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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
294/371

89.金種

3日後、 また、宰相閣下に呼び出された。

今度は、無線機のある場所で、国務館と打ち合わせをするのだそうだ。


デニス達は、昨日、マリムに移動した。かなり文句を言われたが、宰相閣下からのご下命だと言って、ゴリ押しをした。

実際のところ、デニス達の働き如何によって、今回の紙幣採用の可否が決まのだ。

頑張ってもらう他ない。


幾つか並んでいる無線機室の一室に入ると、既に宰相閣下が、無線機で話をしていた。

私の直ぐ後に、ミネオ長官もやってきた。


「陛下は未だだが、全員揃った。では、アラピ管理官。経緯の説明を頼む。」


国王陛下も来られるのか?

何とも、驚きだな。


若干くぐもった声が響いてきた。


「それでは、国務館貨幣管理部門管理官のバール・アラピから説明をさせていただきます。

今日、アイル様とニケ様と打合せを持ちました。

昨日、2回目の経済研究室の打合せで、貨幣を紙幣に移行したいとお伝えしましたところ、本日、アイルさんと、ニケさんが国務館を訪ねて来られたのです。

お二人からは、早速、紙幣を生産するための工場を建造すると言っていただけました。

今日、その建築場所を確認してきました。

場所は、王国立メーテスの敷地の北東の端で、川岸に近いところです。

その場所が、川の水の取り込みや、紙の原料を運び込むのに適していて、メーテスを囲んでいる大きな塀の中にあり、秘匿性を守りやすい場所との事でした。」


「そうか。既に場所も決定したのか。」


宰相閣下が応答された。


「はい。早速、アイルさんが、敷地の整備をしていらっしゃいました。」


「相変わらず、対応が早いな。」


「はい。有り難い事です。

それで、アイルさんとニケさんから、2点問合せがありまして、それを話し合いたいと思っています。」


「先程聞いた金種と肖像についてという事だな。肖像については、陛下のご意見を伺わなければならない。先に金種について話し合うことにしてもらおうか。」


「はい。それでは、お二人から伺った内容をお伝えします。

これから、印刷のための図案を作成するのだそうです。それで、何種類の紙幣を作るのか、王宮で決めてほしいということでした。

これまでの貨幣と同じ、1ガント、d10ガント、d100ガント、1ガリオン、 d10ガリオン、d100ガリオンを作るのか、それらの間の、d6ガント、d60ガント、d600ガント、d6ガリオン、d60ガリオンといったものを準備しても良いのではと言われました。」


「さて、これは、どうする?

私は、これまで通り、1ガント、d10ガント、d100ガント、1ガリオン、d 10ガリオン、d100ガリオンで良いのではないかと思うのだが?」


「宰相閣下。紙幣の試作を急ぎたいと聞いておりますが?」


機械の向こう側からの声が、宰相閣下の提案に応えた。


「ああ。そうだな。なるべく試作を急いでもらいたい。まだ、紙幣というものを見ていないからな。」


「それでしたら、1ガント、d10ガント、d100ガント、1ガリオンの4種類に留めておかれた方が良いと思います。

これまで金貨が殆ど流通していなかった事を考えると、d10ガリオンとd100ガリオンを急いで作る必要は無いのではありませんか?」


「なるほど、ミネオ長官は、どう考える?」


「そうですね。私も、金貨に相当するd 10(=12)ガリオンとd100(=144)ガリオンは、様子を見てからでも十分ではないかと思います。

懸念される事は、金貨と比べて、嵩張るのではないかという事です。

d10ガリオンではそれほどではなくとも、d100ガリオンの大金貨をd1ガリオンの紙幣で交換しようとすると、d100(=144)枚ですから、紙とは言ってもかなり嵩張ります。そして、より多くの1ガリオン紙幣が必要になります。」


「王国内で、最も多くの金貨を管理しているアスト財務長官はどう思う?」


「まずは、その紙幣というものの大きさを知りたいと思いますが。どのぐらいの大きさの紙になるのでしょう?」


「アイルさんとニケさんに拠れば、お二人の掌より若干大きい紙を想定している様です。子供の掌より大きく、大人の掌より小さいぐらいだとか。

概ね、2デシと1デシの長方形のようです。」


ふむ。重さは大したことは無いだろう。確かに嵩張ると言えば嵩張るな。

王宮には、d10ミロガリオン(≒7,000億円)の余剰金がある。

大体は大金貨で、今は、これを一つの部屋の中に置いている。

予算で使う分は、別な部屋にd10ミロガリオンだ。


1ガリオンの紙幣で、d10ミロ枚(≒3,600万枚)か。

d100(=144)枚で束にしたとして、d100サンド(≒25万)個の束になる訳だ。

紙の厚みが分らないが、d100(=144)枚で、1/d10デシ(=0.8cm)として……高さをd10デシ(=120cm)に抑えるにはd100個積むことになる……。


d40デシ(=4.8m)×d60デシ(=7.2m)の広さがあれば置けるのか?

意外と大した事は無いな。


そうか。金貨は、持てる程度の重量に分けて頑丈な木箱に入れていたからな。あれが嵩張っていたのか。


保管については、この何倍か有っても新たに部屋を準備する必要は無さそうだ。


大丈夫ではないか?


欲を言えば、d10ガリオン紙幣があれば良いが、積極的に必要という訳ではない。それよりは、早く紙幣の試作を終えて欲しいところだ。


「私としては、1ガント、d10ガント、d100ガント、1ガリオンの4種類で良いかと思います。

欲を言えば、d10ガリオンが有った方が良いのですが、まずは、試作を急がせましょう。」


そこに、国王陛下がやってこられた。


全員が立ち上がり、跪こうとしたところで陛下が声を掛けられた。


「ああ、良い、良い。そのまま会議を続けよ。」


それから、宰相閣下がこれまでの打ち合わせの内容を伝えた。


「私は、紙だというのに何となく不安を感じるのだが。

ひょっとすると、火を着けると燃えるのではないか?」


陛下が懸念を漏らされた。


「紙ですから、当然、燃えます。」


宰相閣下が応えた。


「燃えるとどうなるのだ?」


「灰になりますな。金を失うことになります。」


「それは、マズいのではないのか?」


「しかし、もし、敵国が攻め込んできても、財を盗まれるのを避けることができます。」


「なるほど、敵に奪われそうになったら、燃やせば良いのか。

ははは。それも、一興だな。

そもそも、好き好んで金に火を着ける者は居らぬか。

ふむ。まずは、紙幣とやらが出来るのが楽しみであるな。

いや。済まない。話の腰を折ってしまったようだ。打合せを続けてくれ。」


「では、会議を続けさせて頂きます。

金種に関しては、1ガント、d10ガント、d100ガント、1ガリオンの4種類という事で宜しいかな?」


誰からも異論は出なかったので、金種は4種類に決まった。


「では、引き続いて、肖像についてだが……。」


「宰相。肖像とは?これは紙幣に関しての話し合いではなかったのか?」


陛下が、肖像について疑問を呈された。


私も、不思議に思っていたのだ。紙幣と肖像と何の関わりがあるのだろうか?肖像とは、肖像画のことだと思うのだが……皆目繋りが分らない。


「ええ。紙幣についての話し合いです。

これまで、王国の貨幣には、金額を表わす文字だけが彫り込まれていました。他国では、貨幣の表面に人の横顔を彫り込んでいるものもあるようです。

今回発行する紙幣には、金額を示す数字と、良く知られている人物の肖像を描くらしいですな。」


「何故そのような事をするのだ?」


「陛下。国務館貨幣管理部門で管理官をしておりますバール・アラピと申します。ご挨拶をせず申し訳ありませんでした。

その件については、私から説明をさせて頂きたいと思います。

宜しいでしょうか?」


「ああ。アラピ管理官であるか。色々話は聞いている。

今回はご苦労であった。

説明をお願いできるか?」


「勿体無い御言葉、恐縮にございます。

この件は、アイルさんとニケさんからの提案でございまして。

人の顔というものは、概して、人の目に留まりやすく、少しでも、変なところが有れば、気付くものなのだそうです。

少しでも奇しなところがあれば、気が付きやすく、偽造された紙幣の使用を防ぎ易いと聞いております。

そこで、紙幣に描く人物を、王宮で決めて欲しいそうです。」


「なるほど。紙幣に肖像を描くのは、そんな理由があるのか。

それで、その肖像は、王国民が見知っている人物が良いのか?」


「お二人の話では、紙幣には、国王陛下とか、歴史上の有名人など、王国民に良く知られている人物の肖像を描くのが良いのではと仰っていました。」


「王国民に良く知られている肖像であるか。

それには、私が含まれておるのか?

ふむ。なかなか難儀なことだな……。

……

ところで、その紙幣には、全て同じ絵が描かれるのか?」


「はい、金種毎に、紙幣は同じ図柄になるのだそうです。」


「しかし、肖像画であるぞ。一体、どうやったらそんな事が出来るのだ?」


「印刷という手法で、同じものを何枚も作り出せるのだと聞いております。」


「その印刷というのは、どういったものなのだ? 」


「それは……何とも分りかねます。

これから、印刷する工場を建てるのだそうです。」


「ところで、その紙幣というのは、どのぐらいの数になるのだ?」


「それにつきましては、私からご回答いたします。

まだ、はっきりとした数量は分りませんが、最終的には1ガリオン紙幣で、少なくともd100ミロ枚。それより金額の低い紙幣では、さらに何d100倍ほどになるかもしれません。」


紙幣管理庁のミネオ長官が回答した。


「……そんな何サンドミロ枚もの紙に、私の顔が描かれるのか?」


「そういう事になります。」


国王陛下は、暫くの間上を向いていた。


「絵師が誰になるか分らないが、実在する私の肖像を描いて、似ていなかったりしたら、その絵師が責められるのではないか?

私も、そんな沢山の紙に私の肖像があるのは……遠慮したいものだ。」


「左様でございますか?

王国民全員に陛下のご尊顔を覚えてもらう良い機会だと思っていたのですが。

残念ですな。」


「何を言う。宰相。他人事だと思って。」


「そうでしょうか?本心から、良い事と思っていたのですが。」


「いや。私の顔が、何サンドも並んだところを想像して見よ。私は恥かしくて、何処かに隠れたくなる。」


「ならば、仕方がございませんな。それでは、過去の有名な人物の肖像画という事に致しましょう。

すると、初代国王陛下では、如何ですか?」


「それなら良かろう。初代様は、そこかしこに肖像画があって、王国民も見知っておろう。」


「アラピ管理官。肖像画の候補は1つで良いのかな? 」


「その件ですが、お二人からは、金種によって、肖像を変えた方が良いとも言われています。数字に馴染の無い、王国民にも、金種の判断がしやすいだろうと言うことでした。」


「なるほど。それは理に適っているな。すると候補を最低4つ上げなければならないことになるか。

他に、何か候補となる過去の偉人の事例が有るか?」


王国民皆が知っている過去の偉人か。誰が居るだろうか。

あっ、そうだ。


「それなら、戦争の英雄として有名な、ガリム・サンドル卿が良いのではありませんか?」


「なるほど、ガリム・サンドル卿ならば、王国民に良く知られておるな。アスト長官は、アスト侯爵家の方で無くて良いのですかな?」


「いえ、流石に、ガリム・サンドル卿ほど知られている一族の者は居りませんから。

そういう観点では、ガリム・サンドル卿の盟友で、先の戦争で活躍された、モナド・グラナラ卿も良く知られております。」


「なにやら、アトラス領に縁の方々ばかりになっては居ませんか?」


「宰相。良いではないか。そもそも、この紙幣の案は、ニケさんの発案だと聞いている。多少、配慮があっても良いと思うぞ。

それに、そのお二人を知らぬ王国民も居らぬだろう?」


「それならば、陛下の仰られるままとしましょう。あと候補は一人なのだが……。」


「ガイア神という訳には行きませんか?」


ミネオ長官が発言をした。


「ガイア神ですか。

ふふふふ。

良いかも知れません。

我が国の紙幣を見たときのテーベ王国民の顔が見てみたくなりますな。」


宰相閣下が楽しそうに微笑んでいる。

すると、紙幣の肖像は、ガイア神、初代国王陛下、サンドル卿とグラナラ卿ということになる訳か。

確かに、テーベ王国から見たら、憎むべき者の肖像という事になるのか。


「私も、良いと思う。」


「では、陛下のお許しを頂きましたので、紙幣の肖像は、その様にしましょう。

陛下。流石に初代様とは言え、神の上に置く訳には参りませんので、1ガリオン紙幣はガイア神、d100ガント紙幣を初代様、d10ガント紙幣をサンドル卿、1ガント紙幣をグラナラ卿としたいと思いますが。

如何でしょう?」


「ふむ。私もそれで良いと思う。」


「陛下のご承認を頂きましたので、その様に致しましょう。

アラピ長官。他に何か定めておいた方が良い事はあるか?」


「実は、お二人から、手本となる肖像画を貸して欲しいと言われておりますが?」


「それは、まあ。そうだろう。

但し、今回使用する肖像画は、出所の確かなものにしたいな。

陛下、博物館にある肖像画を一時的に貸し出してはどうかと思いますが?」


「ふむ。あの肖像画か。

紙幣となって、衆人の目に触れるのであれば、博物館にある肖像画が良いであろうな。

唯、あれは、国の宝である。

警備を厳重にして、アトラス領に移送せよ。」


「では、そのように手配しましょう。

以上で、会議を終了しても良いか?」


誰からも意見は出てこなかったので、会議は終了した。

紙幣には、肖像が描かれるというのだが、どのようなものなのか。楽しみではあるな。

話が前後したり、場所が変わったりして混乱させたかもしれません。

各話の時系列は、以下のとおりです。

なるべく同じ場所で時系列にした弊害です。


2/2

第一回経済研究室打合せ

紙幣、産業振興の話をする

貨幣管理部門管理官のバールが手紙を宰相閣下に送付

[7W.経済研究室]、[80.貨幣制度]@メーテス


2/4

宰相閣下に手紙届く

王宮(宰相閣下)と国務館(貨幣管理部門管理官、産業管理部門管理官)で無線会議


2/5

王宮で、宰相閣下と財務省長官の打合せ

デニス・グイードが財務省長官に異動を告げられる

王宮(宰相閣下、貨幣管理庁長官)と国務館(貨幣管理部門管理官、産業管理部門管理官)で無線会議

[85.ゴリムノ・アスト]、[86.余剰金]@王宮


2/6

王宮で、宰相閣下、財務省長官、貨幣管理庁長官で打合せ

[87.造幣計画]、[88.マネーストック]@王宮


2/8

第二回経済研究室打合せ

作成する金種、肖像などについて王宮に問い合わせを依頼

デニス・グイード一行王宮を出発

[82.金融][83.印刷機]@メーテス


2/9

造幣局の場所決め

製紙工場を建造

王宮(国王陛下、宰相閣下、財務省長官、貨幣管理庁長官)と国務館(国務館貨幣管理部門管理官)で無線会議

[83.印刷機(後半)][84.造幣準備]@メーテス

[89.金種]@王宮

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