表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
293/369

88.マネーストック


「それは……申し上げ難いのですが、先の戦争の所為でございます。

先の戦争で、王都を奪われた際に、記録を消失したこととが一番大きな要因です。

さらには戦争の時に、可成の量の貨幣を敵に奪われたこともあって、正確な発行数は不明なのです。」


本当に申し訳無さそうに、ミネオ長官が話し始めた。


この様な内容だった。


ガリア王国、ゼオン王国、テルソン王国、ハロルド王国が連合してガラリア王国が設立したのは、今からd262(=362)年前になる。

東部大戦の最中だ。

設立当初は、そのまま、各国が発行していた貨幣を使用していた。

当時は、王国と侯爵家で、連動させる形で、それまでと同様に各侯爵家でも貨幣を発行していた。

建国d100(=144)年となったときに、貨幣を統一した。

今から、d162(=218)年前だ。

その頃は、戦争は小康状態にあった。

その後、戦争が激しくなり、戦費を稼ぐために、大量の貨幣が鋳造された。


戦争末期には、終始劣勢となり、停戦の前には、王都の地を奪われるという事が度々起こった。

最終的に、ミケナ王国との密約により、ミケナ王国軍が、テーベ王国の王都へ進軍した。そのことで、混乱するテーベ王国軍から、ガラリア王国は失地を回復することに成功した。

そして、停戦になった。


戦争の最中に、通貨の発行記録は失なわれてしまったそうだ。


テーベ王国に攻め込まれて、王宮から避難する際に、当時の貨幣管理部門は、貴金属類の保全を優先し、嵩張る発行記録は二の次だったのだろう。

今となっては詳細は不明だが、その混乱の中、大量の木簡を焼失したらしい。


終戦までの、凡そdW0(=132)年間の記録が無いのであれば、総発行枚数が不明となっているのも頷ける話だ。

それに戦争の最中だ。

略奪行為は普通にある。接収された大量のガラリア王国の貨幣は、今ではテーベ王国の貨幣に改鋳されている。


「他にも問題が有りまして……金貨なのです。金貨は発行しても、市場に流通しませんね。

高額の貨幣は、王宮や各地の領主館に保管され、埋蔵されてしまい、市場には流通しないのだと思われます。」


確かに、市場で金貨を見る事は無いな。王宮の保管庫には大量に存在しているが。


貨幣の総量が分らないとは、困ったことになった。

どの程度の保管場所が必要になるのかも分らないということになる。

保管や管理は財務省の管轄だ。

まったくもって、迷惑な話ではないか。


「困りましたね。それでは、どれだけの量の通貨が回収されるのか、不明という事ですか?」


「いえ。そういう訳でもなく、ある程度の見積りはあるのです。ただ、正確かと言われると、類推でしかないため、確言できないのです。」


「まあ、良いではないか。そもそも、かなりの銅貨が既にテーベ王国に流れて行っていると聞く。仮に詳細な記録があったとしても、正確に把握など出来ないではないか。

財務長官は何をそんなに気にしておるのだ。」


「いえ、ただ、貴金属の保管場所を新たに設けなければなりませんので。」


「ふむ。確かにその通りであるな。しかし、大量の金、銀、銅を王宮に保管しておくのも厄介な事だ。

それならば、大陸の北東の端にある金鉱山の側に保管場所を建てたらどうであろうか?

あそこなら、周辺は魔物の巣窟だ。軍や船でなければ立ち寄ることもできなかろう。盗難の被害に遭うこともあるまい。

そして、幸いな事に、アトラス領には、高速の船がある。

王都からであれば、4日もあれば着くだろう。」


「えっ?あの最果ての地を保管場所にするのですか?」


「まあ、私が考える事ではないがな。管理するのは財務省だ。

善く善く検討するが良い。但し、警備も只では無いことは、十分考慮してな。」


「はい。受け賜わりました。」


困ったものだ。確かに、大量の貴金属を王宮に保管しておくのは厄介だ。

適切な場所に保管場所をと言っても、王都周辺であれば、かなり厳重な管理が必要になる。

閣下の仰るとおり、遥か北東の場所に置いておくのも一つの手ではあるのか。

仮に戦争となっても、王国の財産を容易には奪われる事も無い。

しかし、その様な場所で警備するとなると……。

職員に、半年交代とかで、駐在してもらうとかか。

嫌がられるだろうな……。


「他には?」


「金については、純金として保管するのは分りましたが、銀や銅はどう致しますか?」


「それも、純銀、純銅として、保管しておいてくれ。」


「しかし、金とは比べものにならない程の、分量となりましょう。これもニーケー様の魔法ででしょうか?」


「まあ、そうしてもらえれば良いのだが……既に、銅や銀は高純度の精錬が出来ると聞いている。あとは、直接本人と相談してくれ。」


「ニーケー様と直接ですか?」


「貨幣管理部門では、アトラス領に相談して、工場の設備の一部を利用させてもらっていましたから、アトラス領でも良いかもしれません。

ただ、量に依るとは思います。

通貨を新規に発行する程度であれば、然程の量ではありませんが、市中にある銀貨、銅貨となると……。」


「その為に、先程、どのぐらいの量になるのかを聞いたのだ。」


「あっ、そうでしたな。申し訳ない。

金貨は凡そd90ミロガリオン、銀貨は凡そd100ミロガリオン、銅貨は凡そd30ミロガリオンであろうと想定しております。

ただ、金貨については、市場に出回っていないこともあり、これより多いだろうとしか分らないのです。」


「膨大な量ではないか!それが金額であるとすれば、重量では……」


正確に計算しても、意味が無いので、概算で算出してみた。


金がd3サンドキロ(≒5ton)、銀がd2クアトサンドキロ(≒4百ton)、銅がd5ミロキロ(≒14千ton)……。

銀や銅は、とんでもない量だ。

こんな大量の貴金属を王宮やその近郊に保管という訳にはいかないだろう……。


「やはり、かなり巨大な保管場所が必要になりそうだな。」


「そのようです。やはり、北東の極地に保管場所を確保する事になりますか……。

ところで、この膨大な量の銀と銅はどうされるのですか?」


「少しずつ、市場に流して、銀と銅の価格を下げていこうと考えている。

まあ、先の話だがな。」


「価格を下げるのですか?」


「ああ。市場から、本位貨幣を駆逐するのに利用する。

紙幣に移行する布告を行ない、一定期間は、同額の紙幣と交換する。

それが過ぎたら、貨幣の金属の価格に見当った紙幣と交換だ。

もともと混ぜ物があって、紙幣の価格よりは本位貨幣の価値は低いのだ。

金貨は膨大に保管している領主達が、損失を受けないために、目の色を変えて、紙幣に交換しようとするだろう。

問題は銀貨と銅貨だ。

こちらは、貨幣管理長官が言っていたように市中に出回っている。そう簡単に紙幣と交換しようとはしないかもしれない。

しかし、目に見える程に、銀と銅の価値が下ったらどうなる?

我先に紙幣と交換しようとするだろう。

そして、商人達は、銀貨や銅貨で取引をするのを拒むようになる。」


「そこまで、考えておられたのですか。

しかし、そうなると、テーベ王国との銅の価格差は、ますます広がってしまうのではないでしょうか?」


「だから、まだ先の話と言ったではないか。

順にやっていくのだよ。

まずは、紙幣の作製からだ。

何とか1年以内に発行に漕ぎ着けたい。

そこから、1年ほどかけて、現在流通している貨幣との交換。

そのあたりで、銀と銅を市場に出して、銀と銅の価格を下げる。

そして、流通している金貨、銀貨、銅貨は、金属の価値に見当った金額でしか換金しないと布告する。

紙幣を貨幣と交換し始めた時点で、銅貨は通貨としての扱いを止める。

そうなれば、テーベ王国へ大っぴらに銅貨を持ち込むことを無くすことが出来よう。」


「今でも、銅については、規制を掛けていると聞いておりますが?」


「銅製品は禁輸している。

しかし、これまで、商人から銅貨を取り上げる訳にはいかなかったのだ。

商人が、銅貨を大量に所持していても、商いに使うものだと言い張られたらそれまでだった。

今までは、銅貨に代わる貨幣が無かったのだからな。

しかし、紙幣が出来れば、それも変わる。銅貨を、他の銅製品と同じ扱いができて、禁輸品として規制することも可能になる。

テーベ王国に銅が流れる事もある程度阻止できるだろう。

そして、銅貨の交換が終ったら、銅の流通を絞っていく。

多分、テーベ王国並に銅の価格が上がるだろう。しかし、テーベ王国は困ったとして、ガラリア王国では問題は無かろう?


今では、青銅の需要もかなり減ってきている。

銅の価格が、王国民の生活に大きな影響を与えることは無いと考えている。

それに、アイルに聞いたところでは、電気を利用する時には、大量に銅を使うらしい。

王国で大量に銅を保管しておいても、そのうち利用することができるだろう。


しかし、すぐには、こういった方策は取れない。

まずは、紙幣の作製からだ。

紙幣の準備が早ければ、早い程良いとは言えるな。」


紙幣の作製は、財務省の業務となったのだ。

担当のデニスには、急がせる方が良いのだろう。

ただ、たったの1年で、必要となる大量の紙幣など、作製できるのだろうか……?


そもそも、紙幣という物はどういったもので、どうやって作るのだ?

宰相閣下は、現物をご覧になったのだろうか?


「最後の懸念事項は、偽造が防げるかという事です。

紙幣というものが、実際にはどの様な物なのかが不明ですので、何とも言えませんが、真似されて同じ様なものを作られたりしないか心配です。」


「まだ、メーテスやアイル、ニケには実施する事を伝えていない。

実際に紙幣というものを試作してもらって、それからの判断にはなるな。

しかし、あの二人が実施する事だから、問題は無いであろう。

試作には、人手が必要であろうから、アスト財務長官に依頼していた人員派遣は急いでもらわねばならない。

頼むぞ。」


アイテール様やニーケー様への絶大な信用の根拠が不明だが、そう言えば、まだ何も実行してはいない。

宰相閣下も、実際の紙幣という物を見てから判断されるのだな。


可哀想だが、デニスには、急いで移動してもらわなければならない様だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ