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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
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82.金融

また、経済研究室の打ち合わせの日になった。


あいかわらず、ロッコさんとバールさんのお二人は、ニコニコしている。

今日も、アイルは不在だ。


今日は、幾何学の実習なんだそうだ。

うーん……完全に逃げられているな……。


二人は、私が来る前から待っていたみたい。何故にそれほど積極的なんだ……。


例によって、コリンナさんがお茶の用意をしてくれた。

私達の前にお茶とお茶菓子が置かれて、会議をすることにした。


前回は、少し熱く語ってしまったから、今日は、現状を聞いてあとは雑談だな。


会議を始めたところで、バールさんが爆弾を投げ込んできた。


「ニケさん。宰相閣下から、是非、金を裏付けとした貨幣制度に移行したいと連絡がありました。」


「へっ?」


気が緩んでいたところに爆弾を放り込まれて、変な声が漏れてしまった。


それを見てなのか、なんともバールさんは、嬉しそうだな……。


だけど、そんなに拙速に移行する事を決めてしまっても良いのか?

事前に色々確認や検討する事がある筈なんだと思うぞ?

私は詳しくないから分らないけど……。


嬉しさが抑えきれないのか、バールさんは、巨体に禿頭という風体でニッコニッコだ。

そのあと、宰相閣下との遣り取りの経緯を教えてくれた。


先週、私が金、銀、銅の3種類の金属の価格統制は止めて、対象を金だけにすることや、それに伴なって貨幣も実体のある本位貨幣じゃなく紙幣にするという方法もあると話をした。


これまでの遣り方を続けていくのは、調整が大変そうだったし、どこかで破綻する可能性があった。既に銅は余っていて、銀が足らなかったようだし。

王国のお金の話だ。破綻しそうになっていて、手が無いなんて状態を看過して良いものじゃない。ちゃんと事前に対応策を練って置くべきだろう。


だから、私としては、こんな方法も有るから、研究してみたらどうかとお勧めしてみたんだ。

制度そのものをお勧めした心算は微塵も無いんだよ。

あの日は、研究室で「何を研究するのか」って打ち合わせの場だったよね。


研究してみれば、もっと良い制度が見付かるかもしれないし、仮に金本位制の紙幣を採用するとしても、十分な検討をした上で、王国で取り入れ易い形を探求できるだろう。


ところが、バールさんは、「私がこんな制度を勧めてきた」と詳細な手紙を宰相閣下に向けて書いたらしい。

宰相閣下は、その手紙の内容を見て、制度を実現するための相談をバールさんたちと無線で始めた。


そう言えば、国務館にも無線機が有ったんだったな……。


閣下は、最初から実施を前提で話をしていたんだそうだ。

その背景には、隣国の状況がある。


ジュペトさんが、無線で緊急連絡を王宮に入れてきたらしい。お隣のテーベ王国の通貨制度が破綻しかかっていると。

今、銅製品の輸出を止めているけれど、それだけでなく、金製品、銀製品の輸出への対応が必要になる。


下手をすると、ガラリア王国の金、銀、銅の相場も影響を受けるかもしれない。


今は、隣国の戦争準備に利する事にならない様に、銅製品がテーベ王国に流れ込まないように取締っている。

しかし、何しろ、ガラリア王国とテーベ王国の国境は長い、価格差が大きいと持ち込んで利益を得ようとする者も増える。

それに商人が貨幣を持っている事を表立って咎めにくい。

そんな訳で、完全に止める事は出来なくて一定量の銅がガラリア王国からテーベ王国へ流れていっているらしい。

隣国へ辿り着いた銅貨が鋳潰されて、銅の地金になってしまえば、証拠なんて残らない。


そうこうしているうちに、隣国の混乱が、こちらにも伝わって来るかもしれない。

そんな事を怖れているみたいだ。


何という事でしょう。

早急さっきゅうに金の純度を上げるための工場を作らなきゃならない?

紙幣を印刷する工場も……。


何てバッドタイミングなんだ……。


ようやく念願の学術的な教育機関で過す事が出来るようになったばかりだというのに……。


ん?王国にとってはグッドタイミングだったのか?


はぁ。


否応無く巻き込まれるんだろうな。

何か、いっつもこのパターンだ。


口は禍いの元だね。思えば、鉄もガラスもコンビナートのあれこれも、電気も……私達が黙っていれば、何も起こらなかったかもしれないんだよ……。


でも、そのお陰で、ノルドル王国に侵略されなくて済んではいるんだよね。

国王陛下公認でアイルと婚約できたしな……。


まあ、しょうがないか。


それから、バールさんに、宰相閣下の目論見を聞いてみた。


ノルドル王国との戦争の切っ掛けを作った、ノアール川流域にある金鉱脈については、閣下も良くご存知だった。

そして、その場所は、簡単な調査しかしていない。だって、採掘しようにも、遠すぎてメンドウなだけなんだもんね。至急、金の埋蔵量の見積を出して欲しいんだそうだ……。

まあ、これから暖かくなるから、あの北のはずれの場所も行き易くなるんだろうけど。


そして、紙幣の印刷装置も至急開発して欲しいのだそうだ。

これは、アイルだね。

ふふふふふ。

逃さないわよ。

あっ、インクがあったな。インクを考えなきゃならない……。

あとは、紙幣のデザインだよな。私もアイルもその方面の才能が有るとは思えないんだよね。

これは……どうしよう。

バールさんにでも相談しようかね。

写真館で忙しそうだけど、アイルが頼んだら、拒否は出来ないハズだな。


そして、金の精錬方法を確立して欲しいんだそうだ。

今、金、銀、銅は様々な領地で採掘した鉱石から灰吹法で貴金属を取り出しているらしい。金の純度は、領地によって様々で、さらに作った時期によっても変動しているらしい。

同じ金として扱って良いのか、ずっと不満だったみたいだ。

アトラス領の金は、微量の不純物が入っているんだけど、安定している。

一応、2/d100(=1.4%)ぐらいの不純物が有るとは伝えてある。

金については、特に精製をしていないんだけど、同じ鉱山から採掘していて、不純物純度は安定している。特に銅や銀が含まれていないのが大きいんだろう。

そして、保有していた銀や銅は、私の知らない内に、コンビナートで電気精錬をしていったらしくて、純度については問題が無くなっているんだそうだ。

まあ、それは設備の有効利用だから構わないんだけど……。


金の純度を上げようと思うと、色々危い薬品を使うことになるんだよな。

一旦金を水溶液中に溶かして、電気精錬をするんだけど、金はそう簡単に溶けてくれない。使う薬品は、塩素とか、青酸とか、王水とか……。

この世界で安全に作業してもらうには、どうするのが良いのだろう。

化学研究所での初仕事かな。


これらの事の実現性が明確になったら、早々に貨幣制度を変更するつもりらしい。それも、早ければ早いほど良いらしい。

隣国の状況が読めない為、対抗措置の準備だけは、急いでほしいんだそうだ。


特に銅の価格については、隣国に合わせる様に価格調整を行ないたい。

そうしないと、ガラリア王国の銅貨が隣国の武器になって、隣国の侵攻が早まるだけだろうと思っている。


「でも、今の貨幣の流通量は、分っていないんですよね?

どんだけ、金を準備する心算なんです?」


「金貨を紙幣に変更する時に、金は手に入るんだよね。問題なのは、銀貨と銅貨の分なんだ。それに、ニケさんは、全ての流通する通貨と同じだけ準備しておかなくても良いと言っていましたでしょ?」


「まあ、そうは言いましたけど……。」


「通貨の変更をしたら、自ずと流通量も分りますし、宰相閣下は、銀貨と銅貨を市場から全て吸い上げる方法を考えているみたいです。」


「そんな事、出来るんですか?」


「今、考えているのは、紙幣への切り替わりの時に、保有している銅を放出して値を下げる心算らしいです。

当然、銅が隣国に流れないように、国境で銅製品や銅貨の持ち出しは厳重に阻止します。

銅貨の回収が終わったあたりで、順次銅の流通を止めていって、隣国の銅の価格に合せていくんだそうです。」


「えーと。それは、人為的に銅の価格を変動させるんですか?」


「ええ。だけど必要な資金は、紙幣を印刷すれば、いくらでも手にできますから。そのためにも、紙幣への変更で通貨の流通量を調べながら、金の保有可能量を増やしたいんですよ。」


「……」


何か、悪魔の所業のような気がしてきた。

上手くやらないと、インフレが起るんじゃないだろうか……。

でも、私が考えることじゃないか。

まあ、上手くやってくれよ。


そう言えば、隣でしたり顔でニコニコしているロッコさんが不思議だ。


「ロッコさんは、この件に関わっているんですか?」


「ええ。これまで、各領地で産業を興したいと思っても、資金の問題があったんです。」


話を聞くと、これまで、何かの産業を興そうとしても、現物の貨幣が無いとどうにもならなかった。

資金不足で、途中で断念という事例が非常に多かった。

王国中の産業の状況を調査していただけあって、そういった情報は大量にあるらしい。


先週、紙幣は王国が発行する手形みたいなものだとか、準備する金は全てじゃなくっても王国の信用があれば、どうにでもできる。

そんな話を聞いて、ひょっとするとどうにかできるんじゃないかと思い付いたらしい。


これまで、王国が資金を貸し出すのには、色々制限があった。そもそも流通する通貨は、保有している金、銀、銅の一部だった。

その制限を回避して、資金を準備する方法が構築できると思った。

当然ながら、信用出来ない領主や計画に金を貸すことは出来ない。

信用調査する部門が必要だ。

そして、紙幣を手形だと思えば、それを決済するための仕組みが必要だと気付いたらしい。

投資銀行みたいなものだろうか?


そんな事を考えたら、アトラス領に既に似た組織がある事に気付いた。

商業ギルドだ。

ここに、資金を提供して貸出や決済をさせれば良いんじゃないかと。


そんな計画を、無線で話し合いをしている時に宰相閣下に相談したんだそうだ。

閣下はとんでもなく乗り気になった。


そこで、今、アトラス領にある、ギルドの仕組みを全国に展開させて、各地の産業振興を実施するための話し合いをしているらしい。


なるほどね。商業ギルドが銀行になるって訳か。


「商業ギルドの仕組みを考え出したのはニケさんだそうですね?」


まあ、そうなんだけど、銀行にする心算なんて無かったよ。

安全に契約が出来る手助けをしてただけなんだけどね。

ギルドって、前世のラノベの知識だったりするんだけど……。


「まあ、そういう事になってますけど……。」


何だか、そんなヤバそうな目付きでニコニコされてもなぁ。


そんなこんなで、貨幣管理部門と、産業管理部門は大幅に陣容を拡大することになったらしい。


そして、秘匿性を高めるために、紙幣の検討は、メーテスの経済研究室で実施することになったんだそうだ。


そりゃ、ニコニコが止まらない訳だよ。

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