員が王宮からやってきている。


「今、アイルさんが案内している人達が、王宮から来た人なんですね。

工場は、あの人たちが動かすんですか?」


ビアさんが、が聞いてきた。


「ええ。あの人たちは、今朝、マリムに着いたみたい。

王宮の財務省という部署から来た王宮文官の人達です。

工場の操業をどうするのかは、確認してみないと分らないけれど、多分間違い無く、工場の作業に関しては、素人です。

王宮では、紙幣の試作を急いで欲しいみたいだし、あの人達を遊ばせておく訳にも行かないの。

申し訳無いんだけど、一旦現状の作業を中断して、あの人達が紙の試作が出来る様に指導して欲しいんです。

お願いできる?」


皆、まあ、そうなるよなという顔をしていた。


あれ?そう言えば、ジオニギさんが居ないわね。


「そう言えば、ジオニギさんはどうしたのかしら?」


「昨日、ニケさんが、ノアール川の金鉱脈を調べて欲しいって言ってましたから、屹度今は、移動する船の中ですよ。」


呆れ顔で、カリーナさんが教えてくれた。

あっ。確かに言ったわね。そんな事。


足が軽いというか何というか、もう移動しているんだ……。

まあ、それが鉱物研究室の彼の仕事だからね、とても良い事だよ。


准教授達には、昨日からの進捗を聞いてみた。

まあ、そんなに進んでいるとは思ってないんだけどね。


きんの精錬に関しては、王水で鉱石の金を溶かして、それを電気精錬できる確認まではしていた。

仕事が早いね。


選鉱は、どうしたら良いか分らないらしい。


まあ、金だからね。


これまで、金属の化学特性で、気泡を抱かせたりして、浮かべてたけど、金は何とも反応も吸着もしないだろう。

大体は、石英質の鉱物の中にあるみたいだけど、石英とは比重が違い過ぎて、浮いたりはしない。どちらかというと沈むんだよ。

砂金採りの人が使う金属製の皿みたいなものは、それなりに意味があるんだよね。


インクの開発は、必要になりそうな原料をかき集めている最中らしい。

昨日の今日だから。そんなものだろう。


インクの開発は、紙が確定してからの方が良いことと、素材が届くまで時間がありそうだったことから、紙の方を先行してもらう事にした。


再度、これまでの検討は一時停止して、この研究施設にある試作装置で、紙幣に向いた紙の試作をしてもらう事をお願いした。


でも、来月になったら、メーテスの授業もある。


何とか今月中に、メドを付けないと。

しかし、大急ぎだな。何で、こんな大変な事態になったんだろう。

ん。私の口から出たことなのか……。私の所為?


そんな話をしていたら、一通り見学が終ったのか、アイルと財務省のデニスさんたち一行が研究施設の居室にやってきた。


何故か、バールさんも居るね。


アイルに聞いたら、私達が離れて程なく、バールさんが、見学ツアーに参加してきた。

バールさんは、頻りにアイルやデニスさんに来るのが遅くなったことを謝罪していたそうだ。


中間管理職は、大変だね。私も准教授だった頃は、大変だった……かな?あれ?どうだったんだっけ。

まあ、そんな事はどうでも良いわ。


准教授の中には、バールさんを知らない人も多い。当然デニスさんの事は知らない。

御互いに紹介をしてもらった。


「これから、紙幣の作り方の説明をしたいのですけれど、まずは、バールさん。何故王宮では、紙幣を作るのを急いでいるのか教えてもらえませんか?

デニスさんに聞いたら、突然、直ぐにマリムに赴任しろと言われたみたいですね?」


「それなんですが、私も詳細は知らないんですよ。ただ、宰相閣下は、今年中には、貨幣を紙幣に替えたいと考えている様です。

どうやら、隣国の影響があるみたいですね。

今日も、試作した紙幣は、何時頃見ることが出来るのかと聞かれまして……。

何時頃、試作した紙幣を王宮に渡すことができるのでしょう?」


そんな事、直ぐ分る訳ないだろ。

そもそも、まだ、何の検討もしてない。


ただ、急いでいるのは、隣国の状況があって、宰相閣下が急いでいるという事なのか。

何か、厄介な感じだけが凄くするんだけど……。

本当に急がないとダメなのかもしれない。


「普通に、工場を立ち上げて、試作検討ができるのは、半年後とか、大分先になりますよ。

年内に紙幣と貨幣を交換するとなると、年内には量産できてなきゃならないんですけど、それは、普通にやってたら、ムリですね。」


「えっ。そうなんですか?

何と、宰相閣下に応えたら良いのか……。

アイルさんとニケさんなら、何とかならないんでしょうか?」


なんか、バールさんが悄気しょげているけど……。

その体格で、悄気ても可愛くないから。


うーん。普通に工場を立ち上げたら、無理なんだけど……。

条件検討を試作機でやるって言っても、時間が掛る。

こればかりは、どうにも……


……成るか?


魔法で紙を作ることが出来ないかと思った。

結局のところ、条件を決めるところで時間が掛る。

それに、手本になる紙は、この世界の人には雲を掴むような話だ。


紙は、一般の化合物と違って、かなり複雑な構造をしているから、出来るかどうか分らないけど……。


超伝導材料や特殊触媒に比べたら、大したことは無いと言えば無いかな?

どうなんだろう。


『ねぇ。アイル。

魔法を使って、紙を作れば、大幅に時間を短縮出来るかもしれないんだけど……。

どう思う?』


『どうって。紙を魔法で作る?

何だか意味が良く分らないんだけど。

紙を作るのに、魔法をどうやって使うんだ?』


『結局のところ、セルロースとリグニンなんかが、どの程度混ざっているかというのがキモなのよ。

だから、紙を組成から魔法で調整するの。』


『まあ、ニケが出来るっていうなら、それで良いと思うけど。

細かく見ると、紙って、かなり複雑な形状をしていると思うけど、本当に出来るものなのか?』


『多分、一から作ろうとすると難しいとは思うんだよね。だから、既にある紙に色々添加してみようと思うんだ。それだったら出来そうな気がするんだよね。』


『なるほどね。それだったらどうにか……なるもんなんだろうか……。

良く分らないれど、やってみる価値はあるのかな。

それで、何か依頼したい事があるんじゃないのか?』


『流石ね。アイル。印刷の方も、急いで進めなきゃならないじゃない。光レジストは私が用意するから、露光なんかの作業を早めに進めてもらえない?』


『それは、良いけど、肝心の図柄がこれからじゃないのか?』


『それは、急いで描いてもらうけど、それを凹版にするのに、露光技術が必要になるんじゃないの?』


『まあ、そうだけど。じゃあ、王宮から来た人達には装置に慣れてもらって、その間に紙幣を試作してしまうってことか?』


『そうそう。どうやら、のんびり製造条件を決めてる場合じゃなさそうだからね。』


一応、方針を日本語でアイルと決めた。周りを見ると、王宮から来た人たちが固まっていた。

他の人は、まあ、慣れたものだったけど……。

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