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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり 1
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21.重量計

夕食後、部屋に戻ってみたら、新しい花が飾ってあった。

セアンさんが摘んでくれた花だね。


暗いのであまりはっきり見えない。明日の朝また見よう。


少しだけ花の香りがする中で眠りに就いた。


朝になった。やっぱり花のある部屋は明くていいね。

なんか嬉しくなってくる。


朝食をアイルと食べる。


今日は、もともと、午前中は教育の予定だった。

ここ四日は、業者と会ったり、作業したりだったからね。


ところが、昨晩、アイルが、もう少し作業することがあると言ったことで、今日も午前中から、作業予定に変更になった。


アイルに今日は何をするつもりなのかを問い質す。

重量計を作って確認したい事があるらしい。


確かに重さが計れないのは、いろいろ不便だ。


朝食が終って、ウィリッテさん達を、待っているときに、アイルがバネの素材を聞いてきた。まあ、鋼があれば、バネにはなるだろうけど。


一体どのぐらいの重さを計るつもりなのかと聞いたら、せいぜい100kgぐらいだと言う。

太めの形状でバネを作れば、鋼で十分だと答えると、安心していた。


バネ用の金属は様々ある。バネは、構造的に疲労破壊しやすい。そのため、硬さと粘りが要求される。

本当は鋼よりも良い金属はあるんだけど、元素をほとんど入手できていない今の状況では、鋼一択しかないのだよね。


ウィリッテさんとカイロスさんがやってきたので、作業場所に移動する。


倉庫に入ると、クロム酸鉛の鉱石が届いていた。これからクロムを入手すると、多量の酸化鉛が残る。

実は、砂や、これまで鉄を取っていた、三酸化二鉄もそうだけど、必要な元素を取り除いた残りがある。


多分、まだ入手していない元素が存在するのだろうけど。

中には、水銀やカドミウム、砒素などの毒もあるだろう。

どうやって保管しようか。


今は、残滓として倉庫の端の方に纏めてある。そのうち、保管するための容器が準備できたら、分離しておく方が良いかもしれない。


保管は、ガラス瓶だろうな。樹脂製の袋なんて無いしね。


アイルはあっというまに、古い温泉施設にある体重計みたいなものを作ってしまった。

重さを量る台座があって、上部に丸いメーターがある。昭和レトロみたいなやつ。


しかも2台。


大量に色々作ってたから、随分と変形の魔法というか、機械のイメージをするのに慣れてきたんだろう。


この程度の物だと、誰かの手を借りることなく、一瞬で組み上っていた。


アイルが作業している間、私は、クロム酸鉛の鉱石から金属クロムを取り出していた。


その間、大きめの体重計の方では、カイロスさんが、台座に乗ったり降りたりしている。あれは……、遊んでいるな。


侍女さんに水を持ってきてもらったみたいだ。


カイロスさんに、ちょっと前に作った容器を載せてもらい、ゼロ点調整をする。

容器に水を入れて、容器を載せてもらい、針の位置に目盛を入れている。


たしか、あの量の水で、重さの単位にする予定だった。


地球と重力が同じじゃないけれど、質量では1kgぐらいのはずだ。


魔法で表示板の表面の形を変えた。魔法を使い熟しているね。


鋼を少し取り出して、秤の上に載せた。少しずつ取ったり付けたりして、目盛の位置がさっきの水と同じになる鋼の量を調べている。


一致する重さになったら、直方体に変形させて、寸法を計ってる。

そのあとは、大量に同じ大きさの鋼を作っていた。


侍女さんの一人に若い騎士見習いさんを探しに行ってもらっていた。何をするんだろう。


騎士見習いさんがやってきた。


さっき作っていた、鋼の塊を一つずつ載せてもらって、魔法で目盛板に目盛を付けてる。


今度は、一つずつおろしていって、目盛と比較している。どうやら満足したみたいだ。バネの塑性変形を確認したかったんだな。


今度は、騎士見習いさんに体重計で踏み台昇降運動させている。


アイルに聞いたら、耐久性の試験をしているんだって。


いくらなんでも、それは、騎士見習いさんが可哀想じゃないかな。騎士見習いさんは、訓練みたいなものですと笑っていたけど。


多分、500回ほど踏み台昇降してもらって、また、重さを計ってみている。

耐久試験も大丈夫だったみたい。かなり太めのバネを作って、ギアでバネの変化量を目盛に表示しているらしい。


精密機械みたいな秤になっているね。ギア比を変えると最大秤量値を変えることもできると自慢していたよ。旋盤の時の変速機の応用だって。


そして、2台目の方も目盛を同じ様に付けた。


『アイル。こっちは、確認しなくて良いの?』


『全く同じに作ったから、調べなくても、同じ性能になっているはずだよ。』


試みに、騎士見習いの人に、錘を10個載せてみたら、正確に10のところを針が指していた。全く同じなんだ。スゴイね。


私は、ステンレスに必要なクロムと鉄の重量を計ってもらえて、とても助かったんだけど、何で、体重計を作ったんだろう。


今度は、侍女さんにブリートさんを呼びに行ってもらったみたいだ。


その間、私は、せっせとステンレス鋼を作っていた。さっきまで、踏み台昇降していた騎士見習いさんが、まだ居た。興味津々という顔をして、私達がやっていることを見ている。


戻らないとソド父さんに叱られるんじゃないかと思って声を掛けてみた。ニカンドルさんと言うらしい。ソド父さんに、手伝いのために派遣されたらしい。


せっかくの、男手があるのならと、騎士見習いさんに、出来上がったステンレス鋼のインゴットを厨房に運んでもらった。


アイルに、明日、厨房用品を作ってもらえるように頼んだ。なんとなく心ここにあらずの感じがしたのだが……、ちゃんと言ったからね。


ちゃんと作ってね。約束だよ。


ほどなくして、ブリートさんがやってきた。この前ぶりだね。えぇっと、収穫を担当している偉い人だったっけ。カイロスさん達にソロバンを教えていたなぁ。


「ブリートさん、お忙しいところ、お越しいただきありがとうございます。

実は、収穫量を袋の個数で集計していると聞いたので、重さを計る道具を作ってみたんです。重量計と言います。

この道具が、収穫の時に使えそうか、確認してもらいたいと思ってるのですが、ご協力お願いできませんか。」


とアイルが言い出した。あぁ、この前、単位の話を聞いたときのことを引掛ってたんだと解った。

アイルとブリートさんが、しばらく話しをして、鋼の錘を上に載せて、目盛を見せていた。


あの体重計、もとい重量計を隣にいくつもある倉庫に運び込むことになった。そうだよね。小麦なんかの袋をこちらに持ってくるより、重量計を持ち込んだ方が早いよね。


と思っていたら、アイルは、重量計の下の鋼を変形させて、重量計の足を伸ばした。

足の間に車輪を取り付けててたよ。

だんだん本当に魔法っぽくなってきているよって、魔法だよな。


ブリートさんは、侍女さん達の一人に、文官詰所にブリートさんの部下を呼びに行ってもらっていた。


騎士見習いの人に、重量計を押してもらって、皆と一緒に隣の倉庫に移動した。


『ニケ。お願いがあるんだけど、集計の手伝いをしてもらえない。

どのぐらい重量がバラついているのか、見ておきたいから。』


『わかったわ。木簡に、重さを記録していけば良いのかな。でも、どうやって集計する。』


『平均や、分散の計算もしてほしいところだけど。計算自体は、今後のことを考えると文官の人達に教えてもらえるとありがたいんだけど。』


『うーん。マイナスの数とか、小数とかが分らない人達に、それはどうなんだろう。』


『そうだな。計算はオレ達でするしかないかもな。とりあえず、数字の記録はお願いしてみようか。』


倉庫の中は、袋がいっぱいだった。

ブリートさんの説明によると、ここは、万が一の時に使うために確保している小麦の倉庫だ。次の収穫まで、ここにある小麦は保管しておく。

次の収穫の時には、新しいものと置き換えて、この小麦は納入した商人に売却する。


文官の人達が10人ほどやって来た。棚の端から順番に小麦の袋を下して、重さを計って、木簡に記録していく。

言えることは、物凄くバラツキが大きいということ。

平均値の、3分の2とか2分の3倍とかの重量のものもあった。文官の人達にもそれが解ったみたい。文官の人達は、重さにこれほどのバラツキがあることに、少し驚いていた。


昼を挟んで、400個ぐらい測ったところで、簡単なヒストグラムを描いてみることにした。

私が、数字で記載された、重量の木簡を受けとって、階級を平均の48分の1に分割して、集計していくことにした。


日本だったら、「正」の字を書くんだけど、「田」の字を書くことにした。横方向に上からに三本線を引いて、そのあと左から三本縦に線を引く。こんな感じで集計していく。


見覚えのある正規分布のようにはなったんだけど、重量が軽いところに小さなピークがあるように見える。


その事をブリートさんに話してみた。ブリートさんから、どの棚にあった袋が軽いのかと聞かれた。


小麦袋の秤量は、棚の端から順番にやっていた。


重量が軽いデータは、固まっているみたいだ。

重量が軽い小麦袋のあった棚が見付かった。


再度、該当する棚にあった小麦袋の重量を計ってみて、該当データの範囲がはっきりした。


倉庫に置いてある袋には、全て小さな木の札が付いている。木の札には何かが書いてある。その木札を見たブリートさんは、考え込んだ顔になった。


その領域のデータを除いて集計すると、綺麗な正規分布になった。


ブリートさんは、木札で小麦袋を選択して、部下の文官に秤量していく。

この頃には、集計やヒストグラムの作りかたを文官の人は理解していた。


指定されて秤量した小麦の重さは、先程の正規分布したデータより、3/24ぐらい、平均値が小さくなっていた。


この値は、先程の正規分布の標準偏差の値ぐらいだ。


正規分布しているサンプルの平均値の相違に意味が有るかどうかを確認する場合には、一般にはt検定をする。

ようするに、偶然平均値がズレているというのが、確率的にありえるのかどうかを計算するのだ。


ただ、検定しようとすると、確率分布関数の積分をしないとならない。それは、流石にしたくないし、出来るとも思えない。便利な表やコンピュータが有る訳じゃないから。


集計した結果を聞いたブリートさんは、グルムさんを呼ぶように、部下の一人に指示していた。


この間に、アイルは、侍女さん達に手伝ってもらいながら、先日の木材の余りを使って、なにやら作っていた。あれは、小中学校の保健室に有った、身長を計る道具だ。しかし、何でそんなもの作っているんだろう。


『アイル。それ、身長を計る道具だよね。それで何するの?』


『アウド父さん達の身長を計って、体重を計るのさ。』


『何のために?』


『身長と体重を計ることで、長さの単位と重さの単位の大切さが分ると思って。

できれば、今回、アトラス領標準の長さの単位と重さの単位を決めてもらおうと思ってるんだ。』


『それで、単位はどうするの?』


『重さは、大体10cm立方の水の重さにしたから、多分1kgぐらいだと思うんだよね。

長さは、大体10cmを単位にするつもりなんだ。

うーん重さはキロ、長さはデシが良いかな。』


グルムおじさんが来て、ブリートさんが説明している。

どうやら、同じ商店から納入された小麦袋を選んで重さを量ったところ、他の小麦袋の重さより軽かったらしい。


どうやら、木札には、納入した業者さんの商店名が書かれている。

昔、作物の量をゴマかすために、石や砂が入っていたことがあった。

納入商人の責任を明確にするため、袋に店の名前が書かれた木札を付けることになっている。


ただ、グルムおじさんは、収穫して半年近く経ってしまっているので、今さら事を起こしてもトボけられてしまうだろうと予想しているみたいだ。


アイルが、袋で納入されるのは良いけれど、納入時に重さを測った方が正確だとグルムおじさんに、伝えている。

集計した重さに応じて、購入金額を支払うべきだとと主張していた。

小麦の量に酷くバラツキが有ったことを見ていた文官さんたちも、アイルに賛同している。

どうやら、それは受け入れられるみたいだ。


グルムおじさんは、収穫の際の受け入れ方が、少し変わることになるけれども、検討したいと言っていた。


だいぶ日が傾いてきたので、領主館に帰ることにした。騎士見習いさんも帰っていった。


文官の人達に、重量計を1台預けた。

その場にいた文官の人達にお願いして、残りの1台と、身長計を領主館に運んでもらった。

領主館に着いて程なく、夕刻の鐘が鳴った。


今日の収穫量の問題が有ったので、グルムおじさんも夕食を一緒に摂ることになった。

最近、私が領主館に泊っているので、父さんと母さんも夕食を一緒に摂っている。


夕食の席で、グルムおじさんが、重量計の話をして、特定の商店の小麦袋にかなり明確な収穫量の誤魔化しがあったことをアウドおじさんに伝えていた。

アイルの意見を聞いて、収穫量を重量の計測確認することが必要だと言っていた。


『また、アイルとニケが変わったものを作ったのだな。』とアウドおじさんが言う。


いえいえ、私はなぁんにも関与してないよ。


アイルが、人の重さと背の高さを計れると言うと、皆興味を持ったみたいだ。


食後に、皆で身長と体重を計ってみた。


アウド :18L    デシ、71+1/6 キロ

ソド  :18+3/12デシ、75+1/3 キロ

フローラ:17+1/3 デシ、65+1/12キロ

ユリア :17+1/2 デシ、66+7/12キロ

アイル : 7+1/2 デシ、 9+1/3 キロ

ニケ  : 7+5/12デシ、 9     キロ

グルム :16+1/2 デシ、74+1/4 キロ


お父さんは、背が高いんだろうとは思っていたけれど、お母さん達も背が高かった。


グルムおじさんは、思っていたとおりに太りすぎだ。


グルムおじさんは、アウドおじさんと父さんに体重が重過ぎるとからかわれている。


アイルと私の身長と体重の測定ができることに、両親達は大喜びしている。

これから時々記録すると言っていた。


私も感慨深いよ。多分標準的な体重で生まれていれば3キロぐらいだから、3倍に成長したんだね。

いやぁ大変だったな。育つだけで、こんなに大変だとは思わなかったよ。

前世でもそうだったんだろうけれど、全然覚えていないからね。


アイルと、アウドおじさんとグルムおじさんは、長さと重さの単位の話をしていた。

掴みネタとしては、かなり上手くいったんだろうね。不正を見付けて、子供の成長記録ができるなんて。


単位の統一の件は、絶対採用されるだろう。


アイルは、なかなかの策士だったね。


長さの単位で作った立方体の水の重さを重さの単位にすると言ったら、感心していたよ。


別に私達が発案した訳じゃないけどね。


次の収穫の時に、全数になるかどうかは分らないけれど、収穫の時に重さを計ることになった。


そして、重さの単位と長さの単位が領内に布告された。

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